巨乳なんてみんな死ねば良いのよ
神聖国・謁見の宮
時折『パン。パン』と音を発していたのは、女王が持つ扇子が奏でていたモノだった。
畳んだ扇子を手の内で叩き音を出していたのだ。
で、僕の視線が女王では無くて扇子に向いている理由は簡単だ。
えっと……発言に困る。どう表現すれば良い?
「アルグ様」
「ん?」
僕の腕に抱き着いたままのノイエが、こっちとあっちに視線を彷徨わしている。
「今夜は豚肉が良い」
「牛じゃダメ?」
「豚が良い」
そっか~。ノイエはあれを見て豚肉が食べたくなったのか~。
心の中で『あはは……』と笑う僕らの元に『あっどうも。失礼します』と言いたげな仕草で悪魔が戻って来た。
穂先を向けている女王の護衛たちは悪魔の動きなど見ていない。
全員が女王を見て凍り付いている。と言うか僕ら以外ほぼ全員が凍り付いている。
奏でられていた鈴の音は、心ここにあらずと言った人たちの適当な動きで音を発している感じでしかない。
全員が呆然自失だ。
「兄さま」
「ん?」
「あれを見てひと言どうぞ」
どうぞってお前……どう表現すれば良い? ノイエは『豚肉食べたい』だったけど、僕がそんなことを言えるわけがない。
これでも女性に優しいアルグスタさんなのです。
「イノシシって意外と筋肉質でマッチョなんだぜ?」
「失格。つまらない」
「何だと?」
ならお前は僕の答えよりももっとこう的を得たボケが出来るんだな? あの上野の西郷さんのようなお姿を見てボケられるんだな?
「私が知的なボケを見せてあげるわ」
何故か悪魔が薄い胸を大きく張って見せた。
「たぶん彼女はイラン・ペルシャカザール王朝の姫『タージョッサルタネ』の生まれ変わりよっ!」
「誰だよ?」
「はん……これだから田舎者は」
ムカッとしたから捕まえて抱え上げてお尻をペシペシしておく。
「いやん。こんな公然で」
「知るか」
「あっちょっと痛いかも? って姉さま? 何を探るように……ダメ~! そこは違う穴だからっ!」
ジタバタと激しく抵抗する悪魔が逃げ出した。
何故かノイエが悪魔のお尻を撫で回していると思ったら、指を立てて押し込んだのだ。
あっちの穴に。
「外れ?」
「当たりはどっち?」
「……」
僕の問いが難しかったのか、ノイエは黙って首を傾げた。
何より迷うことなく妹の尻に指という杭を打ち込む姉の姿に僕もビックリさ。
「で、あれは誰よ?」
「だから『タージョッサルタネ』でググりなさいよ」
「ねーよ。できねーよ」
復活した悪魔が両手でお尻をガードしつつこっちを見た。
「145人の男性にプロポーズされた絶世の美女よ! その内13人の男性は彼女の気を引こうとして命を絶ったという」
「マジすか?」
「マジ」
マジなんだ~。
悪魔の言葉にマジで引く。
あれを見て……ごめんなさい。僕には無理です。
ノイエの為なら命ぐらいはれますが、女王のために命を懸けるとか絶対に無理。もしそれが出来たとしたら自分の中の美的感覚を疑ってしまう。
だってあれってもうほとんど上野の西郷さんだよね? 違うの?
「ちなみに顔写真は」
「あるの?」
超高速でスラスラと悪魔がペンを走らせ紙に描く。
うん。ごめんなさい。僕のストライクゾーンには入って来ない人でした。
「自分の才能が怖いわ」
「知るか」
速記した絵を手に自惚れている悪魔をスルーして僕は辺りを見渡す。
まだ全員がフリーズ状態だ。そして女王もフリーズ状態だ。
と言うかあの晩ご飯……女王陛下に着る物を準備していただけませんか? 裸なんですよ。何も身に纏っていないんです。
大変な我が儘ボディを惜しみなく晒しているのです。
惜しんで。出来ればマジで。
「見事な一二三ちゃんよね~」
「何それ?」
「一重二重顎三段腹」
「……」
口の悪い悪魔をもう一度捕まえて静かに尻を叩く。
僕はポーラをそんな風に育てた覚えはありません。
「いやん。お兄さま。激しいんだから~」
「ノイエ」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
ガッチリ抑えてノイエを呼べば悪魔が本気で命乞いをして来た。
お前も分かって来たな?
ノイエは決して手を抜かない。つまり本気で突き刺しに来る。
「で、この状況をどうするんだよ?」
「えへへ?」
照れ笑いをする悪魔の尻をノイエの方へ。
抵抗が激しくなった。
そんなに嫌か?
嫌だろうな。気持ちは分かる。
「ちょっとした冗談だったのよ。隠してあるものって見たくなるでしょ?」
気持ちは分かるが時と場合を考えろ。
「知らないわよ」
また生意気なことを言い出したのでノイエが居る方に尻を向けさせると……ようやくフリーズしていた周りの人たちが再起動した。
シャンシャンシャンシャンと今まで以上に鈴の音が煩くなる。どうした?
よくよく見れば頭が低かった女性たち全員が涙を溢れさせていた。
あれだ。感極まって泣いている感じで……極まってるの?
「……くし……」
はい?
よくよく耳を澄ませば周りから声が。
「……うつくしい……」
えっ?
ようやく届いた声に僕はハッとして周りを見渡した。
まさか……そんな馬鹿な?
余りの恐怖に戦慄する。が、どうやら僕の勘は間違いではない。
「女王陛下~! お美しいです~!」
誰かが叫び、そして周りの女性たちは口々に叫び出した。
単語はバラバラであるが内容はほぼ同じだ。
全員が涙ながらに叫んでいる。
『美しい』と。
「……誰か元気な人は?」
床に横たわりどうにか声を上げたセシリーンの問いに返事をする者は居ない。
億劫に感じる体をどうにか動かせば、寝る場を求めてフラフラしているリグが自分の胸をクッションにして寝ていた。寝ていた。寝ている。寝ているはずだ。
だけどどうしてだろう? 気配を探るほど切なくなるのは?
何度か舌打ちをしてセシリーンはそれを完璧に確認した。
自分の胸を抱え込むようにして寝ているリグの頭は、顔は、床に付いていないのだ。
それはまるで中間にある……こんな時は胸に対する嫉妬が主成分な人物に任せるに限る。
「リグは優雅に自分の胸を……アイル?」
任せようとした相手が居るであろう方からすすり泣く声が。
よくよく耳を済ませれば……魔女は自分の妹分の胸を見て完膚なきまでに負けを認めていた。
もう完敗だと口々に言っている。確かに勝てる見込みなど最初から無かったが。
「アイル?」
全身が重く、吐く息がどうしても深くなる歌姫はそれでも魔女に声をかける。
「この怠さは、なに?」
返事は無い。返事は無いが……何かを呪う声だけが聞こえて来る。
負けを認めた魔女は、何故か胸の大きな女性を呪い出していた。ある意味で元に戻った。
「だからアイッ」
全身が毛羽立ちセシリーンは中枢に繋がる通路へと目を向ける。
ズルッズルルッと何かを引きずるような音が歌姫の耳に届く。
よくよく耳を済ませれれば、微かに『おにいちゃん』と誰かを呼ぶ声が。
間違いない。あれだ。あれが来た。
「アイル。ファナッテがっ!」
「……巨乳なんてみんな死ねば良いのよ……」
「それだとノイエも死んじゃうからっ!」
ダメだ。今の魔女は完全に使い物にならない。
慌てる歌姫を尻目に、ついに中枢の入り口にその手が見えた。
「あ~。居た居た」
ただ不意に姿を現したフードを被ったローブ姿の人物にむんずと掴まれ……やって来ていたファナッテは捕まってしまった。
「勝手に逃げないで欲しいのよね。鍛冶屋も殺して……」
文句を言いながらローブ姿の人物が掴んでいる何かを数度壁に叩きつけ……静かになった。
生々しい何かがしたたり落ちる音がしているが静かになった。
「あ、やっぱり」
そして常識外の人物が、中枢の中に声をかけて来た。
「歌姫なら外の鈴の音とか聞こえているでしょう?」
「……ええ」
「あれって魔道具の音で、音がしている限りお姉さまは魔法が使えないっぽいから」
それは厄介な魔道具だ。ただ魔法が使えないことに何が問題かがセシリーンには分からない。
「それの何が?」
「あ~。そっか言い忘れてたわね」
クスクスと笑いローブ姿の……刻印の魔女は握っていたモノをとりあえず遠くに放り、そして歌姫に顔を向けて薄っすらと笑った。
「お姉さまは常に大変高度な魔法を使っているのよ」
「ノイエが?」
「ええ」
クスクスと笑う刻印の魔女は本当に楽しそうだ。
「だから魔法が使えなくなると、今のあの子は下手をすると弱体化してしまうの」
「ノイエが?」
「ええ」
今度は笑わない。笑わないが刻印の魔女は口角を上げ口を開く。
静かにタクトを振るう指揮者のように、自分の前に模様のような文字を綴りながら。
「姉さまは……」
~あとがき~
リアルが多忙で一気に書けないからどうもノリが変わってしまう。
いつも同じテンションで書けと自分でも思うんですが、こればかりは…。
で、女王陛下です。
大変お美しい…詳しくはググってくださいw
で、魔眼の中は全員不調なのか?
変わらず刻印さんが刻印さんをしていますが。
一番の問題は刻印さんってば秘密を暴露してから記憶を消すんですよね。
魔眼の中は特にその被害が顕著で…まあ仕方ない。それが刻印さんですから。
年内はあと1話か、出来たら2話ほど投稿したいです。
ですが会社に行くたびに仕事が増えるんです。不思議です。終わらないんです。
挙句会社側からは『年末は出来るだけ残業しないで欲しい』と。ふむふむ。
とりあえず明日辺り物理的に自分が使用しているノートPCを破壊しようかと思っています。
デスクトップは持ち運べないので自宅で仕事はできせん。
はい? 締め切り?
昔ある人が言ってました。
『締め切りとは他人が決めるものじゃない。自分で決めるものだ』と
© 2022 甲斐八雲
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