にいさまのばかっ!

神聖国・迎賓館



「むう」

「……」

「む、う」


 拗ねたノイエが僕の背中をグイグイと揺さぶる。


 分かっています。貴女が言いたいことなんて全部分かっています。


 ですが旦那さんである僕の言い訳を聞いて頂けますか? 聞けない? どうして? ノイエの体が色々と汚れているのは……それを含めて全てを説明したいのですが? 無理? ダメ? どうして? 聞いたらお姉ちゃんが羨ましくなると?


 ふむふむ。


 普段からノイエさんってば僕とお姉ちゃんの行為を許しているよね? はい? 自分が見てないのはダメと?


 ちょっとノイエさん。そこに正座で。


 今貴女は、自分が何を言ったのか理解していますか?


 していると。うん。してるんだ。


 えっとノイエさん? いつからそんな見られたがりに? 違うと言うのですか? 何がですか?


 見られたい訳では無いと。


 はい? 自慢したいんですか? で、姉たちの行為を見る理由は?


 純粋に勉強ですか。なるほどなるほど。


「誰だ~! ウチの愛しいお嫁さんをこんな痴女にしたのは~!」


 思わず叫んでしまったが、正座しているノイエが無言で僕の方を指さしたので……違う違う。そうじゃない。僕は良いんです。僕の行為は愛しいから、ノイエを深く愛しているからです。

 別にノイエを痴女にしようとして行ったことは1つもありません。ええ本当です。


 そうだろうポーラ?


 これまた可愛い妹に話の矛先を向けたら、彼女は何とも言えない表情で僕のことを見つめ……深い深いため息を放ってこちらに背を向けた。


 ちょっと待て妹よ。その反応は流石のお兄ちゃんも許さないぞ? はい? 怪我が痛くて寝ていたかったのに一晩中……ごめんなさいっ! 全てこの兄の不徳の致すところ!


 ホリーもファシーも再度マニカ捜索に向かったはずなのでしばらくは静かになると思います。

 セシリーンの怪我はもう大丈夫だそうですが、ファシーの怒りが静まっていないのでマニカは見つけ次第亡き者にすると猫さんが申していました。


 だからポーラさん。こっち見ようか?


 はい? 胸が苦しくて寝がえりが億劫?


「そんなに苦しくなるほどの大きさじゃないやん」


 振り返ったポーラが枕を掴んで僕に向かい全力で投擲して来た。




「さて……眠い」


 気づけば本日の僕らは大半が寝不足である。そして僕の疲労は半端ない。ヘロヘロだ。


 ポーラも寝不足で辛そうだけど彼女の場合は背中の怪我もある。

 やって来た女医さんがまた塗り薬を背中に塗って包帯を巻いた。


 ノイエはもう飽きたのかポーラを抱えようとはしない。

 しないが治療の間、終始ノイエのアホ毛がポーラの方を向いていた。


 祝福のおかげで寝不足知らずのノイエを除き、僕とポーラは欠伸をしながら身支度を整える。


 まずは朝ごはんだ。

 朝ごはんと呼ぶ時間帯は過ぎているが、そこはVIPな僕らです。問題ありません。


「こちらが本日の朝食になります」


 老執事さんの指示の元、テーブルに置かれた皿の上には朝食として考えるとヘヴィーなメニューが所狭しに並んでいる。大皿がひしめいている。だがどの皿も上に料理を積み上げ……ノイエが嬉しそうにもきゅもきゅしている。


 ノイエさん。朝からそんなに遠慮なく……はい? お腹が空いて止まらない?


 だからって僕の方を睨まないで。はいごめんなさい。きっと僕が全部悪いんです。

 はい。うん。落ち着いたらノイエだけを見てノイエだけを愛するんでそれで許してください。


 ダメ?


 少し機嫌を直したノイエが『これ美味しい』と僕のお皿に自分が食べていたお肉を置いてくれた。

 だから朝から脂身多めのお肉は……ノイエがくれたものだから我慢して食べます。


「アルグ様はもっと食べた方が良い」

「結構食べてると思うよ?」


 何より僕の祝福は使い勝手の悪さだけが目立つ『滅竜』だ。ドラゴンが居なければ全く出番の無い祝福だ。よってノイエのように常にお腹を空かしたりしない。

 まあ今朝はと言うか、昨晩頑張り過ぎたから若干お腹空き気味だけどね。それでも2人前ぐらいしか食べれません。


「いいえお客様。5人前相当分をお食べになっています」

「そうなの?」


 老執事さんに『何人前ぐらい食べたかな? 2人前?』と聞いたら驚きの返事がっ!

 実はポーラもか?


「あちらが2人前かと」

「そうなの?」


 ウチの妹さんには『もう少し食べろ』と言いたくなったが、知らされた事実に何も言えなくなった。


 あれ? 実はドラグナイト家って常に大盛りで食事が提供されていますか? ねえ?


「アルグ様もまだまだ」

「十分だって」


 5人前だよ? その事実を知ったら一気にお腹いっぱいな気分になったよ?


 だがウチのお嫁さんは止まらない。


「アルグ様」

「はい」

「その限界はまだ越えられる」


 ちょっと何を言っているのか分からない。


「逆流して来たものを押し込んでこそ戦いが始まる」

「それは体に良くなさそうだから止めなさい」

「平気」

「何で?」

「お肉は飲み物」


 うお~い。ウチの嫁が恐ろしさを飛び越えたことを言い出したよ。


「こんな風に」

「飲むな飲むな」


 慌ててノイエを制する。

 本当に飲みかねない。と言うか本当に飲みだす。


「ノイエももう少しポーラを見習って」

「あれはただ包帯が」

「……」


 ノイエの指摘に視線を巡らせれば、ポーラを顔を赤くしながらお腹周りの包帯を緩めていた。


 ガッツリ眺めてやろうか? ほ~ら妹さんよ? 恥じらいながら……開き直って包帯を全部外そうとするな。君の小さな胸を見たところで、


「にいさまのばかっ!」


 ポーラの靴が僕の額にヒットした。




~あとがき~


 女王宮までたどり着けなかった…。



 2日連続で短めで申し訳ないです。


 昨日はワクチン接種。今日は自治会の自治会館の清掃に参加していて執筆時間が確保できませんでした。

 全部白アリが悪いんや…腐った床が悪いんや…それを直せる技術と道具を持っていた自分が一番悪いんや…結果、帰宅時間が大幅に遅れてしまいました。


 明日からは頑張りたいです




© 2022 甲斐八雲

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