No.4

 とある世界のとある場所



 アイルローゼには僕の分のプリントを手渡してどうにか乗り切った。

 僕の分は購買部でノイエの物をコピーして……ノイエが両手いっぱいのポテチを抱えて来たことに対してはちゃんとダメ出しをしておいた。


 そういうお菓子の類はスーパーとかの自社製品を買いなさい。あっちの方が安いから数を買えます。分かりましたか?

 味へのこだわりは捨てなさい。ポテチは基本の塩味がベストです。ベストなのです。分かりましたか?


「コンソメこそ正義」

「ならばコンソメ味の自社製品のあるスーパーを探しに行く旅に出よう」

「はい」


 僕らは教室を出て、校舎を出て……あれ? 無事に帰れそうだぞ?


「アルグさん」

「はい」

「早くポテチ」


 ノイエが僕の手を握りグイグイと手を引く。

 あ~。僕は今、アオハルをしています。これぞ青春です。


「ノイエ」

「はい」

「手を引っ張られるよりも腕に抱き着いて欲しいかも?」

「はい」


 迷うことなくノイエが僕の腕に抱き着いて来る。

 至福だ……今ならこのまま死んでも構わない。我が人生に一片の悔いなしだ。


「にいさま~。ねえさま~」

「はい?」


 元気な声を発して駆けて来たのはポーラだ。


 そうか。ポーラはこっちでも扱いは同じなのか。

 ただ服装はいつものメイド服ではない。作りはノイエと同じ……実は系列校の中学校とかに所属していますか? してるんだ。小学校まであると。凄いな。


「ころねとすずねはさきにかえってます」

「へ~」


 いや待て。なぜあの2人が居る? 居候? ホームステイ? ホームステイが正解なのね。

 はい? 理事長の命令で預かっている? 何故僕の家で?

 ああ。理事長って叔母様なのね。納得したよこんちくしょうっ! 実力主義な部分とかからして、もしかして~と思っていたけどね!


 落ち着け僕よ。今、指摘するのはそこじゃない。


「現在何人居るんだっけ?」


 この問いに僕が持っている鞄を取り上げ、手を握って来たポーラが答えてくれる。

 両手に花のはずだが後ろから見ると夫婦に見えたりしませんか? 見えない? 良くて兄妹と……大丈夫。いつの日にか自他ともに認める夫婦になりますから。


 軽く首を傾げたポーラが『なんでそんな質問を?』と言いたげな視線を向けて来るがスルーです。僕の質問に答えなさい。


 まずノイエとポーラ姉妹だ。まあそうだろう。それと保護者兼監視役でミネルバさん。なるほど。居候のコロネとスズネですか。ほぼドラグナイト家ですね。フェイントとか無くて助かります。


「あと」

「まだ居るの?」

「いますよ。にいさま?」


 そんな『大丈夫ですか?』と言いたげな視線を向けないでください。僕は正常です。


「ずっとねているのーふぇねえさまがいます」

「……」


 一瞬『誰だっけ?』と思ってしまったのは内緒だ。ノイエの実の姉でお亡くなりになったと思ったら悪魔が掻っ攫った存在ですよね? 居るんですか? ずっと寝ていると?


 無難だな。このまま目覚めないでいただこう。


「いまのところいじょうです」


 おひおひ妹よ。そのフラグは危険だ。

 この世界限定なら良いが、元に戻ってから増えたらどうする? その可能性はあるんだぞ?


「アルグさん」

「はい?」

「ポテチ」


 そうそう忘れていたよ。


「ポーラ」

「はい」

「ノイエがコンソメポテチを求めています」

「ねえさまっ!」


 ポーラが少し怒ってノイエを睨む。

 僕の腕に抱き着いているノイエはその声を無視した。流石だ。


「ねえさま」

「ポテチ」

「きょうのゆうはんは」

「牛丼」


 ノイエの献立請求は請求ではない。決定事項だ。

 それに対してポーラがプリプリと怒るが……この睨めっこはいつまで続くんだ?


「……わかりました」


 ポーラが折れた。


「でもどちらかひとつです」

「むぅ」

「それかかたほうはひとつだけです」

「むぅ」


 それはどう考えても後者の方が良い気がします。


「どっちですか?」




 スーパーでの買い物を終え、僕らは家路を急ぐ。

 まさかノイエがポテチを選ぶとは思わなかった。ビニール袋にはコンソメ味のポテチがいっぱいだ。そして牛丼はテイクアウトの特盛を1つのみだ。


 ノイエは自分が口にした約束は必ず守る。


 アホ毛に引っ掛けたビニール袋を大量に背負いノイエはご機嫌に歩いている。それで良いのかノイエさん?


 ふんふんと鼻歌なのか興奮の吐息なのか分からない声を発して歩くノイエの足取りは軽い。

 軽い足取りで立派な門構えの屋敷へと突入していく。


「ん?」

「どうかしましたか?」


 余りにも自然だったから一瞬流し掛けたが、ノイエが今突撃して行った屋敷は何だろう?


 門の前に立ち軽く見上げる。純和風の門構えだ。こう来たか。


「にいさま?」

「無駄に立派だよな」

「そうですか?」


 僕の横に立つポーラが一緒に見上げる。


「わたしはすきです。おちつきがあって」


 なるほど。古臭いの良い言い方は『落ち着き』で良いのか。


「アルグさん。早く」

「はいはい」


 ノイエに促されて門を潜って中に入ると、日本庭園から日本家屋が見える純和風のお屋敷だ。素晴らしい。つまり中は畳みか? 畳なのか?


 軽く急いで玄関を潜り土間に立つ。素晴らしきかな純和風。


「あっお帰りなさい」

「……」

「何ですか?」


 割烹着姿のコロネが掃除をしていた。サイクロン式の掃除機を手にしてだ。


「なんか残念っ!」

「何がっ!」

「たしかにです」

「まさかの先パイが参戦っ!」


 慌てるコロネにポーラが詰め寄る。かなりお怒りだ。


「いたびきのゆかは、めにそってそうじするのです」

「基本を怒られたっ」

「だからあなたは……」


 ポーラの小言が長そうだから、僕はスルーすることにした。


 板引きの廊下とか悪くない。実に素晴らしい。


 懐かしい感触を味わっていると、クラウチングスタートの格好にも見える体勢で廊下を突っ走る存在が居た。スズネだ。全力で廊下を雑巾がけしている。


「お帰りなさいませ」

「……」

「何か?」


 割烹着に三角巾までしているスズネは本当に真面目だ。


「あの~」

「気にしないで」

「はい」


 良い子良い子と頭を撫でて労をねぎらう。

 コロネの横着を見た後だけにスズネの真面目さが際立つ。

 本当に素晴らしい居候だ。全世界の居候はこうあるべきだと思う。


「で、ノイエは?」

「はい。袋を掲げて居間の方へ」

「了解」


 掃除に戻るスズネを見送り僕は適当に歩いて回る。


 これほど大きな屋敷だ。居間とか無意味にデカい部屋だろう。


 何個か部屋を確認してようやく発見。

 畳の上でゴロゴロしつつポテチを食らう制服姿のノイエを発見。


「こらノイエ」

「……食べる?」


 じゃなくてね。


「着替えて来なさい」

「はい」


 渋々といった様子でノイエは立ち上がると急いで部屋を出て行った。

 何故不満がる? 制服が皺になるでしょうが。


 ノイエがビニール袋から取り出したポテチを整理していると、トトトと軽い足音を響かせてノイエが戻って来た。


「ポテチ」

「……」

「なに?」


 何ってノイエさん? 貴女のその恰好に関して僕は何てコメントをしろと言うのかね?


 浴衣のようにも見える和装の格好をしているノイエだが、ツッコミどころが多い。

 まずノーブラだ。そして下着を穿いていない。挙句帯もしていない。よってフロント部がフルオープン状態で戻って来た。


「ポテチ」


 そして迷うことなく畳の上でゴロゴロしながらポテチを食べ始める。

 愛しい人のあられもない姿を眺める僕としては、この後の行動に悩む。


「どうするか?」

「まず帯と下着の類を取りに行けば宜しいのではないでしょうか?」

「そうだね」

「持って来ていますが」


 スタスタと和装姿のミネルバさんが居間に入って来ると、ノイエを捕まえて下着を穿かせる。

 赤子のオムツ交換と同じノリで下着を穿かせると、巻き寿司感覚で帯を巻いて締めた。


「本日の夕飯は天ぷらですのでポテトチップスはほどほどに」

「あっでも今日のノイエは牛丼を、」


 不意に僕の足をノイエが掴んだ。


「天ぷら食べる」

「……」


 ノイエの食欲は何処に行っても変わらないらしい。




~あとがき~


 ノイエたちを純和風の世界に放り出したいと思ったサツキ村編が不完全燃焼だったのでこっちでリベンジですw


 問題はここからの選択肢を間違えるとこの話は長くなる。

 気を付けなければ…




© 2023 甲斐八雲

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