踊れ人間よ

 神聖国・都の郊外



「クレオ様。東部20名到着しました」

「西部22名到着です」

「残りは?」

「南部は部族間の抗争が激しく」

「仕方ない」


 部下の報告にクレオと呼ばれた人物は軽く頭を振った。


 郊外の荒野に集まったのは王都から四方に飛ばしていた部下たちだ。

 主な任務は情報収集だが、今回ばかりはその部下たちが必要と判断し集めた。

 何故ならばこの者たちは全員任務の為なら死ぬことすら迷わない。

 

 ただ集められた部下は全部で69名しかいない。

 出来れば3桁に乗せたかったが仕方がない。


「全員を処刑場に配置させておきなさい」

「はっ」


 だが流石にあの罰を生き残れるとは部下は思っていなかった。


 この国から古く伝わる最も残酷な処刑だ。生き残った者は無く。そして一部の権力者しか見ることの出来ない……故に一般人は知らないのだ。この国の闇の部分を。


「クレオ様は何かが起こると?」

「起こる」


 はっきりと明言しクレオは歩き出した。


 起こるに決まっている。だからこそ部下たちを呼び寄せたのだ。


『殺す。ころす。コロス。コロス。コロス……』


 全身から殺意を撒き散らしクレオは歩く。都に向かい。




 都の某所



「え~っとですね~。皆さん一度落ち着いて……ちょっと私の話を聞きましょうか?」


 睡眠不足の皆さんには私の声など届きません。


 完全武装……のはずなのに、どうして古来より伝わりし“ふんどし”を何度も結び直しているのでしょうか?

 それで武器を持てば無敵って、街の子供でもそんなことは言わないと思います。言うかな?

 言うかもしれませんが実行はしないと思います。筋肉が鎧とかあり得ませんから。


 何がどうしてこうなったのでしょうか?


 確かに私は『アルグスタ様たちの処刑の妨害は出来ないでしょうか?』と尋ねました。

 ここが重要です。尋ねたんです。それが伝言を重ねた結果、左宰相様に届いた時には『アルグスタ様たちを処刑から救いに行きます!』になっていたんです。


 結果として彼らはふんどしを締め直して……うん。これがアルグスタ様が言っていた気にしたら負けと言う奴ですね。把握しました。


 動き出した何かを止めることは難しく、私は部屋で名無しの女の子を抱いて震えるばかりです。


 これは絶対に悪いことが起きる前触れです。あのアルグスタ様たちが大人しく処刑されるわけがないんですから……そんな場所に私たちが向かえば絶対に良くないことが起きます。


 困りました。本当に。




 女王宮



「右宰相は、サーブは何と?」

「それが連絡が付かず」

「この愚か者たちがっ!」


 激高した女王は手にしていた扇子を相手に向かい投げつけた。

 硬い木で作られたそれは十分に打撃武器と化す。ガツッと鈍い音を響かせた女性は頭を下げたままで自分の血液が床を濡らして行くことを見つめていた。


「あの者たちの処刑など決して認めぬ。認めぬと言っておるのじゃ!」


 半狂乱で騒ぐ人物から、パチンパチンと肉同士がぶつかり合う音がする。

 激しく動く女王陛下が奏でているのは間違いないが、それを確認する者は居ない。


 先日の件は全て異国の使者が悪いと言うことでお咎めは無かった。


 無かったが誰もが忘れられずにいる。美しい女王陛下のご尊顔をもう一度見たいが、それを覗き見ることなど決して許されない。


「どうにかサーブに処刑の延期を」

「ですが陛下」

「ええいっ!」


 バンと激しい音がして、報告していた女性は血で濡れる床に影が生じたことに気づいた。


「来ぬと言うのであればこちらから出向くしか無かろう」

「ですが陛下」

「くどい! あの者たちを殺させるわけには……」


 唾棄でもしそうな勢いで女王は色々な感情を吐き出しそうになり我慢した。

 自分が女王であることを思い出したからだ。


「処刑場に向かいあの者たちの処刑を止めさせる。良いな?」

「女王陛下の御心のままに」


 彼女たちは自分の主人に逆らうことなどできない。

 命じられれば何があっても女王陛下のために努力するのだ。


『どうして?』と問われると返す言葉は無い。

 ただ『しなければいけないから』としか言いようがない。




 女王宮の屋根の上



「ほうほう。これは面白くなってきましたね」


『ぎょぎょぎょ……』と笑いそれは慌ただしくなった神聖国の都を見る。


 良い感じに混沌と化して来た。これこそ上が望む状態だ。


 血などは、流れれば流れるほど良いらしい。

 本来流れ落ちた血液は触媒となり、召喚の魔女がその昔に描いたと伝わる大陸全土に刻まれた超大規模術式が存在していると語られてはきた。


 だがそれは夢物語らしい。存在などしていない。図が描ききれなかったのだ。

 代わりに小さな物なら描き実行することはできると判明している。


 神聖国で大量の血を、殺し合いを、命の奪い合いを実行する。

 そしてそこから得られる物を魔竜王に収める。そうすれば今まで以上の力を得られるのだ。


 それが飴と鞭と呼ばれる上の方針だ。


 踊らされているのは分かっている。それでも踊るしかない。

 今は上に逆らうような力が無いのだ。


「今はこれで良い。踊れ人間よ」


 今はこれを我慢するしかないのだ。今はまだ。




 都の某所



「今こそ両宰相を廃しこの国に真なる平和をもたらす好機である」


 アルグスタを女王宮に案内した人物は部下や同僚たちを前に腹の底から声を放った。


「近くに居る有力部族との交渉は終えている。まさか右宰相たちも自分の味方である部族たちが裏切っているとは気づいていない。これを好機と言わずして何を好機と言おうか!」


 張り上げる彼の声に仲間たちが呼応する。

 全員が拳を天に向けて突き上げた。


「この国を正しい形に!」

「「正しい形に!」」


 その場に居る全員がそう叫んでいた。




 都の某所



 その昔……祈りの場所として作られた尖塔の天辺でそれは座って居た。


 渦巻いている都の空気に嫌な気配しか感じない。

 たぶんあの場所に居ると何かが狂わされるのだろう。


 現に今、神聖国の都は狂い出していた。

 元から狂ってはいたが、ここ最近は特に酷い。


 自分が両親から聞いた話とだいぶ違う。

 神聖国の都は豊かに栄え、住む人たちはみな笑顔だったという。


 それが今は見る影もない。


 人々は言い争いなどはしていないが、口々に皮肉などを挟んて攻撃して来る。

 攻撃が争いに発展するのなんて簡単なことだ。


「この国はどうしてしまったのだろうか」


 ゆっくりと尖塔の上に立ち、それは神聖国を見下ろした。


 豊かであるはずの都は完全に貧していた。

 物資がではない。人が持っているはずの何かがだ。


「でも陛下を守らないと」


 それが両親から命じたことだから。

 それを守るためにどんな無理でもすると胸に誓ったのだから。


「女王陛下……アルテミス様のために」




~あとがき~


 6者6様…主人公たちまで入れるとカオスだなw


 ただもう少し各陣営を掘り下げた方が良かった気もするが、余り掘るとネタバレが発生しそうで怖かったんですよね。なのでここから少しずつ掘り下げつつ伏線回収して行ければいいな。出来るのかな? 作者にも謎っす。


 さてと。ここから神聖国編は一気にゴールまで突き進むはずです。

 予定だと20話から30話の間で終わってw




© 2023 甲斐八雲

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