騒ぐなオッサン
ユニバンス王国・王都王城内大会議室
「座ってくれ」
「「はっ」」
入室し椅子に腰かけた国王の言葉に臣下たる者たちが従う。
現在王都に居る貴族は王家に近しい者たちか、伊達と酔狂を愛する者が大半だ。
自分のことだけを考える者は『神聖国からの攻撃』という言葉に震え上がり王都を出ているから参加していない。
会議室を見渡した国王シュニットは、この場に居ない者たちを排斥できればどれ程楽か……などと国王らしからぬ思考に走り苦笑いを浮かべた。
それが簡単に出来ないから色々と苦労しているのだ。
実際弟の名を借りてどれ程の悪事を……しているのは下の弟が主である。
ハーフレンは容赦なく敵対貴族に対し自分の弟の名を語り攻撃している。報告を受けるシュニットとしては『そこまでする必要があるのか?』と思いもする。するが、自分も弟の名を使い貴族に課税を貸していることを考えればハーフレンと同じ穴の狢でしかない。
「まずは今回の総括を行いたいと思います」
臣下代表として近衛団長ハーフレンが会議を進めだした。
被害報告から始まり、捕らえた敵軍の捕虜。並びに比較的素直な虜囚から得た情報や首実検で得た敵将の地位や名など報告される。
「将軍が2名。それに敵の宮廷魔術師の両名を討ち取ったのは今後のことを考えると良かったかと思います」
「そうか」
将軍の首を取ったことよりも、大国の宮廷魔術師の首に対し参加者から驚きの声が上がる。
事前に報告を受けていた事柄を再度聞いているシュニットはこの場では驚かなかったが、初めて聞いた時は驚き座っている椅子から立ち上がりかけたほどだ。
「良く討ち取れましたな?」
のんびりした感じで声を発したのはユニバンスの宮廷魔術師だ。
魔法使いとしての実力よりもその広く深い知識から相談役として現在の地位に就いてもらった人物である。
「敵が愚かにもこちらの策に嵌ったと言う感じですかね。詳しい内容は言えませんが」
「そうですか」
カラカラと笑い初老の域に達している人物は軽く手を叩いた。
「何でも二代目のメイド長が迎え撃ったとか?」
「……その様に報告は上がっていますね」
「そうですか。僥倖僥倖」
嬉しそうに告げて宮廷魔術師は口を閉じる。
この場に居る者たちの皆が知っていることだ。
二代目メイド長が誰の娘であるのかを。
そんなメイド長は現在実家から縁を切られ家名を失っている。
罪を犯し咎人となったためではあるが、ただ実家に迷惑を掛けないための配慮でしかないことも知られている。そうでなければ王弟付きの専属メイドなどと言う立場にいれる訳が無いのだ。
二代目メイド長の主人であるハーフレンは軽く息を吐いて報告を続けた。
殺害した者の中には神聖国の『スモウ』と呼ばれる女性のみが継承する武術の最強位を持つ者が参加していた。4人の内3人までが王都で待機していたトリスシア女史の手により倒され、残りの1人は行方不明となっている。
「それは危なくないのですか?」
声を上げたのは国軍を預かる大将軍だ。
今回王都守護と言うことで近衛が主体となり動いたため国軍は動員していない。
ただ対ドラゴン遊撃隊を王都守護に回したため国軍はドラゴンが姿を現した場合にのみ行動が認められていた。
「シュゼーレ老の言葉は最もです。ですが逃げたその人物は旧帝国方面に向かったそうで」
「つまりは?」
「それを追ってトリスシア女史は嬉々として王都を発ったそうです」
「それは……なんとも……同情してしまうな」
元は敵国のドラゴンスレイヤーであった
ユニバンスの王都で知られている噂話の1つにそれがある。
『彼女は一度狙った獲物の臭いを覚えて決して忘れない。地の果てまでも追いかけて頭から食らう』と。
事実かどうかは知らない。本人に確認した剛の者もするが『なら試してやろうか? 逃げ切れればいいが、出来なかったら頭から食らうけどな?』などと言われ真偽のほどは定かではない。
彼女に詳しいとある元王子が言うには『それぐらいするんじゃないの? あの人なら』と言う言葉が得られている。つまりは事実だと言うのが通説になっている。
トリスシアが追いかけていると言うことで逃走したそのスモウなる武術を使う女性に対する警戒は解かれることとなった。ただ事実を知る数名は何とも言えない思いを胸の中で渦巻く。
実際はそのトリスシアが“非常食”として確保し持って帰ったのだ。
残りの報告はつつがなく終わり、国王からは頑張った臣下に対し感謝の言葉が送られ報奨は後日となった。
「此度は皆、良く働いてくれた。感謝する」
「「はっ」」
国王の再度感謝の言葉を口にして会議場を後にする。
それを見送った主だった者は、首元を緩めてそれぞれ息を吐いて緊張を緩めた。
大半の者は挨拶を交わしながら席を立ち退出していく。
そんな中仕事をこよなく愛さない者たちが残っていた。それぞれ重き地位を持つ者たちだ。
「どうだハーフレン。ウチの娘は?」
「騒ぐなオッサン」
口が堅い者だけが残ったことを確認し、同時に宮廷魔術師ケインズ・フォン・クロストパージュは踏ん反り返った。
「大国の宮廷魔術師を2人も討ち取ったんだぞ? ウチの娘は最高だろう?」
「はいはい。その通りですね」
呆れつつもハーフレンは肯定する。
確かに現在ユニバンスの最強魔法使いに二代目メイド長の名を上げる者も多い。
別枠で彼女の師であるアイルローゼが居るが、稀代の魔女は常に王都には居ない。ふらりと現れ好き勝手をして去って行く人物だ。
「にしても」
ティーカップを両手で掴み縁側で一息つくようなシュゼーレは、のんびりした空気を漂わせる。
「大国というには弱すぎたような気がするのですが?」
「それはスィークから別で報告が上がっていますよ」
ハーフレンは改めて別の用紙を2人に回した。
「……これが事実だとしたら恐ろしい話ですな」
「まあな」
大国であり外との戦いをして来なかった結果、最精鋭が弱体化した。
そんなことがあり得るのかとも思うが……実際結果が事実だと語っているのだ。
「ウチは長いこと戦争をしてきて良かったと言うべきなのか?」
「それもどうでしょうな」
シュゼーレの言葉にハーフレンは苦笑を返す。
「ただ今回は感謝するしか無いようですがね」
~あとがき~
ユニバンスの後始末です。
意外と真面目に働いているんですよ? 真面目が過ぎればいつも通りですがw
実はもう1話ほど後始末の話が続きます
© 2022 甲斐八雲
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