誰がこのような絵空事を描き暗躍しているのか
ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室
とうとうウチの可愛い妹が次期悪の組織の総帥に……心の中で涙が止まらない。
何をどう間違ってしまったのだろう? ポーラは……あれ? 確か騎士に育てようとしていたはずだ。でもどうして騎士にしようと?
才能の塊であるポーラの能力を生かせると思って選んだはずだ。けどその才能を周りから狙われた。特に叔母様に狙われた。結果としてメイド道を歩まされ……とうとうその頂点に。
ああ。心の中で涙が止まらない。
ノイエさん。もう少しギュッと抱きしめて欲しい。
そうそうそんな感じで。お口の方はもきゅもきゅしてて良いから僕を抱え込むように抱いていて。
あ~安心する。ノイエの胸の谷間には僕の精神を安定させる何かがあります。
「する?」
「もご(無理)」
「むう」
あっさりスルーされているけど今の僕は猿ぐつわを噛まされ椅子に縛り付けられている。自由なのは右腕だけです。サインをするために右手だけが自由です。
しかしそれだけです。あそこで悪魔に魂を売っている妹を救うこともできない。なんて僕は無力なのだろう。
「アルグ様」
「もご(はい?)」
「お腹空いた」
そう言われましても今の僕は本当に無力です。
あ~。ポーラさん。そろそろそっちの話し合いを終えてこっちに来ませんか? まだっぽいですね。でしたらミネルバさんは……感極まって泣いている。そんなにポーラのメイド長内定が嬉しいんですか? 嬉しそうですね。見てて分かるからツッコミは入れません。はいごめんなさい。
「アルグ様」
「……」
これ以上ノイエが拗ねだすと大変だから誰かどうにかしてよ。
復活したクレアがノイエにケーキを手渡し……久しぶりのケーキにノイエのアホ毛が動く動く。
大陸西部に行ってから甘味とは無縁だったからノイエが本当に嬉しそうだ。
「ポーラさん。あっちのお菓子を全部持って行く感じで」
「わかりました」
僕の部屋に常備されているお菓子の中で特に甘いヤツをすべて持って行くことにした。
前回は肉をメインに据えすぎた。対ノイエ対策で物事を考えるとそうなってしまう。はい反省。
フレアさんは砂鉄を掃除すると静かに去って行った。
本当に基本僕らと関わろうと……まあ仕方ない。彼女は元々ノイエの副隊長であり僕の部下だった人だ。そんな人が不名誉な除隊をし都合、今更関わると周りから色々と言われるしな。
何より現在の彼女は馬鹿兄貴の専属メイドだ。
「ももぐぐもぐんももんもん(目立ちたくないんだろうな)」
「なに?」
「……もんももんんん(ノイエ大好き)」
「する?」
解読してきたかっ! こんな時だけ勘の良い子だな!
スリスリと甘えて来るノイエをそのままに……はて僕はどうしてこんな場所でサインマシーンと化していたのだ?
「あっ」
思い出しました。
「アルグスタ様。私には仕事があるのですが?」
「気にしない気にしない」
一度退出したフレアさんを急遽呼び戻し、自由となった僕は書類の山をクレアに押し付けた。
ここで判子を押すのを見ててやるから心配しないでどんどん押せ。メンタルが豆腐な部下を持つとこんな時だけは本当に困る。気にせずバンバン押せと言いたいる何かあった時の責任なんて上司である僕が取るんだから心配するな。何よりやらせているのは僕なんだから。
何度もそう言っているのにクレアは真面目だから仕方ない。イネル君も込みでこの夫婦は本当に真面目過ぎる。忠犬か?
「ちょいと相談したいことがあってね……今の僕には戦略とか戦術とか面倒を見てくれる人が居ないんです」
「先生やあの人は?」
あの人とはあの人ですか?
「ウチの知恵袋は猫に連れられて現在身動きがね」
「……大変なのですね」
薄々色々と察しているっぽいフレアさんは余計なことは言わない。口は禍の元と知っている。
ホリーの存在は……国の上層部は良く知っている。と言うかお兄様が一番出て欲しい人がホリーだ。お姉ちゃんの知恵は国の宝にも匹敵するとも言われている。知恵者は昔から重宝される実例だ。
でも今はそんな知恵を借りられない。
猫がホリーを連れたまま……まだマニカを追っているのか? 猫ってそんなに執念深かったっけ? そう言われれば化け猫の話は良く聞くな。つまり執念深いのか?
マニカも厄介な相手に狙われた物だ。
「と言う訳で僕が知る限り賢い部類のフレアさんに知恵を借りたくて」
「……私が馬鹿をして不名誉な除隊をしたと言う事実をお忘れですか?」
「忘れたよ。女性の気の迷いなんて月のあれと同じで良くあることでしょう?」
「……」
そんな哀れな物を見るような目を向けないで。ノイエは違うから。ノイエはね。
「一時の奇行なんかで僕の中のフレアさん評価は下がったりしません」
「そうですか」
諦めてため息を吐いたフレアさんが何とも言えない表情で僕を見た。
「それでご相談とは?」
「うん」
そもそも僕はこのことが気になって少し考えようと自室に来たんでした。それが気づけばクレア遊びに興じてしまって……本当にあの娘が悪いな。
その書類の山を片付けたら夫婦そろって三日間の自宅謹慎の刑だ。
この部屋は三日間施錠して開かなく仕様。それで良い。
「僕らってさ……とある事故で共和国が大惨事を見舞ったでしょう?」
「とある夫婦が暴れたという噂が?」
気のせいです。そんな事実はありません。
「そして帝国では……悲しい魔道具の事故が発生したとか?」
「とある夫婦がやらかしたと言う噂が?」
気のせいです。そんな事実もありません。
「で、このままいくと神聖国でも……何が起こるのかな?」
「とある夫婦が何かしでかすと言う噂が?」
気のせいです。誰が広げている噂だ?
「不思議なことにここ1年で大国と呼ばれる5つの内、2つが崩壊したわけです」
「3つ目も時間の問題かと」
だからそんな事実はありませんから、ね?
「実はさ~。やらかしている自分が言うのも何だけどね」
「認めましたか」
煩いやい。
「出来過ぎじゃない?」
「……」
僕の言葉にフレアさんが軽く目を開いた。
「一応相手は大国なんですよね……腐っても」
「そうですね」
スッと目を細めてフレアさんが何やら考え始めた。
やはり期待に応えてくれる人だ。頼りになる。敵に回さなければだけど。
「にいさま」
「ほい?」
紅茶の準備をしていたポーラが僕の横に座る。
ノイエは背後から抱き着いて甘えているのでそのままだ。背中に押し付けられる胸の感触がたまらなく良いのです。頭を使う時は甘味とおぱいが必須です。
「なにがへんなのですか?」
「変と言うか……」
共和国攻めはノイエの姉たちが手を貸してくれた。
帝国はある意味自滅と言うか、狂って人間を辞めた魔女の暴走だ。
大国である2つを潰したのは実力……とそう思えたかもしれない。
でも3回も続けば普通怪しむ。誰の教えだっけ?
「どう思うフレアさん」
「出来過ぎと言えば確かにそう思えますね」
「だよね?」
現メイド長が素直に認めた。
「共和国だけでしたらまあなくも無いでしょう。ですが帝国もとなると……確かに少し疑いたくなります」
「もしこれで神聖国を大混乱に陥れたら?」
「……」
押し黙ったフレアさんが口を開いたのは、アホ毛を器用に使ってノイエが茶菓子を全て平らげた頃だった。
「あくまで仮説となりますが宜しいですか?」
「どうぞ」
「では」
軽く咳払いをしてフレアさんが語りだした。
『もしですが……誰かがこの大陸を一つの盤に見立てて動いていたら? その目標が大国全てを崩壊させることなら? ですがこの仮説には無理があります。簡単な話です。残り2国とユニバンスには接点がありません。ですが残りの2つには別の駒を当てていたとしたら?』
たぶんフレアさんの仮説は正しい。
「問題は誰がこのような絵空事を描き暗躍しているのか……何より何が目的かは分かりませんが」
~あとがき~
フレアの仮説が正しければ、ホリーやチビ姫クラスの化け物知恵者かそれ以上の存在が暗躍していることとなります。
つか主人公がこの事実に気づいたことにビックリだわ~w
© 2022 甲斐八雲
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