女王陛下。ご返答を
神聖国・謁見の宮
交渉とは自分の手札を把握し、相手の手札を探り合うものだと僕は認識している。
カードゲームに似ているが、選択1つを間違えると自分の手札が消えていくデスゲームだ。
負けて破産し地下で建設業務とかならまだ可愛い。下手をすれば直ぐに死ねる。
ただし逆のパターンもある。
相手が自滅して手札を失い、こちらの手札が新しく増えていくパターンだ。これはレアケースなので余りない。
ホリーとの駆け引きで色々と学んだ僕は、彼女から一応『一人前』と呼ばれる程度に交渉事が出来る。何せ僕には武器が無い。
武力ってナンデスカ? 知力って美味しいんですか? 魔法ってノイエのお姉ちゃんたちをデレさせて使わせるものですよね?
このような状況で僕が救いを求めたのは『交渉』だ。
と言うか昔から僕は人見知りをしない。そのおかげもあって誰とでも話すことができる。
中学生の頃など『あの引っ越してきた人ヤ○ザじゃない?』と言われているオッサンに話し掛け“元”その稼業な人だという情報を仕入れて来てみんなから驚かれた。
こちらが普通に話し掛ければ相手も普通に応じてくれるものです。
そう言っても周りの人はそれが出来ないから僕からすれば不思議だ。
そして今の体は良く口が回る。クルクルと回る。昔の僕より良く動く。
ホリーとのバトルで『体力を使うよりも』と言葉責めを用いて時間稼ぎをしていたら、ホリーから『アルグちゃんはそれを武器にした方が良いかもしれないわね』と言われて磨き上げたのだ。
頑張った。頑張り抜いた。だって少しでも隙を見せればホリーが襲い掛かって来るのだ。隙を見せなくても襲い掛かって来るけど、頑張ればその間隔に違いが生じる。
元々ホリーは知的なことが大好きだ。アイルローゼは黙々と考え込むタイプだが、ホリーは親しい人が相手ならちゃんと喋る。僕はホリーの家族だから彼女は良く喋る。
他の人たちに話を聞くと、普段のホリーはツンツンとしていて自分の周りに人を寄せ付けず話もしないそうだけど、僕の前だとデレデレで良く喋る。
練習相手には事欠かなかったさっ!
シルエット越しの女王はまた足を組み替えた。
たぶん。シルエット越しだから絶対とは言えない。
「ユニバンス王国は“門”の位置を動かしたとか。それは事実かえ?」
「はい」
事実です。
「理由は?」
「大型のドラゴンが“門”の場所で暴れましてね。それが原因で故障したので我が国に運んで再建しました。結果として位置が変わりましたが何か?」
「そのような理由であったか」
あれ? 伝わっていませんでしたか?
来る商人やら使用者の人たちにそう伝えるように広く公布して貰ったんだけどね。
お兄さまの怠慢か?
疲労のピークだった頃のお兄様なら……うん。大目に見よう。馬鹿兄貴な帰国次第殴り込み確定だけどさ。
「しかしそれはちと合点がいかん」
「何がでしょうか?」
「実は“門”にはドラゴンが寄り付かないような仕掛けが施されている」
「……」
妹の振りをした悪魔視線を向けたら、彼女は『テヘペロ』をしていた。
うっかりしていたのか、確信犯なのか……帰ってからお仕置き確定だな。それかノイエの姉の誰かしらの痴態を納めた録画映像の視聴を求む。
「古くから存在しているからその仕掛けが作動しなくなったのでは? 現に“門”はドラゴンに襲われ壊されましたからね」
「左様か」
意外と相手はあっさりと引いた。
この辺で攻撃してくれれば……うん。あまり意味が無いか。それに気づいて話を変える気か?
僕は心の中で軽く息を吐いて相手の次の攻撃に備える。こちらとしては今回余り手札が豊富ではない。だから交渉をあっさりと切り上げて帰りたい。眠たいしね。
また女王が動いた様子を見せた。
シルエット越しって意外と厄介だな。
「我が国は古き時より召喚の魔女から“門”の管理を任せられてきた」
「そうですか」
何度かそんな話を聞いて来たけど、改めてこちらは『何も知りません』という態度で相手に接する。
だって本当に知らないしね。悪魔も知らないと言っているしね。
「その割には他国には全く知られていませんね」
「左様か」
こっちも皮肉を1つ放つ。
『そっちが周知の努力をしていないから知らないんですけど?』とストレートに投げ込んでやった。
「だが任されている」
「証拠は?」
「ふむ。ならば“門”の稼働を止めることとしよう。理由はユニバンス王国が証拠を示せと申し出たからだ。全ての苦情はそちらに行くかもしれないが頑張って対応してくれ」
はいはい。なるほどね。
脅迫と言えば脅迫だ。言いがかりと言っても良い。
これで僕が『はいどうぞ』と言えば選択肢は二つ。
相手が別の交渉事を提示して来るか、本当に止めるかだ。ここで厄介なのは本当に止められる方だ。その脅迫に屈するとこちらの手札が一気に消える。
ただ相手が嘘……はったりを使っている可能性もある。
つまり止めることはできないけれど、その事実を隠して僕を脅している場合だ。
それをこの場で確認する方法は無い。
悪魔に聞いても『出来るかもしれないし、出来ないかもしれないわね』と答えを寄こす。はっきりしろよとポーラのモチモチほっぺを左右に引っ張り脅迫すれば、涙目で事実を語る。
『あの馬鹿が何かしらの仕掛けを仕込んでいたら分かんないわよ! 私は骨格を作ることには手を貸したけど肉付けはあれがやったの!』と僕の股間に蹴りを入れてからそんなことを言いやがった。
元に戻ったポーラが慌てて僕の股間をマッサージしようとしたのは、やんわりと止めさせたけどね。
それは良い。別の話だ。
つまり僕が言いたいのは、相手の脅迫が半々という事実だ。
で、この場合はどう対処をするのか?
普通なら止めに入って相手の次の言葉を待つ。こちらの手札が減ることになるかもだが仕方ない。と過去の僕ならそうしていただろう。
だが今は違う。今の僕はホリーとの修行を重ねたスーパーな状態である。
「そうですか。ならどうぞ」
選択肢としては間違いの方へと進む。
当たり前だが相手は僕が勝率の高い方へ進むことを予定しているはずだ。だから敢えて勝率の悪い方へと進む。そうしないとホリーには絶対に勝てない。
あれはこちらの勝ち目を確実に潰してくる。勝率の良い方に進んだはずが実は袋小路だったという罠の確率の方が高い。
つか罠だ。
気づけば馬乗りになって舌なめずりしながら微笑んでいるんだ。
怖い……ホリー怖い。
「そうか。ならば止めることとしよう」
女王が『もう変更はできんぞ?』と言いたげな口調で告げて来た。
構わんよ。だがこちらも手札の一枚を使うことにしよう。
「他国への通告はそちらが」
「ああ。行おう」
「でしたら一緒に言伝を頼んでも宜しいですかね?」
「……」
相手の気配が僅かに揺らいだ。
僕が地雷を踏んだと思っていたのだろう?
甘い! ショートケーキに砂糖を振りかけたくらいに甘すぎる!
そんな対応、ホリー相手ならワンパンで沈むぞ?
「何を伝えるのか?」
「はい。少し長文になりますが、『我が国で新しく作る“門”をご使用になりますか? 少々準備に時間が掛かりますが、ご希望の場所に“門”を置きましょう』とね」
「……」
軽く女王が息を飲んだ。
はったりってこういう風に使うものでしょう?
と言うか自分が使う以上、相手が使うことも想定しないとね。
僕はホリーからそう学んでいます。
「新しく作ると言うか?」
「はい」
「可能なのか?」
「どうでしょう?」
「……」
さあ次はそちらが二択で悩め。
僕は女性に暴力を振るうことは嫌いだが、言葉の暴力はありかと思っています。それぐらいの武装は許して欲しい。そうしないとホリーには勝てない。武装していてもホリーには勝てない。
あれ? つまり僕の戦いはするだけ無駄なのか?
「女王陛下。ご返答を」
~あとがき~
交渉開始です。
主人公はベッドの上でホリーと交渉の練習を必死に行って来ました。
連戦連敗ですが…まあ仕方ない。ホリーは現時点でこの世界の上位に入る知恵者ですしね。
チビ姫とホリーを抱えるユニバンスって意外と人材チートなんですよね。国は小国ですけどw
そして年末進行という恐ろしい何かがやって来ました。
もう勝てる気がしません。現時点で負け確です。頑張りますが毎日投稿が途切れそうです。
途切れた分は正月休みに書き上げ、年明けにでも2話投稿とかしようかなって思ってます。
あっ…気づけばクリスマスイブだ。皆様、メリークリスマ~ス!
© 2022 甲斐八雲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます