内容の割に発言が軽いっ!
神聖国・都の郊外
「こちら現場のアルグスタです。突如姿を現したカメワームは白い息を吐きながら……おおっと、激しく頭を振り回し地面に叩きつけた。
威嚇でしょうか? 我々に対する威嚇でしょうか?」
「あの~旦那様?」
「激しく頭を地面に打ちつけている。まるで地面を破壊する勢いだ。おおっと前足を持ち上げ後ろ足で立ち上がった! どうする気だ~! 頭を打ちつけた~!」
ズズンと地面が揺れた。流石にあの体積でぶつかると揺れるよな。
拳一発で地震を起こすノイエは……あれは色々とチートだから検証するだけ無駄だろう。アニメキャラの技とかアイテムとか科学で検証する感じだな。
フィクションなんだから笑って流せよと言いたい。真面目に検証とか興ざめするだろうに。
ああいう人たちってきっと自分の子供に『サンタなんて居ません。だからそんな手紙を書いても意味はありません。欲しいプレゼントは事前に1番手から3番手までリストアップしてください。値段と年齢を考慮して購入します』とか言うんだろうな。夢の無い。
ウチの母さんが言ってたな。ウチの父さんなら子供のために自宅に煙突を作るタイプの人間だったと……それぐらいの冒険心を持つ大人に僕はなりたい。
何の話だっけ? 頑張れカメワームか……ワームの奮闘を僕が実況していたんだったな。
「頑張れカメワーム! お前の頑張りを僕に見せてみろ!」
「どっちの味方なのですか?」
そんなの決まっている。
「僕は悪魔に敵対する者の味方です!」
「……お前の言葉を~! 後悔させてやる~!」
仰け反ったワームの口からおぞましい声が。
「飲み込めワーム! お前なら出来る! 前屈みは絶対にダメだ!」
こっちはまだ地面の上の住人だ。立てないんだよ。
そろそろあのシャンシャンとなる鈴の音をどうにかしませんか?
「あ~。そんな~」
期待を裏切られた。絶望した。がっかりだよ。
前のめりになったワームがエロエロとして……ポーラがコロコロと地面の上を転がった。
「ワーム! 追い打ちだ! 今ならお前でも勝てる!」
「かなり本気の顔面踏みっ!」
「色気の無い白パンツっ!」
空の足の裏で視界を塞がれた。情け容赦が無さすぎるぞ悪魔よ?
「アンタがそれを言うな~!」
らめ~! 顔面をスタンピングはらめ~!
散々踏まれた。流石にグッタリだ。何より若干血の味がする。鼻血か?
「ぜぇ~たい、許さないんだから~!」
人の顔を踏みながら悪魔が大絶叫だ。
君は無駄に元気だな? と言うか何故動ける? おかしくないか? どんなチートだ?
「あん? アンチ魔法よ。カウンター魔法とも言うわね」
グリグリが~!
「それにあれは音を触媒にしているのよ。だから対抗策は簡単よ」
「ほう……本当か?」
「私の凄さを思い知れ~!」
だから顔面を踏まないで~!
馬鹿な兄がぐったりしたのを確認し、ポーラはその視線を動かす。
目を向けた相手は座ったままの歌姫だ。
何故か顔色を悪くして自分のお腹を抱えている。
「う~た~ひ~め~」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私はどうなっても良いのでお腹の子供だけは!」
「なら~することは分かっているわよね~?」
「はひぃ~!」
悲鳴交じりの声を出し、歌姫セシリーンは背筋を伸ばした。
「もし私に逆らうなら~お前の赤子の肝を啜ってくれる~」
「いやぁ~!」
大絶叫だ。
歌姫から放たれた声で鈴の音が掻き消える。
「その調子で~一層のこと歌いなさい~」
「それは……」
「あん?」
「ひいぃ~」
悲鳴を上げて歌姫は立ち上がった。
「なら……さんはいっ」
「……ら~♪」
歌を歌うことはしないが、セシリーンはただ一音で音を作り出す。
強弱や高低を付けることで、それは素晴らしい曲となる。
胸に手を当て顎を上げ……歌姫は空に向かい声を放つ。
鈴の音は掻き消えた。完全にだ。
「こうなると後は簡単ね」
軽く腰に手を当て、小柄な少女はまだ体内に残してきた氷の塊で悶え苦しんでいるカメワームに右手を向ける。
人差し指を向けて可愛らしくウインクまでする。
「サクッと死体にでもなっちゃいなさい」
向けた人差し指を動かし空中に文字を綴る。
それを押して魔法とした刻印の魔女の攻撃魔法は絶大だ。
異世界から召喚されたぐらいの存在など敵ではない。
あっさりと存在を砕いて死体にした。
「またつまらぬモノを殺めてしまったわ」
人の顔面を踏んでいる馬鹿が何やらほざいている。
だが君こそ忘れているな? アルグスタさんは女性に暴力を振るわない男だが、言い訳なら百通りでも準備する人間だと言うことを!
つまり悪魔は人に非ず! よって女性にはカウントしない!
「アルグスタさんの~!」
情け容赦など母親のお腹に忘れて来ましたパンチ!
「ぬごぉ~!」
全力右ストレートを股間の中心に食らった魔女が飛び跳ねバウンドして……地面の上で蹲って震えている。
「アンタ……それでも人なの……?」
「知るか悪魔! お前を滅する為なら僕は人であることを辞める!」
宣言しつつ立ち上がり、立場が逆転した相手を見下す。
蹲っている悪魔はまだ立てそうにない。
「ウチのポーラの体を使い好き勝手してくれやがって」
「違うから~! ちゃんとあのワームから救ったし、何より倒したし~!」
「そんな言い訳など聞きたくない!」
「ちがっ……ちょっと待ちなさいよ! それは色々と駄目だから~!」
「知るかボケ! お前はもう終わりだ悪魔! 宿れ獣神!」
「あ、あぁ~!」
ロメ〇なスペシャルを悪魔に決めた。
このまま祓ってくれる!
「~♪」
喉を鳴らし音を発しながらセシリーンはそれを見ていた。
自分の妹とは言えあそこまでする彼も凄い。
確かに今の少女は妹ではなくあの刻印の魔女だ。
魔法を知らない人でも必ず知る三大魔女の1人だ。偉大なる魔法使いだ。
それに暴力を振るう彼は……何者なのだろう?
考えるだけ無駄な気がしてセシリーンは思考を止め、自分の仕事に徹する。
やるべきことはあの魔道具の音を封じることだ。
刻印の魔女が言うには一定のリズムで放たれる音を乱せば良いらしい。
だがそれでは面白くない。
何よりあの音は大切な愛弟子と旦那様を苦しめた物だ。
ならばあの音程度でこちらを防げないと思い知らしめる必要がある。
《ただ……》
外に出たことにより最近聞こえの悪かった耳の調子が元に戻った。
良く聞こえる。本当によく聞こえる。
この場を覗いている人たちの行動が手に取るように分かるのだ。
《百には満たないけれど普通とは違う気配が……それと遠くから迫って来ている千人程度のこれは何? 人のような動きだけれど人の足音と少し違う。しいて言えば前に聞いた動く死体のような……》
耳を済ませながらセシリーンはそれに気づいた。
「2人とも。矢が来るわよ。ら~♪」
「「内容の割に発言が軽いっ!」」
教えたのに遊んでいる2人から苦情が飛んで来た。
と同時に遊んでいる2人に向かい山のような矢が降り注いだ。
~あとがき~
カメワームも刻印さんを敵に回すと…まあそうだよな。
そしてセシリーンの歌で鈴の音は妨害されております。
で、悪獣の巣に居る彼らの元に矢が
© 2023 甲斐八雲
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