そして指を向けない
神聖国・女王宮内
「あは~あはは~はぁ~」
まだ続くのかよ?
余りにも酷い現実に気の抜けた声が出てしまった。
凄いよポーラ見て。あっちの銅像とか凄くない? あれをノイエは僕にしてって言うんだよ? 旦那さんの腰を破壊したいのかね?
身の危険しか感じないからグイグイとお嫁さんの手を引っ張る。
動け。そして歩け。抵抗は止めなさい。立ち止まり禁止です。
ずっとノイエから不満げな『むぅ』が聞こえて来るが、今の僕は修羅の道に足を踏み入れたのです。いつもの仏な僕になってしまうと間違いなく死ぬ。この場で殺される。
抵抗著しいノイエの手を引き僕らは進む。
良くもここまでくんずほぐれつな銅像を飾られるよね。
何かなポーラ? えっ? ノイエの雰囲気が怪しい? あっちのあれは……見ちゃダメだ! ノイエはあっちに興味を持つことは禁止されている。僕の中では禁止なの!
『えきべん?』とかどうしてポーラが呟いているのかな? 悪魔か? 内なる悪魔か? そろそろお前を全力で払ってくれようか?
えっ? ノイエがして欲しそうに見える?
あははははは……そんなことは無い。決して無い。
だったらノイエの方を向けと?
何を言っているのか良く分からない。今日はポーラとお喋りしていたい気分なだけだよ。
気づけ。そして察しなさい。これ以上あれのネタを振るな!
普段から『兄様大好き』とか言っているんだから、僕とのお喋りとか嬉しいでしょう?
だよね~。だからこっちを見ていなさい。ノイエは良いの。ちゃんと手を引いて僕が引っ張っているから。立ち止まることなどもう許しません。
そしてポーラも立ち止まらない。他所を見ない。そっちの銅像も見ちゃダメなの。僕だけを見てなさい。
はい? あの銅像の内容を質問して良いかだって? ダメに決まっているだろう?
こんなマニアックな体勢をした18禁の銅像をよくもまあここまで集めたものだな。
馬鹿なのか? この宮を作った人間は馬鹿なのか?
これこれノイエさん。アホ毛を僕の首に巻いて止めさせようとしない。
今日の僕は断固とした強い意志を持って止まることを拒否しよう。
ダメです。止まりません。
良いんですか? 貴女の愛おしい旦那様がここで窒息死しますよ?
それで良いんです。ちょっと気絶しかけましたがセーフです。
はい? 何でしょうノイエ。あっちの銅像を真似たい?
うん無理。出来ないから。頑張っても無理。あんな体勢どうしたら……危ない危ない。ノイエも立ち止まらずに歩きなさい。ポーラは僕だけを見てなさい。よそ見はダメです。
ここは君たちに対して教育に良くない……あれは特に見ちゃダメ~!
そこ~! ノイエ~! アルグ様の大好きなヤツとかポーラに教えない。で、妹~! 『そうですね』って何で知っている! 何を知っている!
だから2人とも! こっちを見ろ! よそ見をするな! 真っすぐこっちを見て……唇を尖らせて迫って来ても今日の僕は動揺すらしないよポーラさん? むしろ迎え撃つよ?
はいノイエ。
お嫁さんの手を全力で引っ張り僕の前へと誘導する。
キスの体勢で迫って来たポーラを正面から見据え、ノイエは迷うことなく妹様を抱えるとキスをした。
本当に迷いがなくディープなキスだ。ジタバタとポーラが暴れるが……抵抗が無くなり、あっという間に静かになった。
「これで良いの?」
「……うん」
トロンとした表情でグッタリしているポーラを抱えるノイエに僕は頷き返した。
これで1人……静かになったと喜ぼう。
僕らは女王宮の専用馬車とやらに乗り宮の中へと進んだ。
騒音防止のために小一時間ほどかけてゆっくりと動く馬車に乗り運ばれた場所は、謁見専用の宮らしい。意味が分からんがそう言うことらしい。
何でもこの場所には複数の宮が建てられており、それぞれがそれぞれに役割分担が決まっているそうだ。
と、謁見の宮に到着した僕らの案内役を務めることとなった女性が説明してくれた。
とても物腰の優しい丁寧な口調で語りかけてくる女性である。
ただ彼女は決して顔を上げない。僕らに対しても後頭部を見せる勢いで前屈みになり『失礼とは存じておりますが、このような姿勢でご案内させていただきます』と言ってきた。
頑張って聞きだした限り、この場所で顔を上げる……と言うよりも頭を上げること自体が許されないらしい。その禁を犯すとこの場所から追放されるのだとか。
『ふーん』と気の無い返事をして僕はその申し出を受け入れた。
何と言うか、これが慈愛に満ちた女王がする行いか? たぶん違うだろう?
僕の中で女王に対する評価は爆下がりである。
ここまで下がってしまった評価はそう簡単に回復などしない。
上場廃止寸前だ。そんな気分だ。
低姿勢と呼ぶには抵抗のある女性の案内で僕らは廊下を進む。
本来ならボディーチェックなどを受けるそうだが、僕らにはそれが無かった。
ノイエとポーラはドレス姿だ。普通に考えて戦える姿ではない。そして僕に至っては事前に剣などはポーラに預けているから、腰に下げているのは鞘だけだ。格好だけです。
いつも携帯しているエウリンカ製作の剣を使ったとしても僕の戦闘力はたかが知れている。
故に今回は荒事になったらポーラを装備する予定だ。
前衛はノイエのみになるがどうにかなるだろう。
まさか相手も本日僕らを殺そうとはしないはずだ。そう願う。ぶっちゃけ疲れたし眠い。
長々として入り組んだ通路を進むと、たぶん宮の深い場所にたどり着いた気がした。
言葉にするのが難しいが雰囲気が露骨に変わったからだ。
うん変わった。確かに変わった。激変したといっても良い。
物語に出て来るハーレムの主に出会いに行くような感じに変化した。
僕らの行く手には18禁な体勢の男女の銅像が所狭しと置かれ、ノイエのアホ毛が大興奮した。してしまったのだ。
「アルグ様」
「止まりません。そして指を向けない」
「あれをして」
「しません。出来ません」
その昔……僕が地球という星で日本人をしていた頃の話です。
四十八手というモノを見聞きしたことがあります。意味も分からず学校に設置されているパソコンで検索もしたピュアな学生でした。
で、ここにはそれ以上の数の行為を見せる銅像が存在しているのです。
もう何からツッコめと? 周りはツッコミだらけだけどね! あはは~!
「あちらの銅像はその昔フシュルバーグ王国の国王が子孫繁栄を願い奉納したと言われています」
「……アルグ様?」
これこれノイエさん。僕が強権を発動しているからって、案内の女性に何を聞いているのかな?
そんな体勢は無理。僕がやったら一回で腰が死ぬ。死ぬからね? やらせる気か? らめ~!
お嫁さんの手を引いて前へと足を進める。
「あちらはフシュルバーグ王国の国王が十子目の誕生を祝い奉納したと言われています」
「アルグ様?」
さっきより若干声を大きくしない。
その国王は馬鹿なのか? それとも前世が椅子か何かだったの? どうしたら女性の乗せてそんな体勢になれるの? 銅像だからって無茶苦茶してないか?
「あちらは晩年のフシュルバーグ王国の国王が自分の喜びを体現し、彫刻家に作らせたと言われる物です」
「……アルグ様!」
むぅりぃ~!
あんな変態を体現した……体現したの? あの体勢を自分でしたの? それも晩年に?
ある意味で僕が見習うべき御仁なのかもしれない。
帰国したらその人のことを調べてみるのも悪くない。
「どこぞの魔女に私が教えた魔法を、特別に伝えてあげた国王だったかな~。エッチ好きで自分のハーレムに女性を招き続けた変態野郎だったわね」
「やっぱりお前が一枚噛んでいるんかいっ!」
「あざーっす」
ノイエに抱えられていた妹らしい何かが恐ろしい呪詛を放ったのでハリセン供養の刑に処した。
「次はフシュルバーグ王国の王の後を継いだ孫にあたる……」
まだ続くの?
どうやら女王陛下とやらにたどり着く前に僕が燃え尽きるか、僕らの仲が崩壊してしまうかもしれない。
~あとがき~
初期プロットだと銅像の体勢を事細かに解説する予定でしたw
あの頃ですらギリギリなことを今のご時世に出来る訳ないやん! 馬鹿なのか作者よ!
ちなみにこの銅像…どうして飾られているのか、理由は存在しています。本当です
© 2022 甲斐八雲
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