伏字を必要としないだとっ!
ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸
「……ぐぅ」
何て声を? 100年の恋も……冷める訳が無いな。僕はノイエが居ないと生きていけない。
部屋に入るなり奇行を見せるノイエを観察していると、彼女はベッドに飛び込んで枕を抱くなりおかしな声を発した。顔を上げては枕に埋めるをしばらく繰り返し、満足したのか今度は押し付けたままで左右に振るう。
ノイエさん。貴女は何がしたいのですか?
狂えるお嫁さんはそのままにし、僕は視線を動かす。
ポーラがエプロンの裏から……これこれ妹さんや。それは何ですか? その禍々しい巨大な男性のあれにしか見えない立派なキノコは?
「まどうぐです」
「そっか~。効果は?」
「はつどうすると、だんじょのなかがむつまじく」
「今すぐ捨てて来なさい」
「はい」
妹様が控えていたミネルバさんに視線を向けると、彼女は黙って巨大なキノコを抱え込んで運んで行く。
妹よ……君はいつから先輩に対してそんな乱暴なことを? そしてミネルバさん。ポーラの命令で辱められたと言いたげな表情は止めてください。ポーラの何かが汚れます。
「で、そのゴミの山は何?」
「すべてししょうがかこにつくった」
「全て残らず並べなさい! 今持って行った物も!」
恐ろしいほどに元気な声が響き渡る。
視線を向ける必要もない。相手が元気に床へ飛び込んで来た。
「シーツの癖に私の邪魔をっ!」
ブラブラと両腕を震わせ足に絡みついたシーツに悶えるお嫁さんを発見。
髪の色は真っ赤だ。人はこれを術式の魔女と呼ぶらしい。
「先生?」
「良いから並べるの!」
「……はい」
こうなると魔女はこちらの言葉が届かなくなる。
諦めてポーラが取り出した魔道具を床の上に並べるとなめ尽くす勢いで……先生。そっちのキノコに対してその勢いは止めてください。ビジュアル的に僕の中で何かが死にます。本当に許して。
アイルローゼが暴走したからベッドに戻るとポーラが適当な手つきでシーツを投げて来た。
受け取っている間にミネルバさんが部屋から追い出され……露骨にため息を吐く感じは悪魔と入れ替わったらしい。
「本当にあの魔女は扱いやすくて良いわね」
「さては仕組んだな?」
「ふふり……騙される方が悪いのよ」
「くっ」
何故か悪魔と寸劇を楽しみ、仲良くベッドの上に座ると魔女を観察する。
とても楽しそうにお尻を振って……あれがアイルローゼの本性だと知ったら、弟子のフレアさんが泣くよ?
「そうそう。フレアさんだ」
「あん? あの闇落ちが何よ?」
「あれはあれで美味しくない? 2Pキャラのようにブラックバージョンとか悪くなかった」
「なら今度お前の嫁の色を変えてやろうか?」
「あ~。髪の色ならコロコロ変わるからな~」
色違いノイエは僕の楽しみではあるが目新しさはない。衣装を変えるのもちょくちょくしているから……残るはサイズか?
「ノイエのサイズを弄る方法とか無い?」
「……にいさまのへんたいっ」
「舌足らずな口調でありがとうございますっ!」
僕のハートに大ダメージだけどご褒美です。ありがとうございます。
「大きくするのって……出来なくはないんだけどね」
「出来るんだ」
「ええ簡単よ。あの嫁は何をしてもそう簡単に死なないから、ぶっとい注射で胸に直接医療用食塩水をぶち込めばあっという間に巨乳の出来上がり」
「そんな偽乳はダメ~!」
「ありがとうございますっ」
僕の枕ボンバーにより悪魔が感謝の言葉を口にした。
全く……豊胸なんて無粋なことを僕は許さない。安易な逃げだ。きっと将来後悔するに違いない。絶対に垂れそうな気がするしね。
ただ何故かフリフリと元気良く動いていたアイルローゼのお尻から元気が失われた。
気のせいだ。そうに決まっている。
「なら小さくすることは?」
「出来るわよ」
「出来るんだ」
「うふふ。そんな時はこれ」
メイド姿の悪魔がエプロンの裏に手を入れた。
「何とかの壺~」
「わ~。土下座エモン。何それ?」
「うふふ。これはね?」
「恐ろしい物を出すな~」
「ありがとうございますっ」
アッパーカット気味に振り抜いた枕ボンバーに悪魔の感謝の弁が止まらない。
善行をすると悪魔ですら感謝を思い出すのだ。
つかその壺って……あれだろう? お城の宝物庫に安置されているはずのあれだろう?
それが何故ここにある! 短く正確な発言を求める!
「忍び込んで全部偽物とすり替えた」
「この大馬鹿野郎~!」
「あざ~っす」
放り投げ枕ボンバーにより悪魔が感謝しながらフェードアウトした。
これは決して幼女虐待の類ではない。ボケとツッコミだ。痛みは伴っていない。傷ついているのは僕らの心の内側だけだ。
「偽物って!」
「大丈夫よ。調査が終わったら元に戻すし」
「……なら良いか」
それならば問題無し。借りパクは罪だが一時預かりは罪じゃない。
「良くはないと思うんだけど?」
実行しているお前が素に戻ってツッコミを入れるなって。
「大丈夫。元に戻すんだろう?」
「え、ええ」
「調査が終わったら」
「まあ」
「調査には何百年とかかかるなんて言わないよね?」
「……」
「こっちを見ろ。そして反応しろ」
渋々と言った様子で悪魔が頷いた。
「ならば……先生?」
気づけばアイルローゼが目を輝かしてこっちを見ていた。厳密に言うと悪魔を見つめていた。
これはあれだ。絶対にダメな奴だ。具体的に言うと黒に黒を足す感じだ。
「魔法学院にも隠し倉庫が何ヵ所か存在していて」
「ふっ……後で地図を持って来なさい」
悪魔と魔女の密約がっ! その握手は断固として阻止させてもらう!
とりあえずポーラを抱え込んでアイルローゼとの握手を阻止する。
「兄様」
「はい?」
「大胆ね」
「……」
抱え込んだ結果、ポーラの小さなおぱいを掴んでいた。
「ふむ」
「あっいたっ……痛いって」
「ふむ」
揉んでみるとその小ささが良く分かる。我が家に来た頃はほぼまっ平らだったから……感触が伝わるほど大きくなったと喜ぶべきなのだろうか?
「まだアイルローゼの方が大きいかな?」
「「あん?」」
あれ?
ポーラが睨んで来るのは分かる。
これは悪口では無いのです。さらなる成長を期待した僕からの提言ですから。
問題は何故アイルローゼが僕を睨む? えっと……ポーラより大きいって言いましたよね?
「兄様兄様」
「はい悪魔」
シュッと手を上げた悪魔に発言を許す。
「魔女はもう結婚して子供を産んでいてもおかしくない年齢です」
「あん?」
より凶悪な視線がポーラに。
「そんな人に私と比べて大きいって……抜かされた時に何て弁明する気なのか教えて欲しいかな」
「……」
悪魔に向けられていた凶悪な視線がこっちを向いた。
大変目が座っていらっしゃる。あれは冗談の類で誤魔化せるレベルじゃない。言葉を間違えれば高速詠唱で殺されてしまう気がする。つか殺される。
「アイルローゼの胸はあれで完成しているってことでしょう? 僕としては感度良好な先生の胸とか好きだよ? 揉むことに関しては別の人に求めるけど、舐めた時の可愛らしい先生の反応は、」
「この馬鹿っ!」
床に転がっていたスリッパを僕の方に蹴って来て先生がベッドに飛び込んで来た。
こんな時はポーラの盾~って逃げるな悪魔。うごっ! 落ち着けアイルローゼ。頭突きが下っ腹に。
「いつもいつも恥ずかしいことをペラペラと!」
「でも先生ってば反応凄く可愛いし」
「煩いっ!」
噛むなって。そっちはダメ~! 僕の息子を傷物にする気なの!
と、何故かベッドの外へと逃げ出した悪魔が身振り手振りで……言うことを聞いて動けと?
「そっちの脇の下に腕を入れて、そうそう。そしてそっちに足を引っかけて。はいお上手。でもってそっちに体を反らしながら相手の腰に手を当てて、一気にぐりんと」
ぐりんと押したらアイルローゼを組み伏す格好になっていた。あらビックリだ。
「うふふ。これでも寝技最強の格闘技とか見るのが好きだったのよ」
「へ~」
「筋肉質の男性がくんずほぐれつ……ハァハァ」
おまわりさ~ん。あの少女から犯罪臭がっ!
「放しなさいよ弟子」
「……」
先生ってこういう体勢になると顔を真っ赤にして照れだすから色々とズルい。
「そだ。先生」
「……何よ?」
正面から相手を見つめる僕の視線から逃れるように先生が顔を背ける。
でも呼ぶと横目使いでこっちを見るから本当に可愛らしいのです。
「先生に少し相談が」
「嫌よ。いつもそんなこと言って私に甘えて」
「なら仕方ない。悪魔さん」
「ほ~い」
何故か悪魔がエプロンの裏から生々しくて禍々しい魔道具をっ!
「うふふ。電気マッサージ器~」
「正式名称の方が伏字を必要としないだとっ!」
ビックリだ。
~あとがき~
未知の魔道具を並べれば魔女が釣れるのですw
あっさりと出て来たアイルローゼは確保され…何を企んでいるのだ? 悪魔よ?
そして電気マッサージ器もどきの魔道具が姿を現した。
どうする? どうなる?
最近執筆時間が取れなくなるとノイエの姉ネタに逃れる自分が居る。
意外と書くのが楽なんですよね。一番楽なのはミシュとルッテの会話ですけど。
姉たちやノイエ小隊ネタが出てきたら安易に逃げたと思ってくれても構わない。
ただ神聖国の都は…結構シリアスさんが出番多めなんで、作者が今のうちに遊んでいることもあるんですけどねw
© 2022 甲斐八雲
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