馬鹿なの君たちは?

 神聖国・都のとある路地裏



「ポーラ!」


 グッタリとしているポーラなんてレア過ぎる。

 出会った頃はあった気がするが最近の彼女ではあり得ない。逞しくなってしまったのだ。


 それなのに今の彼女はノイエの腕の中で、あっ……微かに動いた。


「大丈夫か?」


 慌てて駆け寄りゆっくりと動き出したポーラの手を取る。


 大丈夫。お兄ちゃんはここに居ますよ?


「にい、さま」

「うん」

「……まけ、て、ません」


 ガクッと彼女の全身から力が抜け落ちる。


「ポーラ~!」


 と言うか妹よ。負けてないって何さ! 何なのさ!

 そっちの方が重要なの? そんなに勝ち負けって必要の?

 誰か教えてよ! 人の言葉で!


「気絶しただけだから」

「してねえしっ!」


 ムクッと体を起こしたポーラの体を扱う悪魔がそんなことを言い出す。


 もう君たちは何なの? 最近の君たちは色々と規格外過ぎてお兄ちゃんのツッコミが追い付かないよ?


「いや~。流石にちょっと死ぬかと思った」

「本当かよ?」


 一度起こした体をまた横にして、何故か悪魔がノイエに甘えだす。


「お姉さまの布越しの胸に癒される」

「それは僕のだぞ?」

「ふっ……嫁をノーブラで出歩かせている変態が何を言う?」

「ちょっと待て」


 確認して理解する。確かにノイエはノーブラでした。


「ノイエ」

「はい」

「胸のヤツは?」

「……」


 クルンとアホ毛を一周させ、ノイエが小さく首を傾げる。


「アルグ様が悪い」


 何故に?


「小さくて苦しい」


 ……。


「「ぐふっ」」


 何故かランリットとアテナさんから痛々しいダメージ音がして来た。


 会心の一撃ですか? クリティカルヒットしてますか?


 アテナさんはダメージに足を震わせているけど、ランリットはダメそうだ。完全にダウンしている。


「つまり僕が悪いと?」

「はい」

「どうして?」

「……」


 またノイエがアホ毛をクルンとさせた。


「揉みすぎ」

「申し訳ございませんでしたっ!」


 身に覚えしかありませんでした。


 だって理想的な胸が目の前にあれば揉むでしょう? その胸は僕のだから好き勝手にするでしょう? その結果育ちましたか? 胸って揉んでも育たないと聞いたけど、あれって嘘だったんですか?


 教えてよ。エロい人。


「誰かさんの場合、揉むというよりマッサージみたいな感じだから」


 これこれ悪魔よ。ノイエの胸に抱き着いて何を言っている?


「あれってほぼほぼリンパマッサージに近いのよね」


 リンパマッサージ? そのせいでノイエの胸が育ったと?


「つまり僕が触り続けると育つと?」

「全員がそうとは限らないだろうけど」


 ノイエの胸に押し付けていた顔を離して悪魔がニタリと笑う。


「お姉さまの場合祝福もあるから効果覿面なのかもしれないわね」


 何て恐ろしい。

 確かに揉んで撫でて揉んで撫でてと、ノイエの胸を愛でていたけれどだ。


「帰ったら採寸してお姉さまのブラを作り直さないと」

「お願いしますっ!」


 この辺のことに関しては僕は悪魔を信用している。


 コイツはとんでもない性悪だしトラブルメーカーだけど、美しい物を美しいままに保存しようとする。つまり変態なのだ。立派な変態なのだ。


「凄く失礼な気配をお兄さまから感じるんだけど?」

「そろそろその胸を返せ」

「嫌よ~」


 谷間に顔を押し付けて悪魔の名を持つ変態が……その後頭部にハリセンでも叩きこんでやろうか?


「で、ポーラは何故負けたの?」

「負けてないわよ。引き分け」


 お前もそれにこだわるのか?


「言い換えればあんなズルは勝負でもないし」

「ズル?」

「ええ」


 ノイエの谷間を堪能した悪魔が体勢を変え僕を見る。


 律儀に悪魔を抱えたままのノイエは、ある意味でお姉ちゃんモードか?

 飽きるまではこのままだろうから好きにさせておこう。


「ったく……あれはあんな風に使うために作ったわけじゃないのに……何をどう間違ったらあんな使われ方するのよ」


 ん?


「つまり攻撃された君は相手の攻撃方法を知っていたと?」


 僕のツッコミに悪魔の目が泳いだ。


「わたしぽーら。えいえんのようじょ。むずかしいことはわかんな~い」

「永遠に眠らせてやるっ!」


 大上段に振り上げた右手にハリセンを作り握りしめる。

 狙うはテヘペロしている悪魔の顔面だ!


 けれどノイエがクルっと回転して僕のハリセンボンバーを回避した。


「ダメ」

「でもっ!」

「怪我してるからダメ」

「……」


 はい?


「これこれ悪魔よ」

「ん~」


 ますます悪魔の目が泳いでいく。

 間違いない。確定だ。


「ノイエ」

「はい」

「そのちっこいの脱がして」

「いや~ん。お兄さまの変態。こんな幼女に……姉さま違う。そっちが先じゃない! 下着は最後に脱がせるのが相場って物なの~! それが私の美学なの~!」


 たぶん抱えている都合ノイエが手抜きをしただけだ。

 ズボッと妹の股間に手を入れ何故か赤い下着をはぎ取った。


「誰の趣味よ?」

「……わたしぽーら。えいえんのようじょ」

「お前か~!」


 再びのハリセンボンバーをノイエが回避しつつ悪魔が着ているドレスをはぎ取る。

 残っているのは靴下と靴だけだ。これはこれでポイント高めでエロイ。


「正面に傷は無いね」

「あはは~。マジマジと兄さまに私の全裸をっ! もうこれは他所にお嫁になんて行けない!」

「結構見てるし見慣れているし」

「乙女の恥じらいパンチっ!」


 僕の顔にパンチを放とうとした悪魔の眉間に皺が寄る。

 パンチとは言えないヘロッとした一撃は、僕にも届かない。


「背中か」

「違うから。あれよあれ。蒙古斑を見られたくないので」


 こっちの世界にそれは無いだろう? 基本西洋人な人種よ? 一部モミジさんたちみたいな人たちも居るけど、黄色人種は激レアだよ?


「ひっくり返して」

「はい」

「いや~。姉さま止めて。初めては前からが良いの。顔を見ながらが良いの」


 アホなことを言って必死に抵抗する悪魔だが、ノイエに適う者は居ない。

 あっさりとひっくり返されて……その背中の怪我を僕らに晒した。


 肩甲骨の辺りから尾てい骨の付近まで赤や青の色をした痣が出来ている。

 出血は無いが、余りにも酷い状況だ。背骨や肋骨は大丈夫なのか?


「何をどうしたらこんな酷い怪我を?」

「……だからズルをされたのよ」


 抵抗を諦めた悪魔がノイエの肩に顎を乗せてため息を吐いた。


「あんな使い方を私は設計していなかった。でも世の中には馬鹿が居て無理を承知でそれを実行した」

「で?」

「……ガードしたんだけどその上から殴り飛ばされてね」


『ふー』っと悪魔が息を吐く。


「氷を出してそれを滑ることで上空に逃げたの」

「逃げてなかったら?」

「梅雨の時期の雨上がりの道路に転がっているカエルの死骸かな? あんな感じでペッタンコ」


 そうか。


 ペシンッと気の抜けた音が悪魔の後頭部から発せられた。

 軽くハリセンを振り上げて僕が悪魔の頭を叩いたのだ。

 ノイエも危なくないと判断してくれたのか避けることはしなかった。


「危なくなったら逃げろって言っただろうに?」

「……こんな怪我をする予定は無かったのよ。昔のあれなら十分に対処できたの」


 片手で頭を押さえながら悪魔が拗ねた。


「で、結局あれって何なの?」

「……私が昔に作った魔道具よ」


 ほほう。


「その片割れ。たぶんこの国に残っているとは思ってたんだけど……」


 頬を膨らませて悪魔が拗ねに拗ねる。


「あれは卑怯よ。正直姉さまですら危ないかもしれない」


 そんなに?


「全く……とりあえず」


 考えることが増えた気がするけど、まずは一度逃げないとかな。


 こっちは怪我人を2人も抱えているし……これこれランリットにアテナさん。ずっと静かにしていると思ったら何をコソコソ話をしている? はい? 胸を大きくするマッサージをどう教わるか話し合っていた?


「馬鹿なの君たちは? 時と場合を考えなさい」


 こんな非常時にどんな会話をしているのか、小一時間説教してやりたくなった。




「はうっ!」

「アイル?」

「……違うから。今のは違うから」


 時と場合を考えていない様子の魔女の様子に歌姫は嘆息した。




~あとがき~


 ポーラが負け…引き分けたのは過去に刻印さんが作った魔道具を不正使用している結果です。

 当たり前ですがそんな使い方をすれば使用者は大変なことになるのですが、その辺の内容は後々にでも。


 胸に関してだとアイルが落としてくれるから楽だわ~w




© 2022 甲斐八雲

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