また会おう日本人よ~

 ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸



「……」


 何故か朝からことあるごとに視線を自分の足元に向けるノイエが居る。

 たまに僕に視線を向けて来ては首を傾げる。彼女のアホ毛が綺麗な『?』を作っているが質問はして来ない。たぶんノイエの辞書に質問するべき言葉が載っていないのだろう。


 悪魔が余計な入れ知恵しないように今日は朝からポーラをバックハグしているから大丈夫だ。

 ただ身長差から親子が触れあっているようにしか見えない。僕的にはそういう風にしか見えないが、ミネルバさん的には違うらしい。

 時折『失礼します』と言っては姿を消す。そして遠くでバキバキバキと音を立てて立木が倒れる音が聞こえて来る。勝手に伐採するなと言いたい。


「あれ?」

「なんですか?」


 そう言えば昨日から我が家のメイド見習いを見ていない気がするんだけど?


 辺りを見渡しその姿を探すが見つからない。

 並んで待機しているメイドさんたちはドレス姿のポーラを見つめて熱いため息を吐いている。


 ん? ところでポーラよ? 何故そんなにガクガクと震えているのだ? 君の見つめている視線の先にはスカートの裾を持って捲り上げようとしているお姉さんが居るくらいだろう?


 これこれノイエさん。そんな粗相は許しません。

 貴女が美脚なのは認めます。先生に次いで美しい足だと思います。


 それでポーラさん。ハラハラと何を探しているのですか? はい? 昨日からずっと? 何の話ですか?


 心底慌てた様子のポーラがミネルバさんを呼んで……何やら命令した。

 ポーラが命令とは珍しいが、必死な様子からして結構重要なことなのか?


 しばらく待つとミネルバさんが泥だらけになって眠りこけているウチの見習いメイドを両脇に抱えて戻って来た。

 荷物扱いをされているが起きる気配は無い。完全に寝ている。


 その死体は何だ? 完全に燃え尽きているな?

 で、ポーラさん? 視線が物凄く遠い方を見つめていますが僕の方を見てみようか?


 大丈夫。お兄さんは納得いく理由であれば怒りません。つまり納得させれば良いのです。

 さあどうぞ。ふむふむ。サボっていた2人に昨日草むしりを命じたと。で、そのまま忘れて……この馬鹿たちは夜通しずっと草をむしって燃え尽きたわけね。納得した。


「有罪」


 ポーラを脇に抱えて尻叩き10回の刑をする。


 で、ウチのメイドさんたちはどうしてポーラが叩かれる様子に熱い視線を向けて来るの? 君たちの性癖は大丈夫ですか?


 一度ウチの倫理を正す必要があるな。ミネルバさんを責任者に据えて……ポーラが叩かれる様子を一番ハァハァしながら見つめているのがミネルバさんでした。うん。ウチはダメだ。


「ノイエさん」

「なに?」


 だからスカートを戻しなさい。下着が見えないギリギリの高さをキープしているのは流石だけど、生足を晒すのは許せません。


 はい? いつもミニスカ姿でユニバンスの上空を……見せても大丈夫な下着だよね?


 何それって顔でこっちを見ないでお嫁さん。


「ポーラさん」

「はい」


 両手で自分のお尻を押さえているポーラが涙目でこっちを見つめて来る。

 そんなに強く叩いていないでしょう?


「今度からノイエには、下着の上からもう一枚下着を履かせてから仕事に向かわせるように」

「……ねえさまがめんどうくさがります」

「大丈夫。良く見てなさい。ノイエ」

「はい」


 スカートを降ろしたお嫁さんがやって来る。

 ガシッとノイエの両肩に手を置き、真っすぐ相手の目を見つめる。これが重要だ。


「約束して」

「なに?」

「今度からドラゴン退治に行く時は下着の上に見せても良い下着を履くと」

「めんどう、」

「してくれたらご褒美はノイエが望むまま」

「……分かった」


 ノイエのアホ毛が綺麗な『!』になっている。

 ただ僕も学んでいます。ここでもう一押しが必要です。と言うか保険です。


「でも赤ちゃんとかは直ぐには無理だからね?」

「むう」

「歌の人がきっと可愛い赤ちゃんを産んでくれるからそれまで待とう」

「……はい」


 ノイエが納得したからもう大丈夫だ。

 あとは忘れるのが怖いが、ノイエは比較的約束事は……守っていると僕だけは信じよう。


「さてと」


 脱線しまくっているがそろそろ神聖国に戻る準備を進めないとね。

 宿でニクと一緒に過ごしているアテナさんが心配……ではない。むしろ羽を伸ばしていそうだ。


 まず今朝から運び込まれている膨大な食料やら物資をノイエの異世界召喚の中に……ノイエさん? 一度その中身を全て出してみようか?


 異世界の不思議生物は出さなくて良いので、荷物の方を全てです。


 無造作にノイエが異世界召喚の魔法陣の中に手を突っ込んでは中から色々と取り出す。

 主に前回入れた食料の残りだ。使い切ったと思ったがまだ残っていたか。


 まだ食べられる物なら……ポーラさん? どさくさに紛れて君もエプロンの裏から何を取り出しているんですか? それってカミーラの槍?

 気持ちその槍が焼き肉臭いのは……ミネルバさんに押し付けて手入れを丸投げしない。


 失敗した。事前に中身を出しておくべきだったな。


 ノイエが取り出した食料をメイドさんたちが仕分けしていく。

 どれもまだ痛んでいないので、本日届いた物を奥に入れて……大丈夫か? スズネ?


 震えながら木製ボードを手にスズネが仕事をしていた。


「お仕事ですから」


 真面目か? そんな白い顔をしてリストアップとかしなくても良いんだぞ? あっちの馬鹿娘を見習って……誰かコロネに天罰を下しておいて。


 爆睡しているコロネをノイエがピンポイント投擲で馬糞置き場に投げ捨てた。流石だ。


 ウチの真面目代表と化して来たスズネの手により、すべての品物がリストアップされノイエの収納……異世界召喚の中に仕舞われた。

 ただ途中で何度も魔力供給のために食事タイムとなり、持って行く食料の1割ほどがノイエの胃袋に仕舞われることとなったけどね。


「で、ポーラ? その卑猥なキノコは捨ててって言ったよね?」

「でもすてるとまじょさまがおこります」

「むう」


 腕を組み僕は置かれている卑猥なキノコを見つめる。

 巨大なキノコだ。とても立派だ。何処かの地方でご神体として祀られていそうだな。


「って犯人!」

「あはは~。また会おう日本人よ~」


 キノコの製作者が笑いながら逃げていく。

 あの悪魔は本当にろくなことをしないな。




~あとがき~


 違和感にノイエはずっと自分の…そんな時もあります。

 そして本来ならさっさと神聖国に戻る予定が、作者がコロネたちのことを忘れていたので一話追加となったのですw


 次話から神聖国の都が舞台となります。

 神聖国編が終わるまでよそ見をしないで一気に書く予定です。

 書けたら良いな。書きたいな…




© 2022 甲斐八雲

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