夜盗って?

 神聖国・とある集落



「騒がなければ命までは取らないわ」

「はい」


 目出し帽を被ったポーラの言葉に小さな集落の住人全てが土下座した。土下座だ。

 実際は妹の指示で岩を担いだノイエの圧に……集落の人たちがひれ伏して行く。流石ノイエだ。


 もちろんこの地域に正座なんていう文化は無い。

 ポーラが哀れな男性その1を棒の先で小突いて見本とし示した結果だ。


 ただ普通に考えて……どうして僕らはこんなことになったのだろうか?


「あん? ウチの親分さんの機嫌が悪くなる前に馬を連れて来な。もし馬を連れて来なかったらこの集落が……そこの岩をちょっと担ぎ直して、そうそう。で、あっちにポイして。はい良く出来ました。こほん。今みたいに岩の雨がこの集落に降ってだな~」


 問題はノリノリで夜盗のメンバーと化している僕にも問題があるのかもしれない。

 意外と面白いんです。どんな馬鹿なことを言っても相手がリアクションを返してくれるしね。

 最悪刃物を突き付けて『笑え』と言えば笑ってくれるのです。今の僕は何があっても滑りません。


「あの~? どうして私が親分さんなのでしょうか?」


 そんな哲学染みた質問をしないでくださいアテナさん。


 どうして私が親分なのか? それはあの木に向かって『どうして君は木なのだろうか?』と質問し答えを得たらお答えしましょう。


「そんな難しい質問はしていないのですが?」

「なるほど。つまりこう聞きたいのですね。どうして私が親分なのかと?」

「ずっとそう聞いてます。というか遊んでますか? えっと……アルさん?」


 疑問形で親分が質問してきたのは僕が偽名を名乗っているからだ。

 仕方ない。だって今の僕らは夜盗なのだから。今の僕は夜盗のアルさんなのです。


「遊んでなどいません親分」

「……」


 そのジトッとしたした目を向けないの。


「僕らはこの地域のことに詳しくないので、やはり詳しい人を親分にした方が良いんです」

「でも妹さんの……ラーさん? は、私より詳しそうですが?」

「あれはダメです。あれを親分にするとあの人たちみたいなことになります」


 親分の質問に答えるために住人の人たちから離れた僕らから見て、親分というより独裁者と化している妹様が本当に偉そうにしている。


「お前たちは豚よ。私の気まぐれで晩のご飯にされる存在よ。さあそこの女。貴女の不満を言いなさい。もし私の心を震わせるほど面白い話だったら晩のご飯は隣の人に……最近夫が淡白すぎる? マンネリが原因じゃなくて、あっちが弱くなったと?

 そんな時はこれ。この粉末を飲ませなさい。黒い昆虫の足が気になる? 飲むのは貴女じゃなくて夫なのだから気にしなくて良いの。効能? ウチの馬鹿なお兄さんがハーレムを作って一晩中腰を振ってしまう程度の物よ。

 そこそこ。奪い合わない。今なら特別に一家に1つこれを特別価格で! はい並んで並んで」


 気づけば怪しげな薬を売りつけていた。

 脅迫していたのではないのか? 実は脅迫では無くて商売だったのか?


「あれが親分になったら変な昆虫の足が入った薬を飲まさせられるよ?」

「……」


 だからアテナさん。何故に僕をねっとりとした視線を向けるの? 飲んでないからね? あんな薬を飲まなくてもウチの場合はお嫁さんが元気だから休む間もなくね。

『皆さんも自分の夫をウチの絶〇お兄さまのような夜の紳士へ!』と騒ぎ立てている悪魔は言い過ぎだと思うぞ?


「……」


 ちなみにノイエは岩を担いだままで待機している。

 ノイエが親分もあり得ない。彼女に自主性は無い。


「ならアルさんが親分で良いじゃないですか?」

「ふむ」


 それはダメなのです。


「どうしてですか?」

「だって僕が遊べないから」

「……」


 何故か親分さんがニクを手招きして抱きしめて頬擦りし始める。

 アニマルテラピーは異世界でも存在するらしい。


 空飛ぶ絨毯という移動手段を失った僕らは夜盗に身を落とし神聖国の都を目指している。

 別に夜盗になるつもりは無かったが、『商人の振りでもするの?』と悪魔に問われた瞬間僕の中に何かが舞い降りた。『テンプレは敵である』と言う何かしらの神託だ。そんな馬鹿なことを言い出すのは邪神の類だ。しかし頷いちゃうのが僕だ。テンプレなどやはりつまらないのだ。


 話し合いの結果夜盗になった。

 どうしてそうなったのかは……クジの結果としか言えない。

 だがクジであっても決まったからには従う。僕らは立派な夜盗を目指しアテナさんを親分に行動を開始した。

 まずは集落を襲って馬と食べ物。それと現金を手に入れることにしたのだ。


「あっちがふにゃふにゃで若い嫁が可哀想? まっかせなさい。そんな時は異世界の薬を模して作ったこの錠剤を飲めば良いの! お嫁さんに欲情する一時間前に飲めばバッキバキになって昔を思い出すこと間違いなし!」


 何故か台を準備し、悪魔が紙筒を手にバンバンとたたき売りをしている。

 気づけばノイエは岩を投げ捨てて大きな紙を手に広げている。図解ですか? まあ図解でしょう。百歩譲ってそれが図解だとしてコミカルに描かれているそのイラストキャラは誰だ?僕とか言ったら流石に怒るぞ? 『絶〇くん』とかポップな字体でもダメだと思います。


「そこの奥さん! 奥さんは旦那に不満は無いの? えっない? またまた~。そんなことを言う人妻は大抵浮気をしているから旦那さんは気を付けて。さて隣の奥さんは? 子供が出来ない? そんな時はこれ。この錠剤を飲めば……」



 僕らは夜盗のはずだ。夜盗になったはずだ。

 気づけば黒い足を覗かせる粉末や錠剤を売り払いその代金で馬と食料を買って……無事に集落を後にした。


 ただおお礼と称した土産で大量の物品を得たのは何故だろう? 昨晩は集落のあちこちからリズミカルな掛け声が響き渡り……悪魔が色々と暗躍していた様子だった。


 僕はその様子を見ていない。

 そんなリズミカルな声が響けばウチのノイエもその気になるわけです。


 夜盗って?




~あとがき~


 夜盗に身を落とした主人公たちは…夜盗?

 結果として刻印さんが趣味に走ってひと財産作っちゃうんですけどね。


 また残業のデススパイラルが始まって執筆の時間が…不意打ちで休載したらごめんなさい




© 2022 甲斐八雲

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