Main Story 27
女王宮に巣くう者の正体です
神聖国・とある場所
閉じ込められていた部屋から解放されて案内された場所は、調度品など置かれていないし、こじんまりとしているけど綺麗に清掃された部屋でした。客間と呼んでも良いかと思います。
椅子に腰かける私の前には長い長方形のテーブルが存在しています。とても重そうなテーブルで、どうやってこんな地下室に押し込んだのか不思議でありません。
分解してから搬入して組み立てたのでしょうか?
私と向かい合う形で腰かけているのは初老のご老人です。はち切れんばかりの筋肉を身に宿した御仁です。あるピクピクと動く大胸筋が私としては凄いと思います。とても美味しそうです。触れてみたいです。
「自分の話は面白くありませんかな?」
「えっと……はい?」
相手の筋肉に見とれていたら話を聞き逃していました。
軽く咳払いをして椅子に座り直します。ところで私の方が上座と呼ばれる方に座って居るのは本当に宜しいのでしょうか? 絶対に間違っていますよね? 違うんですか?
偉そうな相手……まあ実際その正体はとても偉い人でしたが、彼は私の父様と古くからの付き合いがあり、恥ずかしい言葉を使って良いのなら『同志』という間柄だったそうです。良く分かりませんがそういう関係だったそうです。
その関係もあって私を上座に……違いますよね。分かっています。ただの現実逃避です。
こんな時ばかりはアルグスタ様のあの精神的な切り替えしは凄い才能だと思います。こんな状況に陥ってもあの人なら笑ってやり過ごすでしょう。
もしかしたら精神的に難があるのかもしれないですね。
「すみません。昨夜からあまり寝ていなくて」
「そうでしたね。でしたら続きは後にしますかな?」
ああ。そんな低い声でそんな恰好の良い言葉を言わないでください。
決して私はご年配の男性が好みという訳ではありません。老いも若きも区別するのは失礼です。
ですがちょっと筋肉質の男性には胸の奥がキュンとなります。あくまでキュンとなるだけです。
何より私は母様に言われ続けた言葉が胸の奥にあります。
母様は幼い頃からずっと私にこう言い聞かせてくれたのです。
『アテナ。良い? もし貴女が誰か一人の男性を愛する日が来るとしたら、その人を選ばなくてはいけなくなったら……迷うことなく股間のあれが立派な人を選びなさい』と。
子供の頃には理解できない言葉でしたが、成長してから理解しました。
意味を理解した時はベッドの上で枕を何度も殴り飛ばしましたが、今となればその言葉の深い意味を理解しています。
神聖国の男性はふくよかな人が多いのです。ふくよかな男性は富の象徴なのです。
ええ。あれが立派じゃないと自身のお肉に埋没してしまって……母様。だったら別にふくよかな男性では無い人を娶ればよいと思うのですが?
今となれば決して届かない愚かな娘からへの言葉かもしれませんが。
「やはり休憩を挟みましょうか?」
「えっと……あはは~」
また現実逃避をしてしまっていました。
でも仕方がないと思います。だって仕方ないじゃないですか。
「あの~。もう一度伺っても宜しいでしょうか?」
「はい。貴女様の質問であれば何でもお答えしましょう」
上半身裸の彼が両腕を大きく開いて『何でも聞いて欲しい』と身振りをしてくる。
ところでどうしてこの御方は上半身裸なのでしょうか?
「私が女王陛下だと言うのはその……」
「またそのご質問ですか」
彼は広げていた腕を閉じて顔の前で手を結んだ。
「貴女は間違いなくこの国の女王陛下だ」
断言して来ました。迷うことなく真っ直ぐな目で。
もしこれを国の重鎮に聞かれれば……目の前の方がその最高峰の1人なんですけどね。
「現在女王宮に籠りこの国を内側から腐敗させている悪女とは違い、この国の正統なる血を引き継いだ女王陛下だ」
「えっと……どうして断言できるのですか?」
ようやく私の口から放つことの出来た言葉に彼は鷹揚に頷き返した。
「我が友ハウレムは女王陛下からの信用に厚い人物だった。そしてその細君は女王陛下の護衛を務める最も優れたヨコヅナと呼ばれていた御方だ」
「はあ」
気の抜けた声が出てしまったのは仕方ない。
確かに父様も母様も立派な人でしたが、そんな高評価を得るような人では無いと娘の私は思っていました。仲睦まじい夫婦でしたが、アブラミの街を平和に維持するのでいっぱいいっぱいの様子でしたし……そんな父様が女王陛下からの信が厚いと言われても。
何より母様なんて暇さえあればソファーで横になり、お菓子をパクパク食べていた人ですしね。
最も優秀なヨコヅナって……たぶん間違いだと思うんです。
色々と疑問を抱く私に対し、彼は言葉を続ける。
「そして貴女だ」
「はあ」
「貴女こそ正統血統の証拠が顕著に出ている」
「……」
ひと目見て分かる証拠って何ですか?
「分かりませんかな? その女王陛下が代々受け継いできた立派な顎を」
「……」
この顎ってあれですよね? 何故かこれを見るアルグスタ様の目から若干光を失わせていたんですが、これって外国では悪く見られる特徴とかじゃないんですか?
「その顎こそが貴女が女王の血を引いている証拠です」
「……」
「分かりませんか?」
また彼……宰相様が両腕を広げて私に問うてきます。
はい。分かりません。
「我が国ではその特徴を持つ者は女王陛下の血筋しかいないのです」
えっと、それは?
「我が国がどうして他国との関りを極力回避しているのか……その最大の理由が女王陛下の特徴を取り込むことを避けるためなのですよ」
「そんなことで?」
「ええ」
宰相様は軽く苦笑して見せた。
私の言葉に何か思うことがあるのだろう。
「ですが古き秩序を守らない者も増えて来たのも事実です。ですから女王陛下はずっとその心を痛めていました」
「……どうして?」
話が全く分かりませんが、別に問題になるようなことは……
「女王陛下の特徴を持つ者が現れるようになったのです」
「それの何処が悪いのでしょうか?」
決して女王陛下が心を痛める理由にはならないような?
「ええ。ですが悪知恵を巡らせることはできます。誰かが女王陛下の……正しき血筋の証拠を知れば“代理”を立てることはできるでしょう。そうすれば血筋でも無い者が女王になることは出来るのです」
「つまり女王陛下の偽者が?」
「はい」
静かに頷き宰相様は深くため息を吐いた。
「ただ血筋を引いていても間違った行いをする者も居ます」
「それは?」
「ええ」
彼は苦笑して私を見ました。
「現在女王宮に巣くう者の正体です」
「……」
この人は何を言っているのでしょうか?
「ですから我々は現女王を亡き者にし、そして貴女様に女王陛下の玉座をお渡ししましょう」
「……」
何も言えません。
口が、唇が張り付いてしまったかのように動いてくれません。
ですが宰相様は前のめりになり私を見つめて来るのです。迷いの無い真っ直ぐな目で。
「我々がこの国の膿を全て絞り出し、そして消えましょう。ですからその後は……貴女様にこの国の舵取りをお願いしたいのです」
とても静かな声で伝えられた言葉に私の胸の奥がキュッとなります。
何とも言えないプレッシャーに押しつぶされそうになって、
「ごめんなさい。無理です」
素直にその言葉が口から出ました。
~あとがき~
脱線も無事に終えて本編再開です。
主人公が居ないとシリアスさんが仕事を…しているのか?
別行動になっているアテナさんは自身の秘密を暴露されていますが全力拒絶です。
当たり前です。突然女王の~とか言われて受け入れられるわけがないですから。
ただ今回敢えて話を逸らしている部分があります。
気づいた人はまだ秘密ということで。何故ならそれはシリアスさんの仕事なので…
© 2023 甲斐八雲
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