いつから皮肉を覚えたの?
神聖国・都の遠方
「隊長!」
「怯むことは許さん! 全機突撃!」
先頭を行くペガサス騎士の号令に後に続くペガサス騎士が一糸乱れずに動く。
目標は左宰相から指示を受けた場所……丘の一部を削り作り出された洞窟だ。
この場所で人を材料にして恐ろしい研究が続けられているらしい。
丘を完全に破壊することは難しい。
だが洞窟の上部を破壊し洞窟を埋めることならばできる。
何より現在宙を舞うペガサス騎士たちは、神聖国でも名の売れた者たちだ。
『ヴァルキュリアの乙女』と呼ばれる魔法を操る女性たちで構成された部隊である。
彼女らの攻撃は簡単だ。
全員が一つの魔法を覚えそれだけを使う。
放たれる魔法は『雷』だ。
魔法使い1人の雷撃では空気中に霧散しそれほどの威力を発揮しない。けれどヴァルキュリアの乙女と呼ばれる者たちは総勢50名だ。その50人が全員で雷を放つ。
数で補った威力は大魔法にも匹敵する。
先頭を行く者の号令で雷の魔法が放たれた。
その一撃を受けた丘はガラガラと音を立てて崩れ落ち……洞窟の入り口を完全に塞ぐ。
受け取った情報が正しければ、残る穴は空気口として作られた小さな穴だ。
中に居るであろう右宰相が進めている研究材料たちは……理性を失い魔法は使えないと聞く。
崩れた瓦礫を退かすまでに共食いを始め全滅することだろう。
「報告!」
「……全員無事です」
「良し!」
ひと際大きいペガサスに跨っている隊長と呼ばれる人物は、部下たちの方へと顔を向けた。
「ならば次の任務へ向かう」
「「はいっ!」」
迷うことなく返事をしてくる部下たちに、隊長はその太い腕を動かし示した。
「分かっていると思うが我々の敵は強大である」
敵の強さは計り知れない。国民の大半がその存在を知らない神聖国に古くから存在する厄災。
三大魔女と呼ばれし存在の1人……始祖の魔女が生み出したとも言われる恐ろしい存在だ。
余りにも恐ろしいからこそその名を残すことも許されていない。
名を刻むことでその厄災が力を増すとも言われているからだ。
「大半の部族たちが中央に向け兵を動かしている。我々も都に寄り、補給をしてから中央へ向かう」
「「はいっ!」」
元気な返事に隊長は苦笑した。
これから間違いなく自分たちが迎える戦いは凄惨な物になる。
きっと部下たちの多くも命を失うことになるだろう。
けれどそれでも自分たちは最前線で戦うことができる。
『女のくせに』と言われ、神聖国でも最強部隊であるはずの彼女たちは閑職に追いやられていた。
男尊女卑が強い風土であるから仕方が無いが……それでも地方で色々な経験を積んで強くなることが出来た。都から追い出された頃よりも強くなっているはずだ。
「……都に行くついでに右宰相の屋敷に一発お見舞いするか?」
「隊長?」
「冗談だ。うん冗談」
大柄な隊長は副隊長の言葉に笑って誤魔化す。
部下たちが半数ぐらい賛同してくれたら……とか思ったことは胸の奥にしまっておく。
「まあ何だ。都の守備隊であるペガサス騎士も居るから無理はできないな。うん。残念」
「隊長?」
副長のツッコミなど受け流し、カラカラと笑い大柄な隊長は部下たちに移動を指示する。
色々と憂鬱な気分になるが、まずは都に行って補給が先だ。
「移動を開始する」
「「はいっ」」
「間違っても都の衛視共に絡まれるな。殺すと面倒だ」
隊長の言葉に全員が何とも言えない視線を向け……移動を開始した。
都の郊外
『師匠』
「何よ?」
『……』
「まあ言いたいことは分かるけどね」
微かに笑いメイドの姿をした女性は、地面の上に落ちている真っ黒な石を拾い上げる。
「金剛石よりも固くマグマでも溶けない……本気の私が放った『石棺』はあのフワフワメイドの魔法よりも強力よ」
その結果としてこの石はもう二度と元の姿には戻らない。
『それが不老不死なのですか?』
「まあね」
寂しく笑い、手にしていた石を放り投げる。
遠くでカンカンと音を立てて……もうどれだか分からない。
気合を入れて探せば見つかるだろうが、石を投げた人物にその気など微塵もない。
「万人が望み悠久の時を生きたいと願う魔法使いが作り出そうと躍起になる最低最悪の魔法よ」
作った本人がそれを言うのは皮肉でしかない。それを自覚している人物はゆっくりと歩む。
掌に乗る程度に圧縮された石ではあるが、その石となった存在には感覚などちゃんと伝わる。永遠に周りの様子を見つめ……やがて願うだろう。終わりを。
「どうして不老不死なんて願うのかしらね?」
『でも一応不老不死なのですよね?』
「ええ。あの状態から老いることはない。朽ちることもない。仮にこの星から外に出たとしても、あの石は変化することなく生き続けることでしょうね。
敵はブラックホールやスーパーノヴァやそこら辺かしらね。実験してないけど」
『異世界の言葉は分かりません』
「あら? 覚えておいて損はないわよ? きっとお兄さまがポロッと言うかもしれないから」
『ならその単語の内容は?』
「自分で調べなさい。偉大なる三大魔女が残した言葉としてどこかの国に伝わっている可能性もあるから」
『師匠?』
「ただこの国には残っていないかもしれないわね。この国は召喚の魔女と始祖の魔女の言葉が……あれ? そう言えば酔った勢いで私も結構色々と喋った気がするわね。
うん。大丈夫。変なことは言ってないと過去の自分を信じたい」
『師匠?』
「仕方ないでしょう? リーアの阿呆は百合っ気たっぷりの引っ込み思案系だし、ユーアの糞は自分が気に入った人しか側に置かなかったしね。
おかげで何かあると私が前に出て演説とかするしかなかったのよ」
『だから師匠の言葉が多く残っているんですね』
「そうとも言うわね。これでも私も人見知りだったんだけど」
『あはは。笑えない冗談ですね』
「ちょっと弟子? いつから皮肉を覚えたの?」
『ちょっと前ぐらいからです。師匠に対してのみですが』
「ほほ~う。この弟子? この私に逆らうって言うのね?」
『逆らいません。反発はしますが』
「判決。有罪」
『……師匠?』
独り言をしながら歩くメイド姿の女性はスルスルと着ている服を脱ぎ始める。
あっという間に下着姿となり、弟子が発狂したように声を上げた。
『ししょう~! それ以上はダメです!』
「大丈夫よ。今は大人だし~」
『もっとダメ~!』
泣き叫ぶ弟子に高笑いをし、下着姿の女性はその場で立ち止まると軽くポーズを決めた。
「完璧な造形よね。早くこれぐらい育ちなさい」
『……師匠? 私は本当にそれぐらい育つのですか?』
「許してくれるなら改造するけど?」
『……』
何て誘惑的な言葉だろうと……弟子は心の奥底から考えた。
「ほ~れほれ。胸だってこうして下から支えて持てるくらいに」
『しばらく考えるのはありですか?』
少しだけ考えたい。
お願いしたい方向に大きく気持ちが傾いていても即決は危険だ。
何せ相手はあの刻印の魔女なのだから。
「別に良いけど、のんびりしていると成長期が終わっちゃうから急いだ方が良いわよ? 成長が止まった体を色々と弄れるのは……あの糞弟子ぐらいなものだから」
不機嫌そうな声で女性は鼻を鳴らす。
『弟子ですか?』
「そう。あの馬鹿よ」
ため息を吐きながら女性は身に着けている下着を外す。
全裸となり状態を確認してから……改めてポーズを決める。
「へ~んしんっ!」
掛け声とポーズは大切だ。
その二つが揃ってなければ変身は出来ない。
光輝いた女性の体がドロリと溶けて……中からドレス姿の少女が姿を現した。
「この方法は姉様が近くに居ないと使えないわね」
『そうなんですか?』
「魔力がね……次の方法を考えるしかないわね」
全身を軽く震わせ残っている液体を飛ばし、少女は辺りを見渡した。
「着替える?」
『はい』
「なら交代で」
『はい』
告げて師である刻印の女は体の支配権を弟子へと戻した。
~あとがき~
ようやく出せたよw
どのタイミングで出すのかずっと悩んでいたヴァルキュリアの乙女たち。
神聖国のペガサス騎士たちの中では最強の部隊です。
その隊長は…頑張れ主人公とフラグを立てておく
© 2023 甲斐八雲
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