それはポーラが悪い

 神聖国・都の郊外



「あ~っはは~! 何だお前は? ツッコむだけが得意なのか? あん?」


 ノイエの動物的な勘で方向転換した僕らの後ろでワームが岩に激突した。

 正面から行って……うん知ってた。あれぐらいでどうにかなるような敵じゃないことぐらい。


 それでも岩にぶつかるように誘導しながら、全力で相手を煽ることは忘れない。

 今の僕らは決して逃げているわけではない。相手を怒らせているのだ。

 脳みそが何処にあるのか怪しいワームに言葉が通じる訳も無いが、それでも僕は煽るのです。


 と言うか相手の食い付きが良いな。


「匂い」

「はい?」


 僕以上にガッチリと拘束されているノイエが足を振るう。


「ねえさまっ!」


 見事に蹴り飛ばされたポーラを追ってワームの口が移動していく。

 横から見て気づいた。脳みそ以前にあれの目は何処だ?


「目が無い」

「なるほど~」


 だからノイエたちにたっぷりと豚骨風味なわけか。

 目が退化しているあれは臭いで相手の位置を探るのね。


 ワタワタと慌てながらポーラがこっちに戻って来る。


 ウチの妹様もタフな子に育ったものだ。


「で、ノイエさん」

「なに?」

「何かポーラに冷たくない?」

「……」


 僕の言葉にノイエのアホ毛が激しく動いた。

 たぶんお怒りだ。


「小さな子が邪魔した」

「何の?」

「白濁として美味しそうなスープだった」

「……」


 ポーラさんポーラさん。ちょっとこっちに来てくれるかな?

 はいはい落ち着きなさい。君がどんなに頑張ってもノイエに勝てる訳ないんだからお姉ちゃんを蹴ろうとするだけ無駄です。


「ノイエの何かを邪魔した記憶はある?」

「ちがいます。ねえさまが、」


 聞けば風味付け作業でノイエは頭まで浸かって液体を飲もうとしたらしい。ポーラからすればお風呂に入りながら湯船のお湯を飲む行為に見えたので、周りに向かいその阻止を懇願し続けた。

 風味付けをしている人たちもスープを飲まれると自分たちの仕事が失敗すると判断し、ノイエの拘束が追加され、結果としてスープが飲めなかったということらしい。


「それはポーラが悪い」

「どうしてですかっ!」


 そんなに怒っているけど気づいていないの? 本当に説明が要るの?


「ノイエの食べ物に対する恨みは……僕も怖くて考えたくありません」

「っ!」


 妹様の表情が恐怖に歪んだ。


 ようやくポーラは自分のミスに気づいたらしい。

 あのノイエの『食事』の邪魔をしたのだ。蹴られるぐらいで済んでいるのが奇跡だ。

 何より今のノイエはストレス過多でだいぶご立腹状態です。

 1つ間違えれば何かとんでもないことをやりかねない。


「にいさまっ」

「何でしょうか?」

「どうかちゅうさいをっ!」


 必死の形相でポーラが……懇願するしかないよな。


「対価は?」

「にいさま?」


 泣きそうな顔をするな妹よ。

 僕が対価を求めているのではない。君はノイエに対し何を払えるのかってことだ。

 まさかあのノイエが『ごめんなさい』だけで許してくれると思っているのか? ご飯の恨みはたぶん恐ろしいぞ?


「君はノイエに対して何を支払う? その対価によっては仲裁しよう」

「……」


 深く深く考え込んだポーラが涙ながらにため息を吐いた。


「ねえさまとにいさまのおふろのじかんに、しばらくいっしょにはいりません」


 それはどんな嫌がらせだ?


「そんな対価でノイエが」

「小さい子」


 僕の言葉を遮ってノイエが並んで来た。


「何日?」

「……みっかでは?」

「10日」

「……いつかで?」

「10日」

「……なのかで?」

「それなら」


 ノイエの強気な交渉で……僕は約一週間、ノイエと2人っきりのお風呂が決まった。


 どうしてこうなった?


「嫌?」

「嫌じゃないけど……」

「なに?」


 肩を落として走るポーラをそのままにノイエが僕の横に来た。


 ついでにノイエさん。ちょっと右から回り込むように……そうそう。で、ポーラはあっちの方向に向かっていじけながら走ってくれるかな?


「ノイエの髪の毛を洗うのって大変なんだよね。僕がアホ毛に触るとノイエってば骨抜きになるし」

「大丈夫」


 その自信は何処から出て来るんですか?


「抜かれる前に抜く」

「ノイエさん。発言に気を付けようか?」

「事実」

「それでもです」


 何故か首を傾げつつノイエが走り続ける。


「あ~。それならそろそろあれをどうにかしないとね」

「はい」


 ノイエが足を止め振り返った。


 ずっとを僕らを追ってその身を伸ばしていたワームも動きを止めている。

 逃げつつ相手の胴体(?)を絡ませて縛るように誘導し続けた甲斐があった。見事に締まっている。


「で、ノイエさん。どうする気?」

「こうする」


 僕も逃げる足を止め彼女に問えば、ノイエがスススとワームに歩み寄る。


「どんっ」


 絡みついているワームをノイエが蹴り上げた。




~あとがき~


 食べ物の恨みは…特にノイエの場合は恐ろしいのですw


 どうにかPCが動かせるようになったんだけど、なんかこの子頭が悪いぞ?

 漢字の変換が…俺の癖を把握して!


 そして修理に回したPCの見積もりを見たら、もう少し金額を上乗せしたら新しいのが買えそうなんですが? 長期保証期間も過ぎてるほど使い込んでいるし、新しく買うべきか?


 明日辺りからは通常の文字数に戻していきたいです




© 2023 甲斐八雲

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