アルグ様のだったらその子喜ぶ

 神聖国・都のとある路地裏



 僕と家畜の戦いはアテナさんの仲裁で終わりを迎えた。

『弱い者いじめは良くありません!』とニクを抱え上げ、アテナさんが僕に向かい怒りだすのです。


 調子に乗ったあの家畜はアテナさんの胸に頭を押し付け、『この胸の小さなお姉ちゃんは味方してくれるもんね~』と言いたげな顔を向けて来る。良く分からんが殺意しか湧かない。

 縊り殺して毛皮にしてやろうか? 中身はもちろんノイエのご飯だ。


「アルグ様」

「はい?」


 ノイエの声に顔を向けると彼女は抱えているポーラを僕に向けて差し出している。

 たぶんニクの無礼にノイエがご立腹したのでろう。ニクが肉になる時が来たか?


 受け取るとズシリとボラの全体重が両腕に。

 全裸のままのポーラは悪魔が抜け出していてぐったりとしている。


 人間を抱える時は相手の意識がある方が意外と重く感じないものだ。

 相手の意識があるのに重く感じるのは、その相手が心を許していないからだ。

 緊張し警戒しているから余計な力がかかり持つ方が重く感じる。


 赤ちゃんなどを抱きかかえると確かに重いけど意外とすんなり抱けるのはそう言う理由があると……子持ちのフレアさんから学んだ。

 ただあの姪っ子エクレアは誰にも気を許し過ぎている気がする。


 あの歳からもうビッチか? 母親の前で言ったら間違いなく殺されそうなフレーズだが。


 ズンズンと自分の前に進んできたノイエに、アテナさんはニクを抱え庇いながら顔色を青くする。

 何故かランリットはその様子を見つめながら呆れた感じで着替えをしている。汚れた服を脱ぎ捨てて元々着ていた服に戻っている最中だ。


「何ですかノイエ様?」


 怯えながらもノイエに立ち向かうアテナさんが凄い。


 その家畜は命がけで守る存在なのか?

 そう言えば君の両親の領地を出てからずっと苦楽を共にしていたね。

 種族を越えた友情か?


「……」


 むんずとノイエが自分の服を、首元と言うか肩の辺りを掴んだ。

 プルンと形の良い双丘がこぼれ出る。


「私の方が大きい」

「「……」」


 直撃のアテナさんは良いとして、関係ないのに直撃を受けたランリットまでもが大ダメージだ。

 2人して泣きそうな顔をして唇を噛んでいる。


「アルグ様」

「はい?」


 胸を晒したままでお嫁さんがこっちを見た。


「私大きい?」


 口裂け女を思わせるフレーズだな。


「うん大きいよ。それに綺麗」

「……」


 フルフルとアホ毛を大きく動かしてノイエが胸を服の中に戻した。


 で、何の自慢だったのでしょうか? もしかして自分の方がニクの頭を挟める自慢ですか?


 そんなの比べる必要もないやん。ノイエの圧勝だよ。


「アルグ様」

「ほい?」

「小さい子のお尻より大きい?」

「……」


 純粋と言うか感情の無いガラス玉のようなノイエの瞳が僕を見つめている。

 たまにノイエが怖い時がある。と言うか今もそうだけどね。


 僕の心の中を見透かしていますか?


 現在の僕は抱きしめているポーラのお尻に手を回して抱えている。

『あら?意外と大きく育って……』と内心で思いながらノイエの奇行を眺めていたのだ。


「ノイエ」

「はい」

「ノイエのお尻の方が大きくて美味しそうです」

「……」


 小さく首を傾げた彼女はゆっくりと顔を起こした。


「後で食べて」


 分かりました。後でがいつになるか分かりませんがお嫁さんからのリクエストです。そのお尻を美味しく頂くことを僕は誓いましょう。


「小さい子」

「はいはい」


 ノイエがポーラを引き渡すように手を伸ばしてきたので素直に渡す。

 と言うかそろそろポーラの治療を済ませて服を着せてあげないとな。


「で、ランリット」

「……何よ?」


 だから自分で胸を揉んでも意味は無いらしいぞ? 意味はあるのか?

 ちゃんとマッサージをしてノイエ並みの祝福と言うか新陳代謝があれば育つらしい。


「とりあえずこれを」


 大粒の宝石と都に来るまでに得た悪魔の謎薬で硬貨を詰めた小袋を彼女に投げ渡す。


「それで宿を取ってアテナさんとその子を頼む」

「……面倒ね」


 言うなって。


「ノイエのお姉ちゃんは分け隔てなく年下の女の子を救える存在だよね? そう思うよね。ノイエ?」

「はい」


 ノイエを巻き込むと……ランリットは深くため息を吐いた。


「分かったわよ全く」


 怒りながら彼女はアテナさんの傍に移動し、彼女が抱いているニクの尻尾を掴んだ。


 ムシッと、そう見事なまでにムシッと自然の動作でニクの尻尾の毛をむしる。

 むしられたニクも一瞬何が起きたのか理解できず、綺麗にむしられた自分の尻尾を見つめ……大暴れ開始だ。気持ちは分かる。


「武器はこれで良いとして、後は」


 ずっと寝ている女の子をあっさりと背負う。小柄な割にはパワフルな研究職だな。


「なら自分たちは先に逃げる」

「どうぞ」


 と言いながらランリットはしばらくノイエを見つめ渋々といった感じで歩いて行く。

 アテナさんもニクを抱えてランリットの後を追った。


「さてと」


 こっちも仕事をしよう。


「なんか傷薬ってあったっけ?」

「……おしっこ」


 これこれノイエさん。スカートを捲し上げようとしない。

 それは何の薬ですか? 確かに一部喜ぶ人も居るでしょうから一概に薬では無いと言いにくいですが、今のポーラには必要としない薬のはずです。


「アルグ様のだったらその子喜ぶ」

「これこれ」


 いつからポーラはそんな変態キャラになった?


「まあ服を着せて……と言うかまず下を履かせてからだな」

「そのままならおしっこは楽」


 何に引っ張られているのか問いたいぞノイエ?


 大多数の荷物はポーラが持っているので、僕ら一応持って運んでいる背負い袋を回収しその中からポーラの下着らしい布を取り出す。

 とてもカラフルな色ばかりなのですが……女性の下着ってこんな物なの? ポーラさんってば紫色とか持っているのね?


「これが良い」

「ノイエさん?」

「ダメ?」


 駄目ではないけど……どうしてノイエはポーラに黒を勧めるのかが謎である。




~あとがき~


 二手に分かれた主人公たちは…両方ともに怪我人が。

 名も知らない女の子を見捨てないからランリットも手を貸しているのかな?


 で、ノイエさんがいつものように暴走してますね~




© 2022 甲斐八雲

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