No.8

 とある世界のとある場所



「何しているのよ!」


 存在が無駄にゴージャスな馬鹿が騒いでいる。


 ビシッと向けた指の先に居るのはノイエとシュシュだ。

 若干角度を調節してシュシュに向けたのを僕は見逃していない。


「人に指を向けるなってその昔習わなかったか?」

「あん?」


 その姿を見るのも嫌なので頬杖をついて視線を逸らして告げたら馬鹿が噛みついて来た。


「人前でキスしているのは何だと言うのよ!」

「別に? ノイエは好きな人が相手ならどこでもするぞ?」

「……」

「あ~れ~? もしかしてノイエにキスして貰ったことの無い人でしたか~? それはごめんね~。プププププ~」


 顔を背けて高らかに笑う僕の様子にクラスメイトたちが静かに離れていく。


 何故かリグが起きて来てセシリーンに手を貸し避難した。

 普段の僕であれば一緒に逃げることを選択するのだが、相手が相手だ。僕は引かない。


「誰に物を言っているのかしら?」

「あん? 場の空気も読めずにノイエとシュシュを非難している馬鹿かな?」

「ノイエには向けてないわよ。臆病風に吹かれて顔を背けているから見えなかったかしら?」

「あ~。ごめんね~。醜い馬鹿者の顔を見ると心が汚れそうで拒絶反応が」

「「あん?」」


 椅子から立ち上がり相手を正面から……卑怯なり!


 馬鹿従姉の後ろに欠伸をしながら頭を掻くカミーラが居た。


 姐さん。貴女は何処に行っても男装っぽい格好をするんですね。何より似合っているから始末に負えませんが、そっち側に居るとなると実質2対1か? 勝てんぞ?


「あら? どうかしたのかしら?」


 こっちの空気を察したのか、馬鹿が調子づいて笑ってきやがった。


 誰か援護を……リグとセシリーン!


 遠く離れた場所でこっちを見ながらリグを背中から抱きしめているセシリーンが微笑みながら手を振って来る。その様子はまるで『頑張って』と言いたげだ。


 マジで困ったぞ。

 馬鹿従姉はいざとなれば全裸に剥いて屋上からロープで吊るすぐらいのことは出来る。出来るが、カミーラがいる限りこちらの物理的火力は圧倒的に不利だ。不利過ぎる。つか勝てない。


 誰か居ないか? カミーラ相手に時間を稼げる相手は? ジャルスは? スハは? 無理か?


「あ~ら? どうかしたのかしら~?」

「くっ」


 これが本当の『虎の威を借る狐』か? どうすれば、


「きゅう~」


 悩む僕の前にシュシュがもんどり打って倒れこんで来た。


 突然のことで一瞬動きが止まったが、ガタガタと震えているシュシュは……今の今までノイエとキスしていましたか?

 どうやらそうにしか見えないシュシュは完全に酸欠状態だ。つまり?


「アルグさん?」


 僕の隣にノイエが来た。

 若干唇の端に付いている涎が凄くエロいっす。


「何しているの?」

「……」


 さあ考えろ。どうする?


「ノイエ~。あの怖い人がいじめる~」

「なぁ~っ!」


 ノイエに甘える僕に対し、馬鹿従姉が目を剥いて悲鳴を上げる。


 あは~。良く見るがいい。


 軽く屈んでノイエの胸に顔を押し付けて全力で甘える。ただノイエはこれぐらいで心が動いたりしない。姉と僕とを天秤にかけてどうにか水平を保とうとする。だがそれを知る僕は次なる手が打てるのだ。


 視線を軽く馬鹿従姉に向ければ……鬼の形相で怒っている。


 ん~? ノイエは僕の婚約者ですからいくらでもこうして胸に頬を押し付けても問題ありませんから。何よりノイエは嫌ったりしませんから。


 ポムポムとノイエ胸に頬を押し付けていると、ノイエの手が伸びて来る。

 どうやらノイエの中の天秤が動き出したらしい。が、甘い。


「ノイエ。今夜は楽しもうね」

「……」


 僕を離そうとしたノイエの手が一瞬止まって再起動した。

 全力で抱えこんで僕の顔を胸に押し付ける。


 勝ったな。


「むぎぎぎぎ~!」


 歯をむき出して怒る馬鹿が自分の後ろを振り返りながら口を開く。


「カミー、ら?」


 だが正面を向いていた馬鹿は知らない。


 そもそもカミーラは自分が楽しめる戦いを求める修行者のような人物だ。探求者か? まあそんな感じだ。そんな人物がずっと後ろで待機なんてしていない。

 さっきフラッとやって来たジャルスの後を追って移動して行った。


 なら『ノイエに甘える必要は無かったのでは?』と質問を受けそうだが、要る。要るのだ。

 何故ならば僕が求めるものは圧勝だ。完勝だ。馬鹿従姉が泣いて詫びる状況だ。


 自分の後ろに居ると思っていたカミーラが居なくなっている事実を知った馬鹿従姉の動きがフリーズした。つまり僕の勝ちだ。後はどうして料理してやろうか?


「……仕方ないわね」


 無駄に長い髪を掻き上げ馬鹿がゆっくりとこちらを向く。

 軽く手を叩くと女子生徒たちが何かを抱えてやって来た。あの腕章は生徒会役員か?


「あっ」


 そして運ばれてきたモノを見て僕は思わず声を出した。

 ヤバい。それは禁じ手だ。禁止事項だ。


「アルグちゃん? 私の目の前で何をしているのかしら?」


 生徒会役員の手から解放された幽鬼のような存在……ホリーが一歩一歩近づいて来る。


 これはマズい。どう回避するべきかマジで悩む。


「次っ!」


 なにっ!


 馬鹿従姉の声にまた生徒会役員が……マジか? 僕を殺す気か?


「あは~。お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん……」


 ホリーの横をすり抜け飛びついて来たのはファナッテだ。最強の病んだ。病ん様だ。


 ノイエの腕から僕を掻っ攫うようにってどんな体勢でキスをしようとしている! 見えちゃうから! その体勢はスカートの中とか絶対に見せちゃうから!


「へ~。アルグちゃん。お姉ちゃんの前でそんなことをするんだ」


 ちょっと待てホリー!


 僕の声は無情にも『もごもご』としたモノになってしまう。何故ならファナッテが自分の唇を使い僕の口を塞いでいるからだ。

 と言うか君ってば周りの目とか気にしていないのね?


「だったらお姉ちゃんも少し本気を見せてあげようかしら?」


 今にもその髪の毛を動かしそうな凄みを纏ってホリーが突っ込んで来る。

 そしてノイエは2人の存在と言うか圧を受け、黙って僕を抱えていた腕を離した。


「うお~! これは、もごっ……卑怯だ、もごっ……ズルい、もごっ」


 奪い合うようにホリーとファナッテが僕にキスをしてくる。

 そのサイクルから逃れられない。逃げられない。どうしたら良いのだ?


 パンパンッ!


「何をしているのかしら?」


 冷たく響いた声にクラス中が静まり返る。


 ただ僕から発せられる音は変わらない。何故ならこの2人が止まるなんてことは無い。

 互いに大きな胸を押し付けて来て代わる代わるキスして来る。男冥利に尽きる状態だろうが、実際かなりヤバい。


 どれ程ヤバいかは簡単だ。廊下から教室に入って来た女性用のスーツでバッチリ女教師の姿となっているフレアさんが絶対零度の視線を向けて来る程度にヤバい。


「そこの3人」


 指摘されても返事が返せない。

 唇を、って僕の息子に手を伸ばしているのはどっちだ!


「理事長室に来なさい。いいえ。連行しなさい」


 フレアさんの指示で僕らは生徒会役員の手により捕縛され理事長室へと連行された。



 結果……1週間の自宅学習を命じられた。




 とある天井界のとある作業場



「ふっ……作者よ! これが私の実力よ!」

「ある意味で通常運転じゃない?」

「何おう? ならここから先の凄い展開を……って何よ?」

「ん? ぶっちゃけそろそろ体調が回復したので再開したいんですが?」

「あん? なら仕方ないわね。ここで一回セーブしてあげるわよ」

「あざーっす」

「でも必ずこの続きを……ちょっと作者。こっちを見なさいっ!」

「何も見えませ~ん」

「目隠ししているからでしょ! 確約! 続きの確約をっ!」

「それは全て人気次第です」

「キリッとした表情でお前と言う奴は~! 私のデ〇プシーでマットに沈める!」

「返り討ちにしてやる! 掛かって来いや~!」




~あとがき~


 無事にセーブポイントに到着したぞw


 そんな訳でこの番外編はここでいったんお休みです。

 続きは神聖国編が終了したら、一応プロローグまで書く予定です。


 予定では明日から本編再開ですが、一回神聖国編を読み返して確認作業をしたいかなって思っているので明後日からになるかもしれません。


 今度こそ神聖国編が終わるまで一気に書き上げたいと思います




© 2023 甲斐八雲

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