魔法一発で滅びるこの都の様子を
神聖国・都のとある路地裏
「さあ考えるか」
風通りの良い場所で適当に石や空箱などを椅子にして、僕らは腰を落ち着かせる。
この世界は“トイレ”がちゃんと普及しているから路地裏に野糞などが転がっていたりはしない。野良犬も基本そんなに数が居ないからそっちも問題無い。
だが小の方はね。女性はトイレに行くけど野郎は隙あればその辺でしてしまう生き物だ。だから路地裏での直接地面に座るのはお勧めしない。少しでも何かを椅子にした方が精神的に救われる。
まあその辺をこだわるのは令嬢様や日本人だった僕ぐらいか? ノイエなんて姉を抱えてそのまま座りだそうとするぐらいだしね。
慌てたランリットに制されて中腰の姿勢で停止したものだから、ランリットが中途半端なブリッジの姿勢の感じになり、大股開きで両足をプルプルと震わせていたけど。
何より色気の無い下着だ。やはり美人は下着からこだわって欲しい。
「僕……帰国したらみんなに相応しい下着をプレゼントしようと思うんだ」
「何を考えての発言ですか? アルグスタ様?」
少し油断していたアテナさんが慌てて両足を閉じてスカートの上から両手で股間部分を押さえ込む。
君にではない。話はちゃんと聞いていただろう?
「服を送るのは当たり前だと思うんです。だから僕はその上を行きたい」
「……思考が危ない変質者なような気がしますが?」
失礼な? きっとあの姉たちなら喜んで身に着けてくれる。
特にホリーやファシーは渡したその場で着替えだす。
レニーラは気分だな。隠れて着替えてから披露とかしそうだ。
シュシュは絶対に隠れて騒いで見せつけたりはしないタイプか。脱がして愛でる楽しみが待っている。
セシリーンは『着せてください』とか言うタイプだな。それはそれで危ない何かに目覚めそう。
リグは『着替えるの面倒臭い』とか言うな。こっちも強制的にお着替えだ。
エウリンカとファナッテは未知である。
そして一番の謎が先生か。アイルローゼは……あれも結構の気分屋だから謎である。
そう考えると新しい楽しみがっ!
「さっさと神聖国を亡ぼして帰るか」
「下着からどうしたら国家滅亡に変わるんですかっ!」
「えっ? 変わるでしょ? 何を言ってるの君は?」
「それはこっちのセリフですっ!」
マジでお怒りのアテナさんはあの日か?
これこれ慌てるでない。レバーか? レバーが必要か? ウエルカム鉄分か? 生憎現在鉄分はその辺に転がっている錆びた釘しかないけど?
「私の国なんです! ここは!」
「そっか~」
忘れていた。
「ユニバンス王国は亡命者を常に受け入れています」
「亡命確定なんですかっ!」
「故郷を捨てる勇気も必要だと思うよ?」
「故郷を廃墟にしようと考えている人がそれを言いますかっ!」
そんなに怒るなよ?
「怒り過ぎだって。ちょっとその薄い胸に手を置いて考えてみて?」
「怒りたくなることを言われて考えると、憎しみしか湧いてこないんですがっ!」
「まあまあ」
薄いのは事実だしね。
プリプリと怒るアテナさんはゆっくりと自分の胸に手を当てて深呼吸した。
「想像してご覧」
「何をですか?」
「魔法一発で滅びるこの都の様子を」
「……」
不思議と想像できてしまた様子だ。
「やっぱり亡ぼす気満々じゃないですかっ!」
「まあそれが出来たら楽って話です」
「……はい?」
閉じていた目を開いたアテナさんがこっちを見て首を傾げた。
「だからそれが出来たら楽なのよ。まあ出来ないことはたぶん無いんだけどね」
「……」
睨むな睨むな。
確かに可能ですよ? ノイエの魔力を先生が使って大規模破壊魔法でもぶっ放して貰えばこの都を廃墟にするのは簡単です。
「確かに喧嘩を売って来た神聖国は嫌いだし、子供を奴隷のように売り買いしているっていう噂が事実だったら滅亡ありきなんだけどさ~」
何となく視線を上へと向ける。
建物の間から見える夜空には星が点在している。今日は良く見えないな。場所が悪いのか?
「滅ぼしたいのは国であって人じゃないんだよね」
「……」
その部分は決して間違えてはいけない。
「でも国が亡んだら……?」
「国は人が居ないと機能しないけど、人は国が無くても生きていけるよ」
王族の僕が言ってはいけない言葉なのかもしれないけどね。
でもそれが事実だ。
「だから本来王の名を持つ人間は、国民を愛し彼らから愛されるような政治をしなくちゃいけないんだよ。それを怠れば国は滅びて僕らなんて城門前に首を並べるってわけだ」
「……」
アテナさんが凄く真面目な顔をして僕の話を聞いている。
そんな真面目な話をする気は無いんだけど……お嫁さんがこっちを見ているからちょっと良い格好をしてみただけです。
ところでノイエさん? お姉ちゃんのブリッジはいつ止めてあげるの? まだ耐えられるって最近思考がカミュー染みてない?
その体勢でもノイエから食料供給を受けているランリットも流石だ。ノイエの姉をするのは本当に命がけなんだな。僕も彼女の夫をするのに命を懸けていますがね。
あれ? ポーラが宿屋で買い取って来た食料はもう底を尽いた感じ? 結構な量があったよね?
ああ納得だ。ランリットに食べさせながら自分も食べていたのね。
と言うか君の方が割合が多すぎない?
気のせいですか。そう言うことにしておきます。
「まあそんなことから人は殺したくないんですよ。歯向かってくれば別だけどね」
敵対するのであれば容赦はしません。僕は万能じゃないから優先順位を設けます。設けた順位の上位から出来る限りは救いたいです。
ただノイエは下から救うタイプなので……僕の苦労は絶えないんだけどね。かかってこいや!
「さっきの偉そうな人が言っていたけど、確かに100人救うために1人の犠牲を必要とする時ってあるとは思うよ? でもさ……それを強いるのは違うと思う」
視線を少女に向ける。
集めた空箱を並べて作った簡易的なベッドの上で横になっている少女からは時折呻き声が聞こえて来る。
痛みによるものか、大の大人に殴られたトラウマが原因かは分からない。
「ウチのお嫁さんはその昔、とある場所で沢山の人たちに囲まれて暮らしていました」
「ノイエ様ですか?」
「そ」
アテナさんが何とも言えない視線を向ける。
ノイエはまだランリットにブリッジを強要していた。
「笑顔が愛らしくて奪い合いが発生する少女だったらしいよ?」
「笑顔?」
今のノイエを知る人にはビックリな話だろう。
彼女には表情が無いんだから。
「絶望に支配されていた姉たちに笑顔を与え、その引き換えに絶望を受け取ったんだって」
「絶望を?」
「そ」
無表情でズボズボとランリットの口に野菜を押し込み自分の口に肉を運ぶ妹は最強だろう。
これこれノイエさん。少しは野菜を食べなさい。
はい? ランリットは野菜好き?
なら仕方ない。涙目でランリットが否定しているが気のせいだ。
「結果ノイエは感情と表情を失ってしまった」
「……」
「それが1人を犠牲にして手にする幸せってヤツの正体だよ」
だから僕としてはやっぱり無理かな。
ノイエが犠牲を強いられたわけではない。きっとノイエは進んで受け入れたんだ。
自分のことなど二の次で、自分の家族の為に迷うことなく。
「ノイエが犠牲になってからノイエに救われた人たちはどうしたと思う?」
「……どうしたんですか?」
「彼女を元に戻そうとした」
当たり前だ。あの施設には天才ばかりが集められていたのだから……そう考えるのが普通だ。
「でも戻せなかった」
簡単に戻せるのならそれは犠牲などではない。
ノイエは犠牲だなんて思っていないだろうけど。
「もしこれが人の死だったら? アテナさんは両親を生き返らせる方法があると知って何もしない? もし生き返らせられるかもと聞いたら無理はしない? それも人を傷つけても手に入れられる力だと知っても何もしない?」
「……」
それは無理だろう。愛が深いほど人は暴走しがちだ。ノイエの姉たちを見ててつくづくそう思った。
僕ですか? 僕のは暴走ではない。自分が走りたいから走るのです。
「上に立つ者が犠牲を求めるようになっているのって、結局もう諦めているんだと僕は思う。だから僕はこの国を滅ぼそうと思う」
「……それからはどうするのですか?」
「決まっています」
当たり前だけど、
「そんなのは残った人たちが頑張れば良いんだよ」
「無責任なっ!」
怒るな怒るな。
「無責任じゃなければ国崩しなんてできないよ」
そうで無ければ僕は責任感で押し潰されるだろう。
だから無責任に国崩しをする。
「王が居なくても人は生きられるよ」
民主主義で生きてきた僕はそれを信じています。
~あとがき~
主人公がまともなことを言っているが…時間が無くて話を纏めていないから、散らばってる感じが半端ない。
真面目に書くなら余裕がある時に限ります
© 2022 甲斐八雲
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