覚悟を決めたか~!

 神聖国・都の某所



 場所を聞かれても分からない。

 と言うか馬車に乗せられ目隠しをされ……僕らは運ばれた。


 運ばれている途中でノイエたちとは別れた感じだ。

 何故漠然としているかと言うと、相手の誘導に従い歩いていたら、気づいたら僕1人だった。

 目隠しを外され知らされる事実にビックリだ。


 そして自分がいた場所は、かの有名な拷問部屋だ。

 壁には拷問道具が吊るすように保管されている。物々しい道具が並んでいる。


 昔から思うが拷問部屋のビジュアルって床とか壁とかに血のりが飛んでいる割には、道具は綺麗に保管されているんだよね。まあ木箱に無造作に突っ込まれている道具を無作為に取り出して『こっちじゃないわ。間違えちゃった。テヘペロ』とかされた方が怖い気もするんだが……こう奇麗に並ばれているのも中々胸の奥に来るものがある。


 だが僕とて一国の王子。元だが王子だ。

 王子の矜持など……生まれ変わった時点で投げ捨てた身である。


 拷問官がドン引きするほど無抵抗で質問に対し返答をする。


 抵抗しないのかですって? この状況で抵抗する方が馬鹿でしょう? だって歯向かえばそこの道具の出番になるんでしょう? なりますよね?


 僕は痛いのとか嫌いなので逆らいません。何でも質問してください。


 ちなみにウソ発見器的な魔道具とかありませんか?


 僕がどれ程素直に答えているのかの証拠にしたいだけですって。


 王族の矜持? それを振りかざすと僕の安全は確保されるのですか? されませんよね?


 ならば振りかざしたりしません。好きなだけ自由に質問してください。僕は無抵抗で全てお答えしましょう。


 何時にこの場所に来たのか分かりませんが、僕は拷問官の質問に答え続けた。

 途中から拷問官の苦労話も聞きながら……意外と拷問する方も大変だそうです。


 相手を殺すことなく必要な情報を引き出さなければいけないので、物凄く精神を使うとか。

 最初はやる気満々でやって来た新人が精神を病んで退職していくことが多々あるとか。


 それは大変だ。愚痴りたければ好きなだけ愚痴ってください。

 部下の愚痴を聞くことこそ、上司としての仕事の一環だと僕は思っています。


 ここではお客さんですが、国に帰れば個性的な部下を持つ身なんです。

 個性と言うか人の屑と言うか……結構厄介な人間たちばかりなので色々な愚痴を聞いてあげています。だからどんとこいです。


 なるほどなるほど。うんうん。たぶんこの手の職業は才能に左右されるんだと思うよ。

 僕も無理かな~。虐めるのは好きだけど物理的じゃなくて言葉攻めだしね。物理的に虐められるのはされる方かもしれないです。


 ちょっと聞いてくださいよ~。ウチのお嫁さんたちったら酷いんですよ~。


 ホリーやレニーラやファシーやノイエにされる行為を話して聞かせたら軽く引かれた。


 え? ウチの寝所じゃよくある行為ですが他所では違うのですか? 普通そこまでしない? 嘘だ~。マジで?


 神聖国の一般常識を拷問官の人たちから聞く。そう途中で拷問官が変わるのだ。

 何でも拷問官の仕事は体力仕事なので、途中で変わるのは仕方がないとのことなのだとか。


 ただ相手が誰になろうが僕の無抵抗さは徹底している。

 仕事なんだし疲れるより楽して進めましょうよ。でしょ?


 色々な人と話をし、途中女性の拷問官が出て来た時だけは対応に困った。


 女性ってことは、仕事の内容はあれですか? 快楽的な? そうだけど違う?


 寸止めにして責め苦を与えると。


 やっぱり寸止めって効くんですかね? 効くんだ。どんな感じで?


 それは大変勉強になります。出来ればもっとこうディープな質問とかしても良いですかね?


 今回だけのサービスですか……ありがとうございます! 先輩!




「そろそろあの若造も抵抗を止めた頃であろう?」


 勝手をした女王から苦情が来たが、勝手をしたのは向こうである。


 その対応や左宰相の追い込みなど右宰相にはやるべき仕事は山のようにある。

 だが今までのような憂鬱さは無い。これを乗り越えればこの国の支配者となる未来が待っているのだ。ならば今だけの苦しみだ。


 軽く笑い右宰相は薄暗い通路を進む。この先にある部屋が拷問部屋だ。


 わざと地下に作り明かりを取り込まないようにしている。

 人は明かりを奪われるだけで恐怖に駆られるものだ。


 それにこの地下に居る拷問官たちはとても優秀だ。

 どんな者も殺すことなく壊して情報を吐き出させる。


「それでは情報を聞くとするか」


 笑い彼は上着を脱いで部下にそれを渡す。

 その為部下は右宰相に話し掛けるタイミングを失ってしまった。


 拷問官たちの仕事が優秀過ぎるのか、必要以上に情報を得られ現在それを纏める作業に手間取っていると……その報告が出来なかったのだ。


「どうかね? 少しは素直に……」


 扉を開き軽くポーズを取った右宰相は、軽く髪の毛を掻き上げ視線を室内に向けた状態で凍り付いた。


「お~っとタイロフ君がレイラさんの前に来た~! 覚悟を決めたか~!」


 何故か拷問官たちが集まっていた。部屋の中にほぼ全員だ。

 そして拘束された若者が場を仕切り……右宰相は状況を把握できずにいた。


「さあタイロフ君。君の思いをっ!」


 囚われの若造に促され、筋肉質の男性がサディスティックな女性の前でガチガチに緊張しながら口を開いた。


「レイラ! 実はずっと前から君のあの寸止め技術にときめいていました! どうか俺と結婚して欲しい!」

「なんて熱い告白でしょうかっ! それとも自分が寸止めされたいだけかっ! さあ拷問官のアイドル、レイラさんの返答はっ!」

「……お願いします」

「「「マジか~!」」」


 拷問官のほぼ全員が崩れ落ちた。その中に既婚者が含まれていることを右宰相は知らない。


「いや~。僕も嬉しい限りですよ~」


 何故か場を支配している若造がしたり顔で頷いている。


「レイラ先輩には色々な技術を学びました。だから幸せになって欲しかった。確かにタイロフ君は力任せな所がありますが、彼は趣味は家庭菜園です。こう見えて結構繊細なので、絶対にレイラ先輩のことを大切にしてくれると信じています。さあタイロフ君。この誓いの手枷で2人の愛を永遠に」

「おう。ありがとうな。アルグスタ」

「なんのなんの。僕も君が幸せになってくれて嬉しいです」


 そんな会話が進み2人の男女の拷問官が誓いの手枷をはめ合う。

 拷問室にお祝いの拍手に溢れ……うんうんと頷いた若造がようやくそれに気づいた。


「で、そこのポーズを決めた人は何の用ですか?」


 その声に右宰相の表情に軽くヒビが走った。




~あとがき~


 この主人公は何処に行っても会話さえできれば生き残れるなw


 右宰相も厄介な相手をすることになったものです。

 本気で同情します




© 2023 甲斐八雲

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