また胸を玩具にされた?
神聖国・迎賓館
「もっとゴシゴシ」
「はいはい」
ウチの愛らしいお嫁さんの我が儘が止まらない。と言うかノイエが下働きの女性の手を借りるのを拒否したから僕がするしかないんだけどね。
ポーラは入浴禁止なのでソファーで横になり寝ているしさ。
艶々としたノイエの髪を手に取り優しく洗う。
ただしお嫁さんは頭皮に関してはゴシゴシを希望だ。命じられるままにゴシゴシしてから髪は優しく洗ってあげる。
一度洗い流してあげたら次は体ですか? 石鹸を良く泡立ててもこもこの泡を作って優しく洗ってあげる。
ぶっちゃけノイエの場合は祝福のおかげでどんな汚れも自然と流れ落ちるんだけどね。
それでもお嫁さんを洗ってあげることは至高の喜び!
「アルグ様」
「はい」
「揉みすぎ」
うむ。洗う予定が違う方向に転がっていた。
危ない危ない。良くノイエのスイッチが入らなかったものだ。
上半身を洗うのは危ない。これからは下半身の時代だ。
「アルグ様」
「はい」
「揉みすぎ」
何故だ? それはお尻がそこにあったからだ。
全てはこのツンと上向きのお尻が悪い。全てはこのお尻が悪い。徹底的に洗ってくれよう。
「む」
ノイえのアホ毛が僕の手を叩いて来たからお尻は止める。
次は太ももから脛に掛けて……本当に滑々だな。先生の足も長くて綺麗だがこれはこれでモチっとしていて本当に悪くない。100点だ。ちなみに先生の足は101点だ。上限を突破している。
「アルグ様」
「はい」
「負けない」
「頑張れ」
「はい」
うむ。お嫁さんが常に向上心を見せるのは良いことだ。
僕はその協力に対し惜しみない援助をしよう。
という訳で全力でノイエをピカピカに洗って……僕は満足です。
「終わった?」
「終わりました」
「はい」
フワリと立ち上がったノイエは美の化身だ。
もう何なんでしょう? チートを思わせるような……ん? 実はノイエのプロポーションってチートなのか? 祝福が絡んでいたりしないか?
そもそもノイエは普段からあんなに食べているのはおかしいと言えばおかしい。
つまりは常に祝福が発動しているということだ。食べた分を消化するに祝福を使っているとか言う無限ループは除くが。
「ノイエ」
「なに?」
何故かノイエは石鹸を手に取り、恐ろしい勢いでもこもこの泡を作っている。
たぶん自分がして貰ったから僕にしようという魂胆なのだろう。けれどノイエウォッチャーな僕は知っている。あれでポーラが数回溺れかけている事実を。
「首から上は後で自分でするから」
「むぅ」
「お喋りできなくなるからね?」
「はい」
洗う方よりお喋りが勝った。
後は愛しいお嫁さんが飽きてしまわないようにトークを心がければ良い。
「ノイエって普段から祝福を使っているの?」
「?」
『それは何ですか?』と言いたげに首を傾げるお嫁さんが何故か背後から抱き着いて僕のことを洗ってくれる。悪くはない。満点だ。
「あれあれ。お腹の空くヤツ」
「お腹はいつも空く」
それはそれで問題発言なんですけどね。
「どうしてお腹が空くか分かる?」
「生きてるから」
哲学だな。とても高尚な返事だな。
「ノイエが何かをしているからお腹が空いたりとか?」
「起きていれば空く」
ごもっともです。
「カミューが言った」
「ほう」
「今は野菜。後でお肉沢山」
「……」
「だから今はお肉沢山」
「なるほど」
背中から離れたノイエが回り込んで来て正面から抱き着いて来る。
これもこれで最高です。悪くないどころか常にして欲しい。
「アルグ様」
ヤバい。ノイエの視線が下を見ている。
気づかれたか? 誤魔化しようがないけど。
「赤ちゃん欲しい」
「うん。頑張ろうね」
「はい」
僕の答えにノイエはまた洗いの方へと……怪しい。普段のノイエならその気になって襲い掛かっているだろう? 何故に?
「あ~。ノイエ」
「なに?」
「今日はその……」
こっちから『しないの?』とか聞けばノイエのことだ。『する』の返事からの搾取開始だ。けど質問しないとずっとこのままだ。新手の嫌がらせ系なジレンマだな?
「えっとノイエ?」
「はい」
「したくなったとか?」
「今日は良い」
何ですと?
「どうかしたの?」
「ん?」
重ねた質問にノイエが首を傾げる。
「したい?」
「今は大丈夫です」
「はい」
嘘は言っていない。
“今”はしたくない。この会話が終わってからだと分からないが、でも明日は女王とやらに会うからノンストップは辛すぎんだよね。
「で、どうして今日はしないの?」
「する?」
「今は良い」
危ないな。ちょっとでも言葉を間違えると終わる。
「ポーラの邪魔は無いよ?」
「邪魔じゃない」
濡れて重たげなノイエのアホ毛が僕の頭を叩いて来た。
「小さい子は妹」
「うん。ノイエの大切な妹だね」
「はい。だから邪魔じゃない」
なんだかんだ言ってノイエってば本当にポーラのことが好きなんだな。
「でも今はダメ」
「ダメって?」
「怪我してる」
だからノイエさんは自重するの? いつの間にノイエがそんな成長をっ!
聞きましたか? 魔眼の中の姉たちよ! あのノイエがここまで、
「見られてないとつまらない」
「……」
おひ?
「見られる?」
「はい」
「ポーラが?」
「はい」
「いつも?」
「はい」
「どうやって?」
「こんな球越しに」
ノイエがシャボン玉を作って……あの悪魔め~! 魔道具を隠して僕とノイエの行為をやっぱり隠し撮りしていたか!
「泣かせる!」
「ダメ」
立ち上がろうとする僕をノイエが制する。
放してくれよノイエ。僕はあの悪魔を殴らないと気が済まないんだ。と言うか殴らせろ。
そんな動きで僕の怒りを……卑怯なり。胸で挟むのは卑怯なり。
ノイエの体を張った制止に僕は屈した。
まあ良い。今日の所は許してやろう。だからノイエさん。下げた視線はアップしてください。
「する?」
「見てる人が居ないから」
スッとノイエが自分の左目を指さした。
「お姉ちゃんたち見てる」
「……」
何も言えねえ。
「でもほら明日は、って?」
スッとノイエの重たそうだったアホ毛から力が抜け落ちた。
肌が褐色に染まり髪の色が金色に変化する。瞳の色は黄色だ。
「リグ?」
「……」
一瞬でリグに変化したお嫁さんは、パンパンに頬を膨らませた。
「ねえ」
「はい?」
「お風呂に移動」
まだ洗って貰っている途中で……分かりました。軽く泡だけ洗い流させて。
急いで僕は自分とリグの体に付いている泡を洗い流した。
2人して湯船に浸かると、リグが僕の前に座わり腕を掴んで来る。
相手の好きにさせたらバックハグを要求された。
「これで良いの?」
「……」
何も応えないけど良いっぽい。そしてリグが激おこだ。何があった?
「また胸を玩具にされた?」
「いつものこと」
そうか。いつもなんだ。本当にけしからんなノイエの姉たちはっ! 僕もいつも遊んでみたいぞ!
「なら刺青?」
「違う」
リグは自分の体に彫られている刺青にコンプレックスを抱えている。
今も色鮮やかな紺色がノイエの肌に浮かんでいるが、僕としては芸術作品に見える。本当に綺麗な作品だよな。
「じゃあ何?」
「……」
パンパンに膨れた頬が、その唇がゆっくり動いた。
「ボクはあの刻印の魔女が嫌いだ」
「うん。良く分かる」
と言うかあれを好きな人って誰か居るのか?
~あとがき~
ノイエとの楽しい入浴はリグの登場で一時中断です。
ちなみにノイエは普段から姉たちが自分の目を介して外の様子を見ていることを知ってます。だから基本瞬きはあまりしません。姉たちの邪魔をしたくないですから
© 2022 甲斐八雲
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