No.2
とある世界のとある場所
教卓に寄り掛かるように立っている大きな馬鹿が僕を真っすぐ見ている。
背後に居るのはノイエだから見ているのは間違いなく僕だろう。ノイエは僕を盾にしてずっと寝ているしね。羨ましいな?
「でだ。アルグスタ」
視線を無視していたら声をかけて来た。
「彼は死にました」
「ならそこの動く死体。これを欠席の2人に届けておけ」
相手が手にしたプリントを見せて来る。察しろよ。
「何となく身の危険を感じるから断る」
「ならお前の親に告げ口をして今月の小遣いをカットしてやる」
理不尽なり。
どうやらこのクラスの担任らしい馬鹿兄貴の命令に僕は屈した。
小遣いのカットはズルい。何て卑怯な手段かと思う。
「で、誰と誰に?」
「ホリーとアイルローゼだな」
「本気で断ろう!」
「ならば来月の小遣いもカットで良いな?」
卑怯なり……。
負けを認めた僕の手元にプリントが2枚届いた。
「で、みんなは?」
「部活か委員会」
ほほう。
一緒に居るノイエがそう教えてくれる。
部活は誰だ?
レニーラがダンス部。納得だ。
セシリーンは吹奏楽部。歌わないの? 指揮をしていると。なら納得だ。
後は? 後は委員会ですか。
ファシーが図書委員? まあ納得しよう。
リグが保健委員。納得だな。
シュシュは? 帰宅委員。そっか。
ん? 委員? 帰宅部は負けた感じがするからそう言い張っていると。なら納得だ。
でもグラウンドに黄色いフワフワが踊るように揺れているんだが? 帰宅委員なのに直ぐに帰宅しないのがシュシュだと?
あ~何か分かる。部活動はしたくないんだけど家には直ぐ帰りたくないってヤツか。意外と寂しがり屋なんだな。
それでノイエは? 正真正銘の帰宅部であると。胸を張るな。押し付けて来ないの。
まあ僕も同じ部らしいから仕方ない
で、この問題児2人は学校に来ているの? 来ているっぽい?
1人はたぶん図書室に居る。もう1人は部室に居ると。
うん。身の危険しか感じないから帰ろうか?
どうしたノイエ? 何故僕の手を引いてそんなにやる気を見せている? はい? 僕のお小遣いがカットされたら困る? 理由は? セカンド財布は大切だと? ちょっとこっちに頭を向けようか? グリグリしても許されるよな?
ノイエの頭を拳で挟んでグリグリしながら、とりあえず行先に悩む。
部室は場所が謎だからまずは図書室かな?
甘えて来るノイエを腕に抱き着かせ僕らは廊下を歩く。
制服とか日本式なのに存在している生徒たちは日本人ではない。異世界の学校って感じがして意外と楽しい。これはこれで悪くないかもしれない。
すれ違う男子生徒たちの怨嗟のこもった視線に対し優越感を覚えながら図書室へと向かう。
まあノイエは本当に可愛いし美人だしスタイルも良い。セーラー服を着ているせいかその魅力は高まっている。そんな人物が僕の腕に抱き着いて甘えているのだ。
勝者だな。今の僕は間違いなく勝者である。
「で、ここか」
「はい」
歩き続けて図書館に着いた。
どこの学校にでもありそうな普通の図書館だ。教室二つ分ぐらいの……隣に図書館準備室があるから三つ分かな? まあ広そうだ。
扉を開いて一歩踏み出す。だが二歩目が動かなかった。
「……ファシー?」
「にゃぁあ」
僕の腰に飛びついて頬を擦り付ける猫のおかげで動けなくなった。
と言うかファシーさん? 僕の息子に頬を擦り付けないでいただけますか?
ノイエが怒って僕の腕を引っ張るんですがグイグイと胸の谷間に挟まって行くだけで……はい。エロい気持ちになるから2人とも止めようね?
ファシーを引き剥がして手を握り図書室の貸し出しカウンターへ移動する。
カウンターの内側には何故か机が置かれていて大きなクッションが乗っている。
『何でだろう?』と疑問に思いつつ眺めていると、ファシーが机に昇りクッションを枕にして眠りだした。
おい。当番よ? それで良いのか?
起こそうとするが周りの生徒たちに止められる。
猫様を眺めているだけで癒しになるので起こすなどと言う無粋なことをするなと言うのだ。
それで良いのか生徒諸君?
貸し出しの手続きは生徒たちが行い返却も生徒たちが行う。猫様はただ寝ているだけで……訪れる生徒たちの自主性が育っているのだと納得しよう。
で、ホリーかアイルローゼは?
ノイエと2人でフラフラと図書館の中を移動し探すがそれらしい人物は居ない。
もう一周捜索を開始したところで飽きたのであろうノイエが僕から離れて棚に置かれている『今夜の献立』的な物を手に取り読み始めた。
まさか今夜の献立を考えているのか? 違う? 今夜食べる物を決めると?
作る人が作れる物にしなさい。
ノイエと離れて捜索再開だ。図書館はお静かになので声をかけて回れないし……面倒だな。
二週目を終了し、僕は結論を出した。
誰も居ない。あの2人は居ない。なら部室という方を捜索して、
キィィ
はい?
背後で何か軋む音がしたと思ったらいきなり口を塞がれ引きずり込まれる。
床を転がりしたたかに背中を打って痛がっていると明かりが消えて暗くなった。
何事だろうと辺りを見るとどうやら倉庫っぽい場所に思える。図書準備室かな?
パチッと音がして部屋の明かりが灯った。
「うふふ。うふ。うふふふふふ……」
「……」
目の前にホリーが現れた。どうする?
まず全力で逃げ道をっ! 逃げ道を探せっ!
辺りを確認するが廊下に繋がるであろう扉には段ボール箱が山積みにされていた。つまり逃げられない。窓には分厚いカーテンがちゃんと閉じられていてこっちも無理だ。
つまり逃げ道はホリーの背後にある図書館に続く扉のみなのか?
「うふふ」
「っ!」
すぐ傍、耳元で聞こえて来た相手の声に出かけた悲鳴を食いしばり我慢した。
図書館ではお静かにだ。違う。怖がるとホリーの機嫌が悪くなるかもしれない。
「どうしたの? アルグちゃん?」
抱き着いて来た相手が僕の首をペロペロと舐める。
「もしかして逃げ道を探そうと?」
「そんな訳ないじゃん」
「そうよね? 誰にも邪魔されないか確認してたのよね?」
決してそんなことはしていません。
「大丈夫。誰にも邪魔されないように全部塞いだから」
犯人はやはりホリーだったかっ!
「アルグちゃんが来たと気付いてから全部塞いでおいたのよ」
ヤバい。怖い。怖いんだけど……押し付けられるホリーの胸の感触が柔らかくて気持ち良い。
これだから男の本能はっ! 何て正直なんだっ!
「ホリー? 胸が当たっているから」
「うん当ててる」
知ってる。
「アルグちゃんに喜んで欲しくて」
ホリーに手を掴まれて無理矢理何かを触らさせられる。
暖かくて柔らかくて掌が吸いつく……もしやこれは?
「生を味わってほしくてブラは外してあるわ」
ホリーの直胸でした~!
「ダメだよホリー。学校でこんなことは?」
「何を言っているの? 興奮するでしょう?」
はい。興奮します。めっちゃします。
でも僕の中の理性がストップをかけるのです。止まれ~と言って来るのです。
「それに僕はホリーにプリントを届けに来ただけだしね?」
「うん。受け取るわ。それとは別にアルグちゃんの……が欲しいだけ」
学校で異性に言われてみたい単語の1つを耳にしました~!
「ダメだよ。こんなことは良くないよ?」
「そうかしら?」
「そうだと思う」
「ならどうしてずっと揉んでるの?」
それは掌の中に気持ちいい柔らかな存在があるからです。そしてこれは揉まなければいけない物なのです。男だったら。迷うことなく。
「今から手を抜くから……何故にガッチリホールド?」
ホリーが抱き着いて来た。どうする? 逃げられそうにないぞ?
「ホリー」
「何かしら?」
チロチロと僕の頬を舐めないで。
「時間が無いから手短に……じゃダメ?」
「もう」
ホリーの拘束が緩んだ。
「仕方ないんだから」
~あとがき~
アルグスタのクラスの担任はハーフレンです。
だってこのクラスは問題児が多いですからw
ちなみに隣のクラスも問題児多数です。担任はフレアです。
で、ホリーとアイルローゼはクラスに来ない問題児です。
1人は図書室。もう1人は部室に居ると。
図書館に居たのはホリーでした
© 2023 甲斐八雲
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