最後の晩餐だけはダメ
神聖国・謁見の宮
「アルグ様……あれ?」
「物欲しそうに指をささない。歩くの」
「むう」
「拗ねてもダメ」
「むうむう」
段々とノイエの抵抗が厳しくなってくる。
このままでは僕らの仲に大ダメージが!
「これがとある国王が作らせた最後の晩餐と呼ばれる」
「それは最もダメなヤツ~!」
流石の僕もそれだけは許しません。
ノイエの両目をほぼヘッドロックの形で塞いで強制的に連行する。
あれは晩餐ではありません。食事ではありません。食事だったモノです。
「アルグ様。見えない」
「見なくて良いんです」
「むう」
ダメだって。抜け出そうとしないの。暴れるなノイエよ。あれだけはダメなんだ、あれだけは。
「分かった。今度今まで見たモノの中から1つだけしてあげるから」
「む?」
「だからの最後の晩餐だけはダメ。約束出来ますか?」
「する」
「良し」
そのままノイエを抱えて移動し、最後の晩餐が見えなくなった頃……と言うかあれが本当に最後だったらしい。あれ以降銅像が置かれていない。
「にいさま」
「何よ?」
「わたしには?」
復活を果たしていてポーラがそんなことを。
最近のこの子はしたたかになってきた気がするよ。
「ふむ。でしたら最低でもあの銅像に負けないスラリとした足を」
「……にいさまなんてきらい」
意外と低身長がコンプレックスでしたか?
ポーラが頬を膨らませてノイエの肩に顔を預けて拗ねだした。
そんな様子が可愛いからこうも揶揄いたくなるわけですが。
「で、後はこの通路を進めば良いの?」
「はい」
低姿勢の女性がそう答えながら、スススススと足音を立てずに足を運んでいる。
優秀と言えば優秀なのだろう。頭の位置はとても低いけど。
「で、少し聞いても良い?」
「はい」
「あの銅像ってここ以外にも?」
ポーラを抱えているノイエが後ろを振り返り……ダメですノイエ。まだ君の目には最後の晩餐が見えてしまうかもしません。
断じて拒否です。僕はあれだけは認めません。
「はい。多少卑猥にも見えると思いますが」
多少なんてものじゃない。卑猥そのものですが?
「あれには歴代の女王陛下の思いが宿っているのです」
それは……欲求不満か何かですか?
「男女平等です」
「……」
はい?
「ですから男女平等です」
「あの銅像が?」
「はい」
「何をどう解釈したら?」
「ですよね。過去より宮の銅像を見た他国の人たちはそのようなことを言っていると報告書に記載されています」
だと思います。
「ですが良くお考え下さい。寝所の中では男女平等でございます。2人とも等しく平等に子を作ろうと頑張るのです」
まあ確かに。
「どちらが上も下もなく、どちらが前か後ろもなく」
ちょっと待て?
「どちらのどちらにどちらのどれをどうするのも等しく平等でございます」
こっそりと説明に謎のどれが混ざっていませんでしたか?
「共に平等なのです。寝所においては平等なのです」
「……はぁ」
「ですから過去よりの女王陛下たちはこのような銅像を集め『平等』を私たちに説いてくださるのです」
えっと。
「語ってくださるのです」
「何を?」
「男女のくんずほぐれつの素晴らしさを、です」
若干テンションが上がり暑く語る女性はそれでも低姿勢だ。
ある意味で尊敬するよ。マジで凄い。
で、歴代の女王陛下は……アホなのか? アホの子たちなのか?
「凄い」
「はい?」
気づけばノイエが女性の方を見ていた。
ブルンブルンとアホ毛が大きく揺れている。回っている。
「平等大切」
「その通りです」
これこれ君たち? どうしてそんな場所で固く握手?
「私ももっと頑張る」
「その意気です」
ごめんなさい。マジ無理です。僕が死にます。
「ポーラさんポーラさん。ちょっとあの2人をですね」
「そうか。ひとしくびょうどうににいさまをねむらせて」
平等を付ければ何でも許されるとか思うなよ?
「とりあえず急ごう。先を急いで……固い握手はもう終了!」
2人の間に割って入って握手を強制的に終了させる。
「女王様。さあ女王様に会おうじゃないですか」
「そうでした。ささ。こちらになります」
また案内を再開した女性に連れられ廊下を進む。
気づけば僕らは鉄の扉の前へとたどり着いた。
~あとがき~
理由は本当にあったんです。
ただ“本当”の理由は…まあ誰かが語るでしょう。
実家からの無茶振りと話の都合で今回は短めです。
時間がない時に限って無茶振りをしてくる親が憎い…
© 2022 甲斐八雲
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