今のフラグになってない?

 神聖国・都の郊外



「兄さま」

「何でしょう?」

「情けとかって言葉は覚えている?」

「あ~。確かそんな言葉とかあったよね~。辞書の中にだっけ?」

「ちくしょう! 解放されたらお前の尻にこの大量の矢を突っ込んでやる~!」


 そんな事実を知ったらお前を解放するわけない。このままロメ〇を継続だ。


「ぬごぉ~!」

「ほらほらどうした? 降伏なら早い方が良いぞ? 負けを認めろ。そして涙ながらに全裸土下座で許してやろう」

「屈しない。私は絶対に屈しな~い!」


 ならば僕も容赦を忘れよう。ごめんねポーラ……後でいっぱい謝るから。


「往生しろや~!」

「のごっ! 裂けちゃう! ポーラの何かが、ピリッと裂けちゃう~!」


 これでもかと揺らしたら悪魔がグッタリとした。


 悪魔さん。気絶するには早すぎるぞ?


「アルグスタ緊急回避っ!」


 悪魔を投げ捨て全力で逃げ出す。

 唐突に第二陣の矢がポーラ目掛けて殺到した。


 あれは無理だ。流石の悪魔も逝ったか?


「何のこれしきっ!」


 氷を盾にして悪魔が粘る。


 ヘイヘイ射撃手さんよ? お前たちの実力はそんな物か?


「ウチの巨乳ばりの威力と精度が欲しい所だな」

「死んでしまうわっ!」


 氷を放り投げて悪魔が立ち上がった。

 そうか? お前だったら笑いながら回避しそうな気がするけどな。少なくともノイエは避ける。


「で、動けるようになったけど……この矢は何でしょう?」


 第三陣がポーラに向けて殺到するがまた氷で迎え撃った。

 君は狙われるような悪いことを……したから狙われているんだね。なら仕方ないかな。うん仕方ない。


「何故に納得する!」

「お前のすることだし?」

「むきぃ~!」


 全力で暴れる馬鹿に……まあ良い。次が降って来るぞ?


「面倒臭いわね。まあ良いわ……あれは私が始末するから、もう1人の方を頼んで良い?」

「もう1人とは?」

「あ~。説明長くなるけど聞く?」


 うん。矢は全部、君に降り注いでいるからね。


 何より歌姫さんの喉問題もあるから出来たら手早く。

 ノイエの体だもセシリーンの声には耐えられないんだよね。


「こっちに対する配慮が無いっ!」

「馬鹿かね君は? 悪魔とお嫁さんを天秤にかけて、そっちが重くなるわけないでしょう?」

「妹! こっちは可愛い妹! 処女で純粋無垢な妹様っ!」

「あっちは可愛い(予定の)子供を身ごもってるしね」

「圧倒的な敗北~!」


 膝から崩れた悪魔が地面を叩きつけた。


「で、説明をどうぞ」


 ドスドスと地面を殴っているのは本当に悪魔だろうか?


「……この国には二つの決戦兵器用の魔道具が存在するのよ」


 何処の何と戦う兵器だ?


「もちろんネタで作ったんだけど」


 あっさりと、ネタだと認めたよ。


「ただその使用方法を厳しく限定しておいたのだけど、間違った使い方をしているみたいなのよ。だから凄く危険なの」

「暴走とか暴発するとか?」

「もっとよ」


 そんな恐ろしいモノを作るなって! 馬鹿なの?


「だって作りたくなるものでしょう? 作れる力があるのなら!」


 知るかボケ。後で絶対に泣かす。


「で、そのうちの1人がどうやらこの子の……あの化け物婆を恨んでいるあれっぽいのよね」

「ああ。僕が揶揄った……そっか」


 つまりポーラさんがやる気なんですね?


「ええ。ユニバンスのメイド道を相手の魂の心髄にまで叩き込むと息巻いているわ」

「それって殺すの前提になってない?」

「でしょうね」


 サラリと何を言う?

 流石の僕も妹に殺人を犯すようなことはして欲しくない。


「ただその時は“私”が始末するわよ」

「……お願いします」


 ポーラもあれで頑固だから、僕が説得して逆に変なハンディになったりしたら……それだったら悪魔が手を下す方が幾分かマシだな。

 気持ちの問題程度だけど。


「それでもう1人居るはずなのよ」

「ん~?」


 確か神聖国には2人のドラゴンスレイヤーが居るとか何とか。


「普通に考えたらもう1人のドラゴンスレイヤーかな?」

「だと思う」


 悪魔は会話をしながら時折氷で矢を防いで……僕の方に大きな背負い袋を投げて寄こした。

 それにノイエの着替えと鎧だ。

 改修した初期バージョンのノイエの鎧だね。新型は待機所に保管しているしな。


「あとは何か必要?」

「連絡はどうする?」

「無線は無いわよ。代わりにこれを」


 コロコロと転がって来たのは、コンビニに置かれているカラーボールのような物だった。


「割ると煙が昇るわ。しばらく消えないからそれを目指してこっちから向かう」

「へいへい」


 全部を受け取り……背負い袋が重い。

 何が入ってるの? 全部ノイエの食料? ならば我慢だな。


「そだ」

「何よ?」

「今回の神聖国での火事場泥棒はどうする?」

「……」


 何故か悪魔が真剣に悩みだした。

 今僕が敢えて『火事場泥棒』と言ったのにその真剣具合は何だ? やる気か? やる気なのか?


「私が知る頃に置かれている魔道具なら……まあ必要と思う物は無いわね」

「決戦兵器とかは?」

「あれを奪うとこの国からドラゴンスレイヤーが居なくなるけど良いの?」

「良くは無いけど……この国のドラゴンって都に近づかないんでしょ?」

「……」


 飛んで来た矢を払って悪魔が首を傾げる。


「そもそもそれが変なのよね? どんなチートよ」


 お前が知らないことを僕が知っていると思うのか?


「……悪い予感がするから止めておきましょう。それにあれならレプリカを作るのは簡単だから」

「そうなの?」

「ええ。形だけなら……帰国したら作ってあげるわ」


 何故か言いようのない冷たい物が背中を走った。全力でガムシャラにだ。


「私の知らない魔道具があるなら回収するけど、今回は無理して集める必要はないわね。この国は帝国と違って消える予定はないし」

「今のフラグになってない?」

「平気よ。ロボも居ないし」


 そう言えばあの球体は屋敷で廊下の掃除をしているはずだ。


「あれ? ところでニクは?」

「ん」

「はい?」


 悪魔が僕の頭上を指さすので首を動かしたら、見覚えのある生物がノーロープバンジーを決行していた。見事な落下だ。何よりニクが雄であるとが分かる。

 腹から真っ直ぐ僕の顔に向かい……ムギュッと顔面にニクが腹から着地しやがった。


「お前と言う家畜は~!」


 相手の首を掴んで引き剥がすとニクがつぶらな瞳で僕を見る。

 良し分かった。最後に遺言は聞いてやろう。

 お前と僕との仲だ。ジェスチャーで何となく伝わるから語るが良い。


 うんうん。子供たちに追い回されてようやく合流できた。頑張った。餌寄こせ……丸焼きにしてくれるわ~!


 本気で調理してやろうとしたらニクが逃げ出してセシリーンの元へ。

 彼女は歌いながら焼き肉の素材を抱え上げ僕を軽く睨んで来る。わざわざ見えない目で……ごめんなさい。


「これはファシーの子供なんですからね。ら~♪」


 確りと叱りつつも音を奏で続けるセシリーンも凄い。


 ただ唇の端からツーッと赤い筋が真下に向かい走った。

 ヤバい。そろそろノイエの喉が限界だ。


「悪魔っ!」

「合点!」


 ドレス姿の悪魔がスカートから何かを取り出す。

 スルスルと何かしらの法則を無視して取り出したのはカミーラの魔槍だ。


「後は宜しく」


 そして投げキッスを寄こして彼女は子猫のような瞬発力を披露し、一気に壁を蹴って昇って行く。ウチの妹がとうとう忍者的な性能を見せるようになりました。

 まあ良く見れば壁に氷を撃ち込んで足場にしているっぽいけどね。


「ポーラも十分にチートキャラと化して来たな」


 お兄ちゃんとしては頼もしいけど、悲しい限りです。




~あとがき~


 クレオさんのターゲットはポーラなのでそっちに粘着です。

 そして遂にニクも合流して…はい。彼は都で子供たちに追い回されてとても大変だったのです。話にしたら文庫本一冊ぐらいの大冒険です。たぶんw


 ようやくテンポが良くなって来たな…スランプを脱したか?




© 2023 甲斐八雲

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