お前は信用ならん

 神聖国・都の郊外



「そらよ」


 普段なら生きた獣を数頭放つのだが、上からの命令で今日放り込んだのは置いたヤギ一頭だ。

 あっさりと放り込まれた山羊を食したそれが、餌係の人間を見つめて来る。見つめているのかは分からないが、餌係はそれが自分を見ていると感じていた。


「慌てるな化け物」


 この場で餌係となってから長い彼は、化け物に声をかける。


「餌が少ないのはお前の仕事が近づいているからだ」

「……」


 化け物は何も答えない。

 人と会話する口も知能も持ち合わせていないからだ。


「だから今は我慢だ」


 我慢をすれば餌にありつけるのだ。

 今回はどんな人間を食わせるのか……どうしてこのような酷い行為を女王陛下がお許しになっているのか。


 餌係の彼は知らないし分からない。難しい話は最初から考えないことにしている。

 何故ならそんな難しいことを考える知恵があるのならこんな場所で餌係などしていないからだ。




 都の某所



「久しいな。異国の王子よ」

「どうも」


 欠伸交じりでヒビ割れ宰相の面を見る。

 今日も元気に厚化粧だ。化粧というよりも加工だよな。


「どうやら私の息子がここを訪れていたようだが?」

「あはは。中々いい感じで暇潰しになったよ」

「そうか」


 こっちに近づきすぎない距離で宰相は会話をしてくる。

 間違いなく祝福を恐れているのだろう。


 安心しろ。僕の目の前に来たとしてもお前は祝福の射程外だ。


「あれとどんな会話をしただ?」

「おや? まさか息子と会話できないダメ親父ですか?」

「会話ができないのではない。あれの言っていることが分からないだけだ」

「それは歩み寄る努力をしないと」

「何故そのようなことをする必要がある?」

「腐っても父親なら息子に歩み寄れって話だ」

「そうか。そうか……」


 何故か考え込んだ相手をよくよく観察する。

 うん。間違いない。


「まあ自分の息子ではないなら歩み寄り方など分からないだろうけどね」

「……」


 考え込んでいた風の相手がこちらを睨んで来た。

 案外態度に出る人だな。顔は作り物の癖に。


「何の話だ?」

「ん~。比較的簡単な話なんだけどね~」


 悪魔から聞いて習いました。


「顎の特徴って遺伝するんだって。少なくともあの息子さんは、何処かのひび割れの血を引いている確率が半分程度かな? 母親の似顔絵でもあれば確定してあげるけど?」

「必要などない」


 何故か口元をポロポロとヒビ割れさせながら宰相が笑う。


「それに察する者がいれば十分だ」

「左様で」


 まあ強いて視線を逸らしていたけど、あの馬鹿息子がケツ顎とか……何かのフラグじゃないだろうな?


 アテナさんは無事に隠れているのかな~。

 と言うか僕ってば彼女を都の知り合いに届けるとか何とか、そもそもどうやってその知り合いとコンタクトを取るんだっけ?


 全部終わってから考えれば良いか。


「お前はそのような状況に追いやられてもまだ余裕があると見える」

「気のせいじゃないですかね?」

「否。お前はまだ自分が助かると思っているのだろう?」


 否定はしません。


 僕はノイエとの子供を、孫やひ孫まで抱いて暮らすと決めていますから……こんな場所で終われないのだよ!


「余裕があってもこの状況ですし」

「それでもお前はどうにかしそうな気配がするが?」

「たぶん気のせいですよ」

「どうかな?」


 あはは~。本当に気のせいですって。

 などと色々と言い訳をしてあくまで切り札がありそうに振る舞う。


 何処かの馬鹿息子はそんな僕の態度にイライラを募らせて来るたびにボディブローを食らいまくりました。見えますか? 自称父親さん。

 貴方の息子が僕のお腹を殴るものだから見事に痣だらけだよ。


 でもその甲斐はあったはずだ。敵の目は完全にこっちに向けられている。

 それで良い。ノイエとポーラへの関心が薄まれば十分だ。


「さて……そろそろ処刑の時間なんだろう?」

「その通りだが、命乞いはしないのか?」

「したら助けてくれるなら全力でするけど?」

「お前は信用ならん」


 失礼な。僕の命乞いは真剣だぞ?

 必要ならば靴ぐらい舐めてやろう。


「暫し待っておれ。今日の正午にお前たちをこの国に古くから伝わる残忍な方法で処刑してやろう」

「わ~い。だったら最後に良いかな?」

「何だ?」


 処刑を迎える人間が最後に望む物……決まっています。


「何でも良いから最後に飯をくれ」


 腹が減って目が回っているんだよね。


「ならば処刑する前にあの化け物の前で食わしてやろう」


 嫌な笑い声を発し宰相は立ち去ろうとする。


「まさかその化け物はドラゴンとか言わないよね?」


 その場合はコント過ぎて腹を抱えて笑うぞ?


「もちろん違うとも」


 あれ? それは実は想定外の返事なんですけど?


「楽しみに待つと良い。きっとお前などその頭から美味そうに食べ尽くすことだろうとも」


 高笑いをしながら……宰相が去って行った。


 う~ん。ちょっとピンチかも?




~あとがき~


 主人公は信用ならない…その判断は間違っていないと思いますw


 さて処刑場の化け物はドラゴンではありません。

 つまりアルグスタの唯一無二の最強祝福で一撃死はありません。


 どうするアルグスタ?




© 2023 甲斐八雲

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