この貧乳共っ!

「博士。落ち着いて……話をすれば理解し合えますから! ねっ!」

「……」

「お願いだから会話をしてぇ~!」


 小柄な相手の何処にこんな力がとも思うが、パーパシは相手の腰に抱き着いて必死に動きを制していた。


 元を正せば自分のミスだ。

 祝福研究家にノイエの夫の祝福を伝えた自分のミスだ。


 確かに珍しいとは思った。

 ドラゴンを容易く屠れる力など存在しても良いのかと思ったこともある。

 だからつい好奇心が芽吹いてしまったのだ。


 もしかしたら彼女……周りから『博士』と呼ばれている祝福研究家のランリットなら自分たちとは違う意見を言ってくれるかもしれないと。

 結果として黙って話を聞き終えた彼女は立ち上がりそして暴走を始めた。


 最初は『中枢はどっち!』などと口走っていたが、今はもう口を開きもしない。真一文字に閉じ、両眼をギラギラと血走らせて抱き着いているパーパシを引きずり歩いている。

 唯一の救いは複雑に入り組んだ魔眼の通路のせいでゴールがまだまだ先なだけだ。


 迷路を思わせるこの場所の全ての道を暗記しているのはレニーラとシュシュぐらいだとも言われている。

 他に知る者も居るかもしれないが公にそう思われているのは2人だけだ。


 何より普段から魔眼の深部で自分の世界に浸る博士は中枢に至る道筋など知らない。


「お願いですから博士!」

「……」

「人の話を聞いてよぉ~!」


 それでもずんずんと突き進む彼女は確実に中枢へと近づいている。

 このままでは間違いなくたどり着いてしまう。


「レニーラ~! シュシュ~! 誰でも良いから博士を止めて~!」


 両目から滂沱の涙をこぼしながらパーパシは絶叫していた。




「お漏らし」

「お漏らし」

「お漏らし」

「……」


『お漏らし』の三重奏を食らった魔女はそのまま壁に体を向けて膝を抱え……肘から先がまだ回復していないから抱えられず、立てた膝に顔を押し付けて静かに泣き出した。

 シクシクと響く声に何故か舞姫だけが満足気だ。


「ところでリグ」

「なに?」

「どうしてあんな風になるの?」


 純粋な好奇心から歌姫は自分の足を枕にしている医者に問うた。


「たぶん生存本能」

「えっ?」

「だから防御本能」

「どっちよ?」

「どっちも正解」

「お医者様?」


 手を伸ばして少女のような相手の頭を撫でる。


「だからどっちも正解。女性は性的に危険を感じるとああなる。体を守るために」

「そうなの?」

「うん。だからアイルも危険を感じて本能が体を守っただけ。普通のこと」


 医者の言葉に俯いていた魔女の頭が僅かに上がった。


「出すぎだと思うけど」


 医者の言葉にまた下がった。ある意味で追い打ちとも言える。


「アイルローゼは変態なだけなんだよ」

「……どうして偉そう?」


 大きく胸を張って踏ん反り返る舞姫にリグが若干目を細めて顔を向けた。

 少しぐらいなら魔女を玩具にするのは許せるが、徹底的に相手を辱めることをリグは許せない。その許容範囲を舞姫の態度は超えかけていた。


「だって、」

「誰かもマニカにああされたからよ」

「セシリ~ンっ!」


 顔を真っ赤にしてリグたちが居る方に顔を向けて来たレニーラは、さっきまでの偉そうな雰囲気が霧散していた。

『ああ。事実なんだ』と理解してリグの目元が優しく弓になる。


「大丈夫レニーラ。普通だから。防衛本能だから」

「よね? そうよね?」

「壮絶にお漏らししてたけど」

「歌姫ぇ~!」


 綺麗な地団駄を踏む舞姫にリグたちは声を上げて笑い出す。


 人はレニーラを考え無しの賑やかし扱いするが、どんな場所でも人を笑わせることができる彼女の才能は稀有である。

 特にこのような場所においては貴重とも言える。


「あ~。私も外に出て旦那君と仲良くしたい」

「出たら?」


 舞姫の声にリグは素直にそう返す。

 と、彼女は足音を発せない歩きで近づいてきた。


「このお肉は! このこのこの」

「突っつかないでよ」


 自分の胸の双丘を指で突いて来る相手にリグは眉をしかめた。


「魔力が無いんだよ。私も歌姫もそっちの才能は全然だしね」

「そうだったね」

「素直に認めるな。何か腹立たしい」

「だから突っつかないで」


 またツンツンとされて仕方なくリグは両手で自分の胸をガードした。


 小柄と言うか幼さすら感じさせるほど身長の低いリグではあるがその双丘はあり得ないほど発達している。正直はち切れんほどに……何をどうしたらここまでアンバランスに成長するのかとすら思う。


 リグは医者ではあるが魅力的な女性だ。


 一番の特徴は彼女の薄い褐色の肌には紺色の刺青。その刺青が模様のように体の至る場所に施されている。

 昔はその刺青を嫌っていたリグであるが今はむしろ露出させている。最愛の人物に『綺麗だよ』と言われてから考え方が180度変化したのだ。


 ガードの隙を探しながら指で相手の胸を突くレニーラは、そんな相手を観察しながら視線を歌姫へと向けた。

 昔は魔眼の深部で無表情で呆けていた存在だったが、今では中枢に居座り毎日笑っている。


 本当に色々と変化した2人だ。


「ん?」

「レニーラ……」


 ふと指先に違和感を感じたレニーラは視線を戻す。何故か指に引っかかっている布が……そして褐色の肌を、その顔を真っ赤にしているリグが居た。

 どうやらリグの胸を覆っている布が外れて引き寄せてしまったらしい。


 迷うことなくレニーラは自分の胸にその布を……ガクッと膝から崩れ落ちレニーラは絶望した。


「こんな……あり得ない……」

「レニーラ?」

「何なのよ! この肉袋っ! 人の大きさかっ!」

「レニーラ!」


 流石に怒りリグも立ち上がる。ただ片腕でカードしている胸は完全にこぼれ落ちたが。


「この~!」

「あはは~」

「待て~!」

「これを返して欲しいのか~」


 何故か布を振り回し逃げるレニーラとそれを追うリグの構図となった。

 ドタバタと逃げる2人にセシリーンはそれに気づき耳を澄ませた。気のせいでは無いらしい。


「レニーラ。少し良い?」

「ん~? 肉から逃げるので忙しい」

「肉って言うな!」


 ブンブンと片腕を振り回しリグが舞姫を追う。


「パーパシが呼んでいるみたいよ?」

「ん~? 珍しい」


 だがレニーラはリグから逃れる方が忙しい。


 息が上がったリグが足を止めた。

 相手は舞姫だ。こと運動に関しては基本性能が違う。


「……うどもが」

「はい?」


 何やら呟いているリグにレニーラも足を止めて耳を澄ます。


「それを返せっ! この貧乳共っ!」


 響いたリグの声に全員が無意識に自分の胸に手を、


「はうっ!」


 唯一1人だけ……魔女だけが座った姿勢のままで横倒しになり、シクシクと泣き出した。




~あとがき~


 博士ことランリットは中枢を目指します。腰にパーパシをぶら下げてw

 そんな中枢ではレニーラが無意味に元気です。元気すぎます。

 ターゲットにされたリグがマジギレですが。



 30分で書いたので酷い内容です。大丈夫かこれ?




© 2022 甲斐八雲

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