No.1
とある世界のとある場所
「アルグさん?」
はいちょっと待て。
キョトンとしているノイエが可愛らしいがツッコミどころが満載だ。
何がどうしてこうなった? あん?
「どうかしたの?」
「……その服は?」
「服?」
短めのスカートの裾を指先で軽く摘まんでノイエがその場でクルリと一周する。
一瞬フワリとスカートが舞い上がったが、それ以上……見えない角度でキープされるのは何かしらの意志だろうか?
「いつも通り?」
「そっか~」
ノイエがそう言うならそうなのだろう。彼女がセーラー服を『いつも通り』と言うならいつも通りなのだろう。
そして僕が居る場所はどう見ても学校だ。学校の教室だ。だって前には黒板がある。そして黒板に向かい机が列を作っている。つまりは学校だ。様子からして高校か?
中学だと……ノイエのスカートの丈に難ありだ。こんな丈を許す中学校は存在していないと僕は信じている。
「アルグさん?」
「……」
『様』では無く『さん』付けらしい。
これはこれで斬新だが他人行儀に感じる。僕としては悲しいです。
「ノイエ」
「はい」
「少し説明を求めても良い」
「説明?」
「うん」
この確認は大切だ。忘れると後で大変なことになる。
「僕とノイエはどんな関係?」
「……」
小さく首を傾げたノイエがゆっくりと口を開く。
「両親が決めた」
ふむふむ。
「結婚相手」
ほほう。
「今は婚約中」
なるほどなるほど。
「今朝も夜からずっとアルグさんが、」
はいストップ。ストップです。
何故止めると言いたげにノイエはまた首を傾げた。
「どうして?」
「結婚して無いのにそれはダメでしょう?」
「大丈夫。するんだから」
「……」
「するから平気」
目の前まで顔を寄せてノイエがそう言い切る。
何故かいつもの感じがしない。必死さを若干感じる。
「絶対にする」
「そっか」
「だから負けない」
「誰に?」
「……」
目の前に居たノイエが僕に抱き着いて横に大きくスイングする。
あっ力持ち設定は変わらず継続なのね。つまりフードファイター設定も生きているのかな?
振られるままに移動をすれば、僕が居た場所に小柄な女性が居た。
セーラー服姿なのは間違いない。ただその上からフード付きのパーカーを着ている。ひと目で誰だかが分かる。ファシーだ。
「にゃん」
「ダメ」
「なぁん?」
「アルグさんは私の」
「……」
前髪で表情を隠しているがファシー様はお怒りのようだ。
怒れる猫のように前屈みになり今にもノイエに襲い掛かる気配を見せる。
止めて2人とも。僕のことで争わないで。
「あらあら。今日もファシーとノイエは仲良しさんね?」
優しい声がしたから目を向けると、そこには杖を手にしたお姉さまが居た。
全体的に優しい雰囲気の歌姫さんだ。セシリーンだ。
「あら? アルグスタさん。私の顔に何か?」
「……」
顔はあまり見ていない。見ていたのは彼女の制服だ。
何度でも言おう。どうやらこの場所は学校らしい。女子生徒はセーラー服だ。そして男子生徒はブレザーだ。出来れば両方ともブレザーで良かったんだすけど?
「私に何か?」
首を傾げて問うてくるセシリーンに僕は口を開く。
「コスプレ感が半端無いなって」
「……」
だってノイエは美人だけれど可愛いからセーラー服とか兎に角似合う。そしてファシーは小柄で愛らしいから似合ってしまう。けれどセシリーンはどう見ても二十歳以上な感じにしか見えない。
容姿云々じゃなくて雰囲気が年上に見せるのだ。
「うふふ」
セシリーンの微笑みに何故かクラス中の全員が数歩後退した。ノイエとファシーも後退した。
「アルグスタさん」
「はい」
こちらに向けられた相手の笑みがマジで怖い。
何故だろう? 笑っているのに怒っているようにしか見えないのは?
「ちょっと後で音楽教室に来ていただけますか? あの場所ならどれほど大きな声を出しても誰にも届きませんから」
こわっ!
「ダメ」
するとノイエが僕の前に立ってセシリーンとの間で壁になる。
何て献身的な婚約者なのでしょうか? これぞ婚約者です。
向こうの方で『どっちが主人公?』って言葉が聞こえて来たが気のせいです。
「でもお姉ちゃん」
「うふふ」
「後で音楽教室の鍵を、もごっ」
背後からノイエの口を塞いで置く。
危険がいっぱいだ。そして君は一瞬で何を企んだ? 音楽教室で一体僕に何をする気だ?
ノイエを羽交い絞めにしつつ、セシリーンとファシーに向けて盾にしていると背後から声が。
しまった。ここは教室だった。教室の出入り口が前後にある。黒板がある前っぽい方にセシリーンが居る。そして後方っぽい出入り口からは、
「あは~。アルグスタ君みっけ」
「……」
僕の目がフラットになった。半眼とも言う。
これはダメだ。アウトだ。
「何々? もうレニーラちゃんの魅力にメロメロ?」
「……安いコスプレ風俗臭が」
「あん?」
改造しまくりのセーラー服姿のレニーラに対する僕のコメントは間違っていないはずだ。
もうスカートの丈とか限界を超えている。ぶっちゃけ下着が見えているがたぶん見せても良いタイプの下着だろう。で、上はへそ出しだしね。風紀委員が居たら一発で説教だ。
「何よ? この『高嶺の花』と呼ばれているレニーラちゃんの制服姿に何か文句あるの?」
「文句はない。ただ見てて痛々しいだけで」
「あん?」
凄んで来るレニーラに対しまたノイエが盾になる。両手を広げて必死の盾だ。
「おはよう~だぞ~」
「あれだよ」
「はへ~?」
静々と我関せずといった様子で教室に入って来たシュシュを僕は指さす。
「あの完璧な着こなしを見なさい。改造なしで規則を守っている彼女の制服を」
「あは~。これって~褒め~られて~いるのか~だぞ~?」
「褒めてはいない。ただ事実のみを語っています」
「ちょっと~アルグ~ちゃん~?」
怪しい気配を向けて来るシュシュはひとまず置いておく。
怒っても彼女は基本無害だ。
「つまり制服を改造するなって言うの?」
「そうは言っていないが」
腰に手を当てて怒れるレニーラの言葉に僕も返答に困る。
そうじゃない。そうじゃないんだ。
「露出が多すぎるのはどうかと?」
「……」
何故か『いやんいやん』とレニーラが恥ずかしそうに首を振り出した。
「もう独占欲が強すぎるよ~」
「そうは言っていない」
「でも~」
手を動かしてセーラー服の前をレニーラが閉じると何かが今にも弾けてしまいそうだ。
「分かる? 胸が大きいのも大変なのよ」
「へ~」
まあ確かに大変そうだ。
「だからこうして改造して」
「おはよ」
胸を張って演説するレニーラの横からそれがカットインして来た。
ブルンブルンと胸を大きく震わせて入って来たのはリグだ。
セーラー服の胸の部分を大きく突き出し、結果としてお腹の部分がガバガバだ。
チラチラとおへそが見えるのは仕方がない。だって上着の丈が足らなくなっているのだから。
「なに?」
「……重そうだなって」
「うん。重い」
言って自分の机に向かったらしいリグは椅子に腰かけると、机の上に胸を置いた。
ズシッと重そうな物を乗せて軽く肩を叩きだす。
プルンプルンと机の上で何かが揺れ出し……机の上で大暴れだ。
と言うかこのペースでノイエの姉たちがこのクラスに集結するのか?
どうせ悪魔辺りの悪戯なんだろうし勘弁してください。
何の遊びなの? ねえ?
~あとがき~
プロローグの前にあたる話です。
何故か同じクラスですが、リグは制服を改造した方が良いと思う。
コロナにインフルと色々と流行っているようなので皆様も気を付けてください。
現状作者さんは38度の発熱をキープしておます。これぐらいなら別に苦も無いんですけどね
© 2023 甲斐八雲
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