分身しても無理っ!
「いやぁ~」
「見ろ~。その目を良く開いて見るのだ~」
「嫌よ~。あんな恥ずかしいこと……むりぃ~」
絶叫する女性を押さえ込み……レニーラが嫌がるパーパシを無理矢理羽交い絞めにし、強制的に何かを見せている様子が伺える。
器用に抑え込んで両手で閉じようとする瞼を開いているのだろう。本当に器用だ。
「もう2人とも」
「助けてセシリーン」
「無駄な抵抗は止めろ~」
「嫌よっ! あんなの見たところで、」
抵抗するパーパシの声が止まった。ついでに言うと呼吸も止まっている。
「むりぃ~!」
大絶叫だ。正直セシリーンとしては耳の奥が痛い状況だが仕方ない。
何よりも短い睡眠となってしまったが、このメンバーに囲まれて熟睡など最初から無理な話だったのだ。仮眠が取れただけ良しとするべきなのだろう。
そもそも現実逃避から少し眠りたくなった程度だったのだから。
ただ仮眠のせいで状況が分からない。
レニーラとパーパシが騒ぎ、可愛い猫がお腹を避けて抱き着いている。
ホリーとアイルローゼの気配も音もしない所から精神的に死んでいる魔女を捨てにでも行ったのかもしれない。
何気にホリーは綺麗好きだ。
見えないセシリーンとしては音を拾うだけなのだが、外から聞こえる水分多めの音は……何をどうしたらそんな音が止まらず、尚且つ獣じみた男性の咆哮が木霊しているのかも気にはなる。
「ねえレニーラ」
「分かってる。口を塞いで」
「もが~!」
「じゃなくて」
煩いは煩いがして欲しいのはそれではない。
抵抗するパーパシが違った意味で哀れに思えるが。
「どんな状況なの?」
「ん~」
軽く首を傾げ、レニーラはパーパシの口を押える。
「マニカが大勢の男性を一方的に襲っている感じ?」
「……私の耳がおかしくなったのかしら?」
それともレニーラの頭が悪くなったのか?
「普通襲われるのは1人の方よね?」
「だね~」
舞姫の返事はとにかく軽い。
確かにマニカは魔眼の中でも有数に入る嫌われ者だ。
嫌われ者だが、セシリーンとしてはさきほどまでの振る舞いを考えると、ただその前の時は殺されているから……色々と複雑だ。
「でも仲間の1人が外で大勢の男性に犯されるのは」
「違うって。犯してるのは一方的にマニカの方だって」
「……」
やはり会話が噛み合わない。
こういう時はホリーに聞けば良いのだが、生憎と彼女はまだ戻って来ない。
「ねえファシー」
「……」
フニフニと胸に頬を押し付けている猫に手を伸ばすが、何故か猫は頭を振ってその手から逃れる。
まるで自分の記憶を見せたくないかのようなそんな感じだ。
「どうして抵抗するの? お母さん悲しいわ」
「……にゃん」
軽く鳴いて猫がスリスリと胸に頬を擦り付けて来た。
「だ、め」
「どうして?」
ようやく聞こえてきた声は猫語ではなくファシーの物だった。
「お母、さんの、お腹の、子供に、良くない」
「そんなに酷いの?」
「にゃん」
そう言われるとセシリーンは不安になって来る。
いくらマニカが強くとも、やはり多勢に無勢だったのだと。
「むり~」
レニーラの手から逃れたらしいパーパシがまた騒ぎ出した。
「出来るよパーパシなら」
「無理だからっ!」
「どうしてさ?」
「だってあんなの……分身しても無理っ!」
『分身しても?』
首を傾げるセシリーンは耳を傾ける。
「どうしたら同時にあんなに……無理無理無理だって! 人の手は二つなんだから!」
「出来るよパーパシなら!」
「無理よっ! それにどうしたらあんなに搾れるのよ!」
「……頑張っているから?」
「むり~!」
パーパシがまた逃げ出そうとして、それをレニーラが抱き着いて抑え込む。
何だかんだでこの2人は昔から仲が良い。
「ほ~らパーパシもあんな風に座り込んで四方八方から」
「だから無理だって!」
「もうっ……この童貞殺しが可愛い反応を」
「アンタ! それを言うなら本気で殺すわよっ!」
「やれるもんなら、ごめんなさいっ! 迷うことなく分身は卑怯だって~!」
1対1が2対1になったらしく一気にレニーラの形勢が不利になったらしい。
『下着を返して~!』と舞姫が騒いでいる様子から、きっと見てて恥ずかしいことが繰り広げられているのだろう。
本当に仲が良い。
「ねえファシー」
「にゃん?」
「四方八方って?」
手を伸ばしてみるが猫はまた逃れた。
「見ない、方が、良い」
「そんなに酷いの?」
「は、い」
迷いなく抱き着いているファシーが答えた。
「もう、真っ白」
「……真っ白?」
「は、い」
やはり意味が分からない。
マニカが酷いことをされていて真っ白とはどういうことか?
「見ない、方が、良い」
また伸ばした手を猫が交わした。
「でも?」
「お母、さんは、もう……必要、ない」
「どういう意味かしら?」
すると猫がそっとお腹に触れて来た。
「もう、要らない」
「どういう?」
「あ~重かった」
ため息交じりで聞こえて来たのはホリーの声だ。
魔眼の中枢の入り口で立ち止まったらしい彼女は、何故か軽く舌打ちをした。
「こう言うのを見るとあの娼婦が化け物だと分かるわよね」
「ねえホリー? 一体何が、もごごっ」
猫の手により口を塞がれたセシリーンは言葉を乱す。
戯れている母娘に目を向けたホリーは、ため息交じりに口を開いた。
「マニカがたくさんの飴を咥えて遊んでいるのよ」
「……飴?」
「そう」
抱きかかえることで猫の抵抗を制したセシリーンが、ホリーの居る方へ耳を向ける。
「棒状の飴よ。まあアルグちゃんのと比べればどれも小さくて情けないのばかりだけど」
「旦那様の……」
ようやく全てのパズルが頭の中で繋がり、セシリーンは一気に顔を真っ赤にした。
「わっわたしは、そういうのは……」
「でしょうね。歌姫は喉を大切にするし」
「……そう言うことじゃなくて……」
恥ずかしすぎて身を小さくしたセシリーンは、心配そうに頬を舐めてくれる猫に感謝する。
「まあ歌姫はその猫と違ってああいうのは苦手よね」
「……猫と違って?」
ふと腕の中から逃れようとしている猫をセシリーンはほぼ無意識に掴んだ。
伸ばした彼女の手は、まるで目が見えているのかと聞きたくなるほど正確にファシーの背中を捕らえている。
「ちょっとファシー?」
「なぁん」
甘えた声を出して……間違いなく猫が何かを隠そうとしている証拠だ。
「舐めるってどういうことかしら?」
「知らな、い」
誤魔化し逃れようとする猫に対し、入り口に立つホリーは薄く残忍な笑みを浮かべた。
「その猫は舐めるの大好きなのよ」
「シャー!」
それ以上言うなとばかりに猫がけん制する。
だがファシーはズルズルと歌姫の元へと引っ張られた。
「舐めるの?」
「……にゃ~ん」
「舐めているの?」
「なはぁ~ん」
「ファシー?」
「……アルグ、スタ、様が、喜んで、くれる、から」
「……そう」
冷たい感じのする歌姫の反応に、猫は耳と尻尾を竦み上がらせた。
「そんな喉に悪そうなことをしてっ!」
あんな棒を咥えるだなんてとセシリーンは本当にファシーの身を案じた。
皆から狂暴だと言われているが、ファシーはとても小柄なのだ。色々と無理しているに違いない。
「でも、ノイエも、してる」
「ノイエもっ!」
衝撃の言葉にセシリーンは見えない目を剥いた。
あの愛らしい弟子が……そんな恐ろしいことをしているだなんて。
絶対に許せない。許してはいけない。
「まさかホリーも?」
「まさか~」
軽い口調の返事にセシリーンは胸を撫で下ろす。
「私は常に求める派だし、何よりあんな小細工をしなくてもアルグちゃんを喜ばせることができるから」
「シャーっ!」
自分の行為を小細工と言われた猫が怒った。
「私も私も」
「ちょっとレニーラっ!」
「あはは~」
パーパシに囚われている舞姫もホリーと同じ考えらしい。
そう判断すると自分もか……とセシリーンは納得した。
つまり異端は猫と愛弟子だ。
「ノイエとファシーの価値観を直さないと」
「ん~。はい質問っ!」
元気よくレニーラの声が響いた。
「どうしてダメなの?」
「どうしてって……昔から伝わる言葉にこういうモノがあるのよ」
応じたのはホリーだ。
「女性はお手洗いじゃないと」
「あ~納得」
「でもね」
壁に背を預けホリーは遠くに視線を向けた。
「その言葉を残したのって、あの刻印の魔女なのよね」
「「……」」
ホリー以外の全員が返事に困った。
だってあの刻印の魔女の言葉なのだ。あの。
「まあとりあえず」
気を取り直しセシリーンは声を上げた。
「ファシー。今度からそんなことをしちゃ、」
「リグも、魔女も、してる」
「「……」」
猫の発言に全員が何とも言えない表情を浮かべた。
「それに」
猫の声が止まらない。
「アルグ、スタ、様の、大きい、から」
「だね~」
認めるレニーラにパーパシはただ黙って歌姫を見つめていた。歌姫のお腹を黙って凝視していた。
その場所に命が宿っているということは……そう言うことをしたはずだからだ。
~あとがき~
で、一体何の話?
真面目が続くから息抜き回でした。
でも酔った勢いとノリで書いちゃダメな見本ですねw
大丈夫のはずだ。直接的な表現は使っていない。使ってないよね?
© 2023 甲斐八雲
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