誰がそんなことをっ!
神聖国・とある集落
『僕らは彼らに都へと向かい運んでいただいていたところ、ウチのお嫁さんに対し欲情した騎士が襲い掛かって来たのです。だから仕方なく迎え撃って……聞いた話と違う? アテナさんは違うことを言っていた? それは忘れてください。
あれでしょう? 途中で嵐に遭ったって言う奴でしょう? まあ違った意味で嵐でしたよ。野郎が襲い掛かって来るのをウチのお嫁さんが千切っては投げ千切っては投げ……千切ってないけどね。で、その嵐が過ぎてから僕らは彷徨いこの場所にたどり着いたのです。
そんな感じでどうでしょうか? 言い訳が苦しい? なら最悪僕らに脅されたとか言えば良いですよ。全然構いません。僕らとしては少しここで休憩できればと思っていますしね。何より都の位置が良く分からないんです。だから都の位置を教えてさえくれれば何日か休んで立ち去りますので。
で、無理を承知をお願いがあるのですが……あのペガサス騎士たちを預かって貰えますか? 股間の怪我を手当てして欲しいんです。手当ですからね。手当てをお願いしています。
と言うかウチの妹様の氷オムツで彼らの製造工場は死滅している可能性が……だから悪魔! その怪しげな魔道具をしまえ! ご婦人様に祭られて浮かれるな! そのまま担がれて何処に行く! 治療? 何の治療? お~い。
もう良いや。で、ここは時折ペガサス騎士が様子を見に来るんでしょう? その時にでも彼らを引き渡していただければ……今こっそりと何年後って単語が聞こえた気がするんですが気のせいですか? 出来れば生きている内にお返しして頂ければと思います。はい。つまり彼らを預けるので僕らの数日の滞在を認めて欲しいんです。どうでしょうか?』
僕と長老さんは握手を交わした。
交渉は無事に終わった。長老様の固い握手の感触が忘れられない。
そしてご婦人様方がワラワラとペガサス騎士たちに群がって“治療”する様子も忘れられない。
「何かあんな企画物のエロいヤツを見た気がするわ~」
「おい待て。お前はいくつだ?」
「……私ポーラ。永遠の14歳。てへ」
お尻を振ってポーラが逃げ出した。その正体は悪魔だが。
まあ良いか。
あれに付き合っていると疲れるし……とりあえずウチの可愛いお嫁さんの所へ戻ろう。
「ポーラ様。ポーラ様」
「はい」
「ここに居ましたか。実はあちらの枯れ井戸から水が」
「さっきもぐってほりかえしました」
「そんなことを!」
ご夫人がポーラのことを女神に出会ったかのような目を向けている。
滞在5日……まだ僕らはこの集落を離れていない。と言うか離れられない。理由はこの集落が余りにも酷くて再建の手伝いをしてしまったからだ。
自分の善人性が恨めしい。
「おねーちゃんすげー」
「ふっ」
「すごーい」
一番凄いのはノイエだろう。
大荒野と呼ばれるこの場所では基本石や土……粘土のような物で家を作る。手頃な石はもう使われまくっているので新しい石が必要だ。つまり岩を砕いて作る必要がある。
ノイエは遠い場所に存在する岩を担いできて集落の近くで割りまくる。割って割って割りまくる。
子供たちの声援に彼女のやる気が高まりまくって割りまくった。
「もう見える範囲に岩が無いな」
代わりに手頃な石が山のようだ。
そしてノイエはついでにと今まで捨てて来たペガサス騎士をすべて回収してきた。
『移動速度とかおかしくない?』という僕の疑問は悪魔が取り出した不思議ブーツが原因だ。履いて魔力を流し続ければ速力がアップし続ける。
問題点は体が耐えられないことぐらいだ。
おかげで運んで来た荷物たちは全員重傷だ。重傷だから手当てが必要になる。
ご婦人様たちが涎を溢れさせてペガサス騎士たちの治療を始めた。
骨折とかは後回しで股間の手当てが最優先される治療だ。
ベイビーラッシュがこの集落に訪れれば良いな。
「そろそろ都に向かわないとね」
いつまでものんびりしてはいられない。
僕らはこの国に戦争を売りに来た。
「とは言え」
この集落に住んでいる人たちに悪い人は居ない。
ご婦人様方は傷ついたペガサス騎士たちを昼夜問わず治療している。治療している。大切だから自分に向かって二回告げておいた。
最初は必死に強がっていた彼ら今では獣の声を上げるのみだ。あの人たちは社会復帰できるのだろうか?
ご婦人たちはそれ以外にも仕事をしている。老いた人も精力的に畑仕事をしている。子供たちも遊んだりもしているが仕事の手伝いをしている。
この場所は平和で活力にあふれている。
「そうなると今回は面倒だけど……」
国のトップたちを集めて氷オムツを履かせて説教だな。
何より子供を奴隷……あ、これの確認を忘れてた。
「アテナさんや」
「何ですか?」
主に料理の手伝いをしているアテナさんは現在休憩中なのか、ニクの尻尾をブラッシングしていた。何気に君たち仲が良いね?
「この国って子供を奴隷にしているって悪評があるんだけど何か知ってる?」
「何ですかそれはっ!」
珍しいほど声を荒げアテナさんが、ブラシをニクの背中に深々と押し付ける。
悶え苦しむニクは……お肉ってフォークとか刺してから焼くと柔らかくなるんだっけ?
「誰がそんなことをっ!」
「周辺国だと有名らしいよ?」
「……そんな……馬鹿な話は……」
膝から崩れ落ちてアテナさんが呆然とする。
本当に知らなかったのだろう。そしてそんな事実を耳にしたことも無かったんだろう。
僕は近くに居た子供に長老さんを呼んで貰った。
やって来た彼の口から告げられた言葉は……さらにアテナさんを絶望の淵に叩き込んだ。
この集落からも過去に子供を連れていかれたことがあるらしい。
ただその子は人一倍ご飯を食べる子だったので集落としては大きな声では言わなかったが助かったと言うことになるらしい。
そして僕も思わず頭を抱えた。その可能性をすっかり忘れていた自分に呆れた。
~あとがき~
サラッとブラックなこともしますが主人公たちは基本善人です。
ですから集落の人たちが困っているとついつい手を差し伸べてしまいます。
そして子供たちに煽てられると調子に乗っちゃうのがノイエです。ただし甘えられたり泣かれたりするとフリーズするのもノイエです。
主人公は遂にそのことに気づきました。っておそっ!
© 2022 甲斐八雲
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