お前が非戦闘員?

 ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸



「先輩っ!」

「はいは~い」

「もうっ!」


『やる気がないですよ』と言いたげな少女に、同じ年齢くらいの少女が腰に手を当て憤慨している。


 黒髪おかっぱの少女……スズネは我慢の限界とばかりにカタナに手を伸ばした。

 対して庭に置かれているチェアーに腰かけ横になっている薄い金髪碧眼の少女コロネはゴロゴロだ。猫のようにゴロゴロしている。


 2人は共にユニバンス王国の上級貴族ドラグナイト家に仕えているメイド見習いだ。

 最近は当主の命令で西部の街に出向いたりしているが、そっちは国の密偵衆が引き継いでくれたのでようやく本国に戻って来た。


 とは言え仕事は終わらない。むしろメイド見習いとして日々学ぶことが多いのだが、普段から不真面目なコロネはサボってばかりだ。サボっているのだ。

 それなのに先輩のメイドたちはサボるコロネを見て『あの子は本当に……もう』と生温かな視線を向けて叱ったりしない。諦めているわけでもなく、何処か達観した様子で眺めるのだ。


 それをスズネは許せない。生来真面目なスズネとしてはサボりはサボりだ。理由なんて関係ない。働かざる者食うべからずだ。そんな腐った果実は他の果実を腐らせる前に処分した方が良いのだ。

 問題は寝ている先輩が実戦慣れしたツワモノだと言うことだ。安易に攻撃すれば返り討ちに遭う。


 ゴクリと唾を飲み込みスズネは頭の中で相手に対しどう攻撃するのかを思案する。

 自分の剛剣と呼ばれる攻撃だと下手をすれば返り討ちだ。相手の攻撃は早くて異質なだけに、


「のはぁ~!」


 思案するスズネの目の前でコロネが何かしらの攻撃を受けて椅子から転げ落ちた。

 たぶん大きな荷物袋だろう。そして追い打ちでもう2つほど同じ大きさの袋が飛んで来てコロネの上に積み重なった。


「ちょっと! 誰よ!」

「うっさいわボケっ! からの~追撃の~」

「はい」


 屋敷でペットとして飼われているリスが飛んで来てコロネの顔面に尻を押し付けた。

『まっ恥ずかしい』と言わんばかりに顔に手を当てるリスと、リスの尻を顔面に受けたコロネがガタガタと全身を震わせる。


「しり~!」


 ワシッと顔に居るリスを掴んでコロネが投げ飛ばす。

 クルクルと放物線を描いて飛んで行ったリスを先回りして受け止めたのは、


「ゆうがなものですね?」

「「……」」


 可愛らしい声音だが有無を言わさぬ雰囲気にスズネとコロネは視線を向けて確認した。

 ドラグナイト家のメイド……と言われているがその実態は当主の伴侶であり、国の英雄でもあるノイエの義理の妹だ。名をポーラと言う。


 そんなポーラの登場に2人のメイド見習いは直立し全身から緊張をにじませた。


「とりあえず……」


 ペットのリスを胸に抱いてドラグナイト家の令嬢は可愛らしく笑った。


「にわのくさむしりでもしてください」

「「……」」

「へんじは?」

「「はいっ!」」


 拒否権など無い。

 ポーラの命令はドラグナイト家では絶対なのである。


 ただしスズネとコロネは自分たちが草むしりをする場所に視線を向けた。

 どこまでが庭なのか分からない広大な空き地には大小さまざまな草が茂っている。これを全て毟るとなると……。


「もちろんきょうじゅうにですからね?」


 死刑宣告をしてポーラと……当主夫妻たちが屋敷へ向かい歩いて行くのを2人の少女は絶望の眼差しで見送ることしか出来なかった。




 王都王城内



「本当にお前たちの存在って卑怯だよな?」

「誉め言葉として受け取ってやろう」

「ああ。そう受け取ってくれ。だからノイエに何かコソコソと告げ口をするな」

「ならそっちもフレアさんを傍に呼ぶな」


 一度屋敷に寄ってからナガトに乗って王都へと来た。

 ポーラはミネルバさんを引き連れて買い物に向かったので報告は僕らが行う。


 まあ忙しいお兄様にアポなしは謁見は難しいが馬鹿な兄貴は大体自室に居るので襲撃したわけだ。


「それでこっちに攻めてきた人たちは一網打尽?」

「まあな」


 作戦を企画した自分もビックリだ。まさか圧勝するとはユニバンス王国って戦闘部族の流れでも受けている一族なのか?


「西部のゲートは抑えたからもう向こうからの攻撃はないはずだ」

「それはそれは」


 非戦闘員の僕としては戦いは本職では無いのでそっちの話は、


「お前が非戦闘員?」

「何が言いたい?」

「どこぞの馬鹿はこれから何処に行く?」

「……」


 神聖国の都に出向いて女王陛下と平和的な握手です。

 シェイクハンドです。空いているもう片方の手は武器を握りしめての握手ですがね。


「自覚無いのか?」

「何のでしょう?」

「お前ほどの好戦的な野郎はそうは居ないぞ?」

「失礼な」


 この平和とノイエを愛する僕の何処が好戦的だと?


「お前がそう言うなら良いが……」


 呆れながら馬鹿兄貴が頭を掻く。


「それでどうする気だ? 本気で神聖国を叩くのか?」

「国を叩くのは無理でしょ?」


 いくら僕らでも不可能はある。

 大国である神聖国の版図はとても広いのです。それを叩くと言うのは、


「都を潰せば実質叩いたも同然だろう?」

「その心は?」

「……一応色々と神聖国のことを調べてはみたんだがな」


 フレアさんから分厚い資料を受け取った馬鹿が片手で突きだしてくる。

 無理無理無理。両手でどうにかだぞ? 受け取れと? おもっ!


「神聖国は一枚岩ではない。お前も知っているだろう?」

「あ~。部族単位で都市や街など支配しているってあれ?」

「それだ。そのせいで中央が落ちれば一気に国が乱れる可能性がある」

「あ~」


 つまり僕らが都を叩けば……あれ? あれれ?




~あとがき~


 都に突入する前に本国に戻る主人公。何か卑怯だよなw


 主人公は勘だけは良いのでとある可能性に気づきました。

 そう。僅かなその可能性に




© 2022 甲斐八雲

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