姉のようにな……
神聖国・都の郊外
「おっきくなれ~」
ノイエの拳がカメワームの顔なのかな? ワームの先端部分を的確に捉える。
それから足を踏ん張ってのラッシュだ。完全にとどめに入ったな。
ただ疑問が止まらない。一部の人たちを除いてどうして観客たちはこっちを見てずっと笑っているのだろう? このカメワームは実は四天王の中で最弱とか言い出すのか? そうなるとあと3匹は出て来るのか? それ以上?
頑張ってポーラの拘束を……ポーラさん。ちょっとバールのような物とかありませんかね? 大丈夫です。バールのような物はバールとして使用するので問題無いはずです。
はい? スカートの奥に入っていると? 僕にどうしろと? 手を入れろと?
仕方なくスカートの中に手を入れて色々と弄ってみる。うん。何もない。おっこれは?
「兄さま。それは私の下着です」
「だと思ったよ!」
引っ張りかけた物を元に戻して……見つからないんですけど?
「師匠が言うには登録した者しか取れないそうです」
「無駄に高性能だな」
そのセキュリティーシステムを別の物に使えと言いたい。
結局僕では取り出せないので、コツコツと石で叩いてポーラの拘束具を破壊した。
「やわらかくなれ~」
時にノイエさん。その掛け声は何ですか? ずっと『大きくなれ』とか『柔らかくなれ』とか……そう言うことか。君の願いが魔眼の中のお姉ちゃんに届けば良いね。
ラッシュの中に大振りのパンチを混ぜてノイエが圧倒的な火力で相手を追い詰める。
もうそろそろ終わりかな?
今更になってバールのような物を取り出したポーラに……もう要らないから彼女に戻し、今後を考えて僕の服とノイエ用の非常食とかありますか?
「兄さまの服ですか?」
ノイエの非常食は次から次へと出て来るのに僕の服は出て来ない。
妹よ。君ほど優れた人物が僕の服を持っていないとか無いよね?
「ありますよ」
うむ。それを出せば良いのです。
何より舌足らずではない口調はどうも悪魔を想像して怖くなるんですが、それを相手に告げるとまた元に戻ってしまう。
ポーラももう良い年齢なのだからちゃんとした口調でいて欲しい。
「ならその服を」
「嫌です」
「おひ」
「拒否します」
拒否するポーラは次から次へと非常食をノイエに投げる。
ソフトボールぐらいの大きさ乾パンを器用にアホ毛でキャッチして、ノイエは口へと運ぶ。
あの触手マジで便利だな……アホ毛か。
これでノイエはしばらく大丈夫だろう。食欲と破壊衝動の両方を満たしている。
「でだ。妹よ」
「はい」
「服を出しなさい」
「断固拒否します」
「理由を述べよ」
「だって……」
何故か妹様が恥じらい出した。
僕の背中に何とも言えない嫌な冷たさが走るのですが?
「クンクンとか出来なくなるじゃないですか!」
「あ~。うん。そうだね~」
やはりか。そう来るか妹よ。だが舐めるなよ地球人をっ! 特に日本人をっ!
その程度の言動で困るのはこの世界の住人ぐらいだ。日本であればその程度の発言など、柴犬とマメシバの違い程度でしか無いのだっ! 意味不明だけどっ!
「クンクンしている服は何着あるんだ?」
「はい? 3着ですか?」
「ならその服を何日かに渡って着よう。すると僕の匂いがより染みついて」
「どうぞ兄さま」
スカートの中から妹様が衣服を取り出してきた。
変態の対応に慣れた自分も大概だと思うが、ここまで感化された妹の存在もどうかと思う。きっと全てあの悪魔が悪いのだろう。帰国次第妹の悪魔払いを実施したいと思う。
受け取った服を着ていると地響きが……発生源はノイエだ。
上から叩きつけるような一撃を放ったらしい。
カメワームのワームが地面に埋まっている。あれは取り出せるのか?
「アルグ様」
「ん?」
ノイエがカメワームの背に着地してこっちを見ていた。
「またあれ」
「あれとは?」
「だからあれ」
首を傾げる僕にそれが聞こえて来た。
シャンシャンと……鈴の音だ。
「野蛮であるのう」
担がれた神輿の中で女王はそう呟いた。
直接その現場を見るようなことはしない。
下僕の1人が持つ手鏡に映る様子を転送する魔道具のおかげで神輿の中に居ても『悪獣の巣』と呼ばれる場所の底で行われている行為を見ることが出来るのだ。
だが古くよりこの神聖国に存在する化け物を一方的に殴り飛ばす存在が居るとは……ユニバンス王国という国を正直舐めていたと女王は思っていた。
まさか自国のドラゴンスレイヤーかそれに相当する人物を連れて来るとは。
今にして思えばあの交渉をしていた若造など最初から喧嘩腰で合った。
つまり交渉の失敗を望んでいたのであろう。そして自分たちがこうした暴挙に出ることを望み、反撃してこの国を潰そうと考えていたのかもしれない。
そう考えれば他国の入れ知恵も想像できる。
あの小国の近隣には、共和国と帝国が存在する。そのどちらかに相談し、この様な暴挙を考えだした可能性もある。
ならば一番怪しいのは帝国であろう。
最近は近隣の国々と争いが発生していると聞く。神聖国に手を出し周りの国々の目をこちらへ向けて……何とも浅ましい企みであろうか。
だがそれを知った今となれば対処など簡単だ。問題があるとすれば宰相がこちらの言葉を信じるかどうかだ。
右宰相であるサーブは力を持ち過ぎ女王である自分の命令を聞かない。
おかげで宮を出てわざわざあの者たちの処刑を止める手間を押し付けられたのだ。
左宰相などは吹けば消える弱い存在だ。
あの者が何故、左宰相の地位に昇って来たのか……間違いなく右宰相の企みであろう。
老いてもなお盛んなのは悪いことではない。好きに男子を集め楽しむが良い。だが楽しむのは自分の寝所の内だけで済ませるべきだ。良くて屋敷の敷地内か。
本当に愚かしい男だ。もう面倒にすら思える。
「これが終わったら一度国の重鎮たちを処刑するのも悪くないのう」
昔から行っていることだ。この国の歴史の一端だ。
それを嫌う者も過去に居たが、そのような愚か者は大半が最悪な終わり方を迎える。
「姉のようにな……」
軽く笑い女王は上唇を舐めた。
元々あれは女王になど向いていなかったのだ。ただ長女であるからというだけで女王となり、そして姉は支配するべき者たちに手を差し伸べようとした。
自ら支配される側に歩み寄り仲良く手を取り合うだなどと言う愚行を犯したのだ。
支配者である者がやってはいけない一番の罪だ。だからこそあれを廃することとした。
サーブと手を結び、外遊に出た時を見計らって襲わせた。
一度目の襲撃でまんまと逃がしたが、それからしばらくして隠れ住んでいた場所を見つけ都に連行した。
もう姉は居ない。
確実に殺す方法を実行し、あれの血肉のひと欠片も残さぬように殺した。食い殺した。自分の“口”で、全てを頬張り食らった。
『貴女はたぶんろくな死に方をしないわよ……』とその様子を見ていた誰かが言っていたが、それでもあれを全て食らったのだ。
故に自分の支配は揺るがない。決して揺るがないはずだ。
サーブが異国から子を買い求め何やら企んでいるとしても、サーブがこの国の孤児たちを集め何やら企んでいるとしても……その全ては徒労だ。自分がこの国のたった1人の支配者なのだ。
後は全て真似たモノでしかない。全てが偽者だ。
「それに逆らう者は全て食らえば良いだけのことだ」
現に悪獣の巣の底に居る異国の使者たちは、膝から崩れ座り込んでいる。
魔法使いという存在は本当に大変だ。ちょっと魔力を奪えばあの様に動けなくなる。
そして奪われた魔力は全て……
~あとがき~
ポーラが良い感じにダメな子になりつつあるな~。
純粋ってこうもあっさりと汚されてしまうものなのねw
処刑場にやって来た女王陛下はまた鈴を鳴らします。シャンシャンです。
そして彼女は姉を食い殺したという…シリアスさん。そろそろ本格的に出番です!
© 2023 甲斐八雲
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