ビジュアルが酷いわね
神聖国・都のとある宿の外
うっわ~。すっごいわ~。
そろそろ誰かがツッコむべきであろう。ランリットの祝福に対して。
「ビジュアルが酷いわね」
「だよね? だよね?」
横に来た悪魔が僕の気持ちに同意してくれた。
「せ~ので言ってみる?」
「……」
「「せ~の」」
こんな時だけ息が合う。
「巣分けしたミツバチ」
「夏に見かける蚊のような昆虫の塊」
僕のミツバチの方が可愛くない?
見た目は恐怖映像だけど……つまりそう言うことだ。
ランリットの背後には常に羽毛が昆虫のように浮かんでいる。ふわふわと浮かんで彼女の移動に付いて回っているのだ。
で、ひとたび何かあるとその昆虫……羽毛が牙を剥いて襲い掛かる。
ブスブスと突き刺さって全身から血染めの羽毛を生やして崩れていく。
「何てチートな」
「よね~」
何処からか椅子を取り出し悪魔が腰かけ、おいおい優雅だな? そのティーカップは何処から取り出した。
「秘密よ」
「そうですか。で、優雅にお茶の理由は?」
「えっ? わたしまだおこちゃまだから~」
可愛らしくポーラのような舌足らずな口調で喋るな。それはポーラのみの特権だ。
何より返事にも答えにもなっていない。
「何よ? アンタは自称ロリコンじゃない男なんでしょ? ならこんな小さな子に甘えられても動じないんでしょ?」
当たり前だ。僕はロリコンではない。
「ただ小柄な人とか決して嫌いでは無い」
「言い切ったよ、この変態」
「失礼な?」
そもそもロリコンとは幼い女の子を愛でることであろう?
ここ注目。大注目。幼い女の子である。
「リグもファシーも年上だしね」
「……」
その汚物を見るような目を止めろ。事実であろう?
「だからこんなに愛らしい妹がどんなに迫っても愛してくれないのね! この年上好き! 姉好き!」
つくづく失礼な。
「ノイエは僕より年下だけど?」
「えっ?」
マジで狼狽えるなって。忘れていますか? ノイエは僕より年下ですよ?
「ならどうしてこの子を愛してあげないのよ!」
叫ぶな叫ぶな。何処の中心だ?
「今日は無駄に絡んで来るな……その理由は?」
「うん。あの祝福凄いんだけど見てると背筋が痒くなる」
気持ちは分かる。集団とか群衆とか集合体を苦手とする人が見たら全身を震わせる恐怖映像だ。
わらわら~っと意志を持ったような羽毛が攻撃蜂のように浮かんでいる。ってあれ?
「ほい質問」
「わたしポーラ。好きな体位は相手と見つめ合いながら」
「しばくぞ?」
ウチの妹の何かを汚すな。
「何よ?」
「あの祝福って羽毛限定なのかな?」
「……」
僕の問いに悪魔の表情から余裕がなくなった。
何かとんでもない化け物に出会ったような……大概この悪魔も化け物だけどね?
「どう思う変態?」
「だから変態ではない」
可愛い妹の口から兄を罵る『変態』などと言う言葉を聞きたくない。
しいて言えば好き者の類だろう。
絶倫? まさか~。自分なんてまだまだですよ。
「祝福の傾向からすると、支配下に置く物が大きくなったり硬くなったりすると消耗が激しいとかじゃないかな?」
「つまり羽毛以外でも扱える?」
「終わったら本人に聞けば?」
「……」
何やら考え込み、悪魔は手にしていたティーカップを一気に煽った。
「予定変更よ」
「はい?」
「だから予定変更」
椅子から飛び降り悪魔が僕に背を向けノイエたちの元へと向かっていく。
本当に自由人だな~。まあそろそろ僕も動きますかね。
「本当に手のかかる姉たちだな」
ムッスンは迫り来る相手を見つめ残る部下たちに目配せした。
あの攻撃は1つの法則がある。それを確認する。
決死の覚悟で部下の1人が化け物に襲い掛かる。剣を手に大きく振りかぶり襲い掛かる彼に羽毛が牙を剥いて迎え撃って来る。ブスブスとその体に硬化した羽毛を浴びながら、部下は笑って踏ん張った。まだ倒れない。
それが彼に与えられた使命だ。
追撃の羽毛が飛んで来て体の正面側に血染めの羽毛が生える。
ようやく力尽きて倒れる部下に反応し残りの部下が化け物に殺到した。
剣を振るい化け物に向けて剣先を延ばす。
届かない。届かなかった。
「やはりなっ!」
だがムッスンは歓喜した。
歓喜し過ぎて大胸筋の喜びが止まらない。
人生最高の出来栄えを見せつける。
「その力は攻撃しかできない!」
腹の底から咆哮する。
もう間違いない。何故なら部下たちの剣先が届かなかった理由……それは化け物が慌てて後方に後退したからだ。
「だから何かね?」
化け物は面倒臭そうに声を発した。
「分からないのかね! 女性よ!」
ムッスンは叫び続ける。
「これで君は1つ優位を喪ったのだ」
「……」
『それが何だ』と言いかけたランリットは言葉を飲み込む。
相手の自信を、その絶対的な自信に若干の違和感を覚えたのだ。
「それなら攻撃の強度を強めれば良い」
「ほう。出来るのかね?」
「出来る」
断言しランリットは一歩前進した。
「あまり使いたくはないけれど」
羽毛を使っているのは昔からの癖だ。
隣の家で鳥を飼っていて安易に手に入りやすかったこともある。
何より妹は鳥が好きだった。ただそれだけのことだ。
だから別に他の物を使うのに……ランリットは目を剥いた。
先ほど打倒したはずの男が起き上がったのだ。自分の傍で。
「ならば我々も見せよう」
目の前の男がニヤリと笑う。
「命がけの戦いを挑んでいるのだということを」
立ち上がった男は全身……その体の正面を血で濡らしながらも動き出し、ランリットに手を伸ばす。身構えるランリットは自分が掴まれると感じた瞬間目を閉じた。
その時の到来が無いことに疑問を抱きながらゆっくりと瞼を開けば、眼前で立ち上がっていた男は顔を押さえて蹲っていた。
「ウチの嫁の姉に気安く触れないで欲しいんですけどね」
パンパンと大きな紙を折りたたんだような物で肩を叩く人物が居た。
それは最愛の妹であるノイエの夫だ。
「筋肉臭い何かが移ったらどうする? そうじゃなくても他人の服を脱がせたがる変態なのに、これ以上おかしな性癖を植え付けるな!」
「変態ではないっ!」
とりあえずイラっとしたから妹の夫の尻に蹴りを一発見舞っておいた。
~あとがき~
どんなに強いチートでも弱点はあります。で、主人公が…
© 2022 甲斐八雲
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