って反則だぁ~!
ユニバンス王国・王都王城内
「今のところはこちらの優勢か……」
何気なしに呟いた国王シュニットの声に失笑染みた笑い声が返って来る。
国王がバルコニーから室内へと視線を巡らせれば、そこには叔母であるハルムント家前当主が椅子に腰かけ優雅に紅茶を味わっていた。
「叔母上。どこか笑うところでも?」
「いいえ。ただあの国は本当に昔から変わっていないと思っただけです」
「変わっていない?」
バルコニーから室内へ戻り、シュニットは叔母と向かい合うようにして椅子に腰かけた。
「何が変わっていないと?」
「そうですね」
カップをソーサに戻し、スィークは背もたれに背を預ける。
どこか思い出しているかのような素振りで彼女は口を開いた。
「神聖国はこの大陸で2番目に大きな国です。昔から……帝国が版図を広げるまでは1番の国土を持つ国でした」
「ええ」
「ですがあの国は『外の敵を攻めない』と言う決まりがあります。これは別に国の法で定められた物とかでは無いのですが」
だからこそ今回あの国はユニバンスに攻めて来た。
これが別の小国であれば落とせたかもしれない。被害は出るだろうが。
「対して我が国は小国でありながら帝国や共和国との戦争を繰り広げて来ました」
「その通りです」
叔母の言葉にシュニットはまだ何も思い浮かんでいない。相手の言葉の意図が。
「神聖国は……国内で発生する賊やドラゴン退治が関の山ですかね。でも当たり前ですがドラゴンスレイヤーを国外に出すことなどする訳がありません」
「ユニバンス以外はそうでしょうね」
シュニットとしてもあの2人を外に出すことはしたくはない。
特に弟の祝福は破格だ。他者をドラゴンスレイヤーにしてしまうことができる規格外の能力だ。
「故に神聖国は最精鋭をこの国に送って来たのです」
またカップに手を伸ばしスィークは喉を潤す。
「分かりませんかシュニット?」
「申し訳ございません。自分はこと軍事に関しては」
「まあ良いでしょう。そっちは前線に出ている馬鹿者の担当ですしね」
王弟自ら最前線で指揮を執る……確かに士気は上がるが何かあった時どうする気なのか?
あんな馬鹿が国王をするぐらいであるならば、軍事に疎い者が国王をしていた方が万倍もマシである。それがスィークの本音であった。
「端的に言えばあの国は人材は豊富なのです。国土も広く豊かですしね。何より長いこと戦争などしたこともありません」
「羨ましい話ですね」
「ええ。内政を預かる者からすればでしょうが」
だからこそあの国は問題を抱えている。
「逆に言うとあの国はドラゴンスレイヤー以外は実戦経験が少ないのです。むしろ無いと言っても良いほどでしょうね」
「まさか?」
「事実ですよ」
最強が故の問題だ。
「わたくしが1人で攻めた時は本当に大国なのか疑いました。聞くにわたくしのことを大量虐殺者のように言ってはいますが、こちらの言い分としては相手が弱すぎたので加減をしても殺めてしまったのが原因です」
軽く動いて軽く獲物を振るえば狩れてしまうのだ。手加減などできず苦労した。
特にあの頃はまだ若く……色々な意味でやる気に満ち溢れていたから仕方ない。
「なら今回は?」
「ええ」
唇の端を持ち上げスィークは冷たく笑う。
「ドラゴンスレイヤーが来ていないのであれば、歴戦の雄しか居ないこの国の最精鋭が負けることはありません」
「それは……」
シュニットからすれば信じられない話だった。
大国の精鋭が小国の精鋭に劣るだなんて。
「どんなに大きな国であろうとも、その国内で競い合えば強さはどんどん目減りしていくものです。ですがこの国は大国を相手に殺し合いを繰り返してきました。その経験値の違いが現状の差でしょうね」
カップをまたソーサに戻しスィークは息を吐いた。
「ただ神聖国のドラゴンスレイヤーは本当に強い。このわたくしが尻尾を巻いて逃げるほどに」
「それほどに?」
「ええ」
事実だ。スィークは2人居たドラゴンスレイヤーの片割れには勝てないと判断し退却した。
「もう片方は遊んであげたのですが、もう片方はその……あれは色んな意味で危ないので引かせていただきました」
「叔母上が逃げるとは信じられませんね」
「ええ」
若干遠くに目を向けスィークは過去を懐かしむ。
「まだあの頃のわたくしは乙女であったと言うことでしょう」
「……何の話ですか?」
「ちょっとした思い出話ですよ」
クスリと笑いスィークは控えているメイドに紅茶を淹れ直すように命じた。
王都・中央広場
「ヨコヅナ。ここはまず私にやらしておくれ」
トリスシアと名乗った女の声にシリラが恐怖を感じる中、1人の女性が前に出た。
伝説のヨコヅナであるキキリに憧れ彼女の得意としていた技を極めんがために精進し続けているオオゼキだ。
上背は足らないが恰幅の良い肉体は、神聖国の男性たちを虜にしている。
「勝てるのか?」
「任せなよ」
いつも強気に振る舞うオオゼキだが、その実力を知るシリラとしては一番手を任せるのに躊躇いはない。むしろ景気づけに行かせる方が良いとも思う。
「なら任せた。勝ちな」
告げてシリラは相手に場所を譲った。
いつものオオゼキなら突進から激しい突っ張りを繰り出すに違いない。あれを正面から食らえばシリラですらひとたまりもない。現に最近は危ない状況に何度も陥ってはいるが、上背の有利さから相手のマワシを掴んで距離を殺し最後は投げ技で勝っている。
「何だい? また弱そうなのが出て来たな?」
「弱い? この私がかいっ!」
相手の挑発にオオゼキが体を赤くして怒鳴り返す。
「私はこれでも神聖国に伝わる由緒あるスモウのオオゼキだよ! そんじょそこらの男よりも遥かに強いんだ! 覚えておきな!」
「はいはい。御託は良いからさっさと来な」
「言わせておけば」
憎々し気に相手を睨みつけ、オオゼキはトリスシアの前で片手を着いた。
「はっけよい……」
全身に力を漲らせる。
「のこった!」
激しく地面を蹴りつけオオゼキが立ち上がった。
必勝の形だ。相手は棒立ちしていて全く構えていない。
シリラを含め誰もがオオゼキの勝ちを確信した。
「ふんっ」
「あび!」
だが結末は違った。
トリスシアが振り下ろした金棒が、オオゼキの頭部を粉砕し胴体の半ばまでめり込んでいた。
「……で、この馬鹿は何がしたかったんだ?」
死体となったオオゼキを足蹴りし、トリスシアは他の者たちに聞く。
何かあるのかと思ってずっと見ていたが無謀にもただの突進だったからとりあえず殺した。それがオーガの言い分だ。
「って反則だぁ~!」
余りのことで思考が追い付かなかったシリラは一番単純な言葉を叫んでいた。
~あとがき~
神聖国が外の国を攻めずにいたのには理由がありますが…その方針が転換されたのにも理由があります。きっと本編で主人公が正しく仕事をすれば明かされるでしょう。
間違ったルートを驀進したら作者がマジで涙目ですw
大国故の問題と言いますか、ずっと内々で最強を決めていた彼らは知らず知らずに弱くなっていきました。
結果として殺し合いに関しての経験値の違いからユニバンスの方が遥かに強いです。神聖国がユニバンスを本気で落としたいのであれば物量戦で数に物を言わせて…が正しい選択肢なわけです。
オーガさんにスモウで挑むって…こうなるよね?
© 2022 甲斐八雲
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