あれの召喚を維持している魔力って?

 神聖国・都の郊外



 古き世からこの場で行われる行為……処刑を目にする者は多く居た。

 下手な者などは子供の頃から見たことのある行為だ。


 普通ならこの底に落とされた者は、あの恐ろしき悪獣に震え上がり、逃げ出そうなどとは考えない。ましてや走って逃げることなどした者は居ない。

 そんな剛の者など今までに1人も居なかったのだ。


 絶望するはずなのだ。

 あの底に落ちた者が助かるなどと言うことは無い。

 現に今まで誰一人として自力で脱出しという事実は無い。


 落ちたら終わり……それがこの常識だった。


 だが目の前でそれが起きた。

 逃げ続ける異国の者たちを追った悪獣がその身を絡ませ身動き一つできなくなった。

 それを待っていましたとばかりに、罪人の1人である人物が蹴り飛ばしたのだ。


 鮮やかな蹴りだった。


 白く美しい足を大きく振るい、下から上へとその人物は蹴り飛ばした。

 一瞬グンッと地面が大きく揺れたような気がして、観客たちは自分の尻を乗せている座席を掴んだ。


 気のせいだったのか? 今の揺れは気のせいだったのか?


 誰もがそう思った時にそれがもう一度起こった。

 また処刑場内を逃げ回っていた女性が悪獣を蹴り上げたのだ。

 下から上へ全力で……その蹴りで地面が揺れ、そして人々はそれを見た。


 悪獣は元来長い線状の生き物だと思っていた。

 そう過去より言い伝えられてきたのだ。


 ただそうであるならば悪獣は逃げられたはずだ。


 その身を限界まで伸ばし、どこか適当な場所に先端の口の牙を突き立て……そうして体を引き上げてまた身を伸ばす。

 何度かそれをするだけでこの場所から簡単に逃げられたはずだ。


 だが悪獣はそれをしなかった。

 逃げ出すことを考え実行する知能が無いから……そう思われていた化け物の秘密がようやく白昼の元に晒された。


 続きがあったのだ。

 長い胴体は、ミミズや蛇のように長い胴体は……実は首だったのだ。


 三度の蹴りが放たれ、悪獣の体……地面の下に埋まっていた本当の胴体部分が、半ば強制的にその姿を晒すこととなった。

 良く見ればそれは亀である。


 四本の足。岩のような甲羅にとても長い首。

 それが悪獣と呼ばれる化け物の正体だった。




「亀だね」


 ノイエが蹴り続けて地面の下から半ば強制的に姿を現した存在の正体がそれだった。

 胴体部分が埋まってて、ずっと長い胴体だと思ったそれが首だったのだ。

 そう言えばN○Kの特集でこんな感じに長い……テレビの方はもう少し短かったけど、長い首を持つ亀を見た気がする。あれをモデルにして作ったのか?


 つまり犯人はこの中に居ますっ!


「またお前かっ!」

「しりませんっ!」


 何故か泣き顔のポーラが全力で否定してきた。


「ポーラが犯人じゃないことは知っています」

「にいさま」


 ウチの妹がこんな悪いことをする訳がありません。


「君の中に居る悪魔です。あれが犯人に違いないのです。さああの悪魔を僕の前に」

「……」


 何故か恥じらいながらポーラが僕から視線を逸らす。


 ポーラさん? あれを庇っても絶対に良いこととか無いからね? それだけは間違いないです。


「ししょうはちがうと」

「はい。嘘」

「ちょっ! ……ちがうと」


 あん? 誤魔化せると思っているのか?


「ノイエ~」

「はい」


 スチャッと僕の自慢のお嫁さんがやって来た。


「ちょっとこの拘束を外して貰っても良いかな?」

「はい」


 プチっと自分の上半身をガッチリ拘束している諸々を破り捨て、ノイエが僕の拘束具を外してくれる。たった今、何か僕の視界の中で非現実的なことが行われた気がしたが気のせいだ。ノイエなら某世紀末な漫画のように着ている服の上半身だけを吹き飛ばすぐらいのことはする。


 吹き飛ばしたのが縄と拘束具だっただけだ。


「アルグ様」

「はい」


 掴んで握り壊して……僕の拘束具を外してくれたノイエが、アホ毛をフリフリさせていた。


「あれって食べられる?」

「「……」」


 僕とポーラがほぼ迷うことなくノイエが言う『あれ』に視線を向けた。

地面の上に全身を表した『あれ』は、絡まってしまった自分の首をどうにか元に戻そうと前足を器用に使って首を引っ張っている。その調子で頑張ればそのうち取れるかもね。


「あれを食べると?」

「はい」

「正気かね?」

「はい」


 僕の問いにノイエは元気に頷いた。


「ノイエ」

「はい」

「世の中には多分食べちゃいけない、」

「言ってた」

「はい?」


 ノイエの声に僕は途中で口を閉じた。

 たぶん今からウチのお嫁さんは何か凄いことを言うに決まっている。覚悟を決めろ僕よ。


「カミューが言ってた」

「何と?」

「四本足ならドラゴン以外食べられるって」


 あの馬鹿姉が犯人か~い! 決めた。絶対に殴る。


「ポーラ」

「はい」

「いつかカミューなる化け物を僕は殴る。その時の一番槍はお前だ」

「……にいさま?」


 妹の『何を言っているの?』と雄弁に物語る視線を僕は華麗にスルーした。

 大丈夫。2人がかりなら死ぬ確率は半々だ。何よりあの馬鹿姉は僕を殺す気でいる。つまりポーラがあれの首を取れば僕は相打ちだ。決して負けない。


「かちまけとしてはまけているきが?」

「気のせいです」


 最終的に勝っているから良いんです。


「アルグ様」

「どうした?」


 ノイエに呼ばれて視線を巡らせると、彼女はアホ毛をフワフワさせながら……アカン。気配がヤバい。


「あれって食べられる?」

「ポーラが頑張って調理するって」

「にいさまっ!」


 ここは涙を呑んで欲しい。

 もうノイエの気配がヤバいんだって。


 だから僕が言える言葉はただ1つ。


「ノイエ~」

「はい」

「あの首長亀をやっておしまい」

「……はい」


 笑わないノイエが一瞬笑ったようにも見えた。

 それほどまでに彼女のストレスは限界域に達していたのだろう。


 何故なら僕の目の前から姿を消したノイエは、亀の頭上に瞬間移動していた。

 そして始まる一方的な暴力。


 頑張れ亀。お前なら出来る。違う。そこは甲羅で受けるんだ。ノイエの攻撃を全て甲羅で受ければ……ヒビなど気にするな! お前にその攻撃を対応できるフットワークなんて無いだろう? 甲羅が割れた時点で即終了だ。だから割れるまで頑張れ。そして粘れ。


「ポーラ~」

「はい」

「僕の魔剣」

「は~い」


 ポーラから悪魔に代わり、彼女はこちらにお尻を向けるとフリフリと左右に揺らす。

 足元に鞘に納められた僕の魔剣が落ちて姿を現した。


「お前も大概だよな?」

「そっかな~」


 絶対にそうだと思うぞ?


 地面に落ちた魔剣とノイエが切ってくれた縄とを掴んで……こう鞘に縄で縛って、腰に回してもう一度縛って固定して。


「どうよ?」

「はいはい良く出来ました」

「投げやりだな?」

「良いからさっさと切ってよ」

「へいへい」


 腰の剣を抜いて……ちょいと悪魔の背中を蹴って地面に倒す。


「顔から行ったから! 何するのよ!」

「うん。質問の答えを得ていなかったな~と」


 抜き身の魔剣の先端を悪魔の後頭部にそっと押し当てる。


「ちょっとあの化け物の思い出話をしてみようか?」

「だ~か~ら~! 何でも私が犯人だと思うなよ!」

「うん思わない。だから正体は?」

「思ってな~い」


 ジタバタと暴れる悪魔だが、背中を踏んで黙らせた。


「このままグリグリされて薄い胸をもっと薄くされたくなければ全部言いなさい」

「アンタ……最近容赦なさすぎでしょう?」

「ポーラは許してくれるしね」

「あの馬鹿弟子のせいか……」


 深くため息を吐いて悪魔が投げやりに口を開いた。


「召喚の魔女が呼び出した物よ」

「はい?」

「だから召喚の魔女が呼び出した物よ」

「何処から?」

「知らないよ。貴方のお嫁さんにでも聞いてよ」

「あ~。そういうことか~」


 納得した。つまり原理はノイエの異世界召喚か。

 それを呼び出して……あれ?


「あれが召喚できるのって魔力を提供できる間だけじゃないの?」

「そうよ」

「そうなると……」


 僕は改めて視線を向けた。

 甲羅をボロボロに砕かれた亀は這う這うの体だ。あと数撃で確実に沈む。


「あれの召喚を維持している魔力って?」




~あとがき~


 何だろう? これがスランプなのか? 書きたいことが上手く書けないぞ?

 全体的な流れは問題無いんだけど、表現的な物が自分が思っているものと違うんです。

 ただそれを無理に直そうとすると全く書けなくなるし…これがスランプなのかな?


 カメさんワームは異世界召喚の生き物です。

 ノイエが使う物とほぼ同じです。ですから召喚するには莫大な魔力を必要として…で、その魔力は? 神聖国って誰が中心となって作った国でしょうか?


 それがヒントですw




© 2023 甲斐八雲

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