これじゃあ不意打ちじゃないの?

 神聖国・大荒野



刑事デカ長。ホシの証言によると『最近ノイエと仲良くしすぎなのよ。こっちは触れることもできないのに本当に腹立たしい』とのこと。それが発端で妹に命じて色々と悪さをしていたようです」

「なるほど~。で、何故に刑事デカ長?」


 黒い手帳を見つめた悪魔に対し普通にツッコミを返す。

 僕は刑事じゃないし……というか良く背後霊のユーリカから証言を取ったな?


「何となく……ニュアンスで?」

「お前の妄想かっ!」


 足元の石を蹴ったら悪魔が尻尾を巻いて逃げていく。

 向かう先はペガサスの遺体と一緒に地面に叩きつけられた人たちの元だ。


 ポーラとアテナさんが見て回った結果、死人は1人も居ない。

 ただ骨折者多数で10人ぐらいが地面の上で横たわっている。


「アルグ様~」

「ん?」


 呼ばれて視線を向けたら、ノイエがペガサスだったモノを丸焼きにしていた。

 何かのゲームのようにお尻から首へと胴体を貫くように槍を刺して焚火の上で焼いている。上手に焼けると良いね。で、その槍って姐さんの槍じゃない? 違うよね? 大丈夫だよね?


 色々とあり過ぎたが僕もようやく地面に転がっている人たちの元へと向かった。


「で、この中で一番偉い人はだ~れだ」

「「……」」


 返事が無い。言う気が無いらしい。なら仕方がない。


「ポーラ」

「はい」


 シュタっとウチの出来る妹様だと思われる存在が僕の横に姿を現す。どっちだ?


「ユニバンス名物ノイエさんの高い高いの刑に処すか、ユニバンス名物ポーラさんの次世代殺しの刑に処すか……どっちが良いと思う?」

「はい。兄さま質問です」


 感じからして悪魔の方でした。


「どうぞ妹よ」

「姉さまの高い高いは受け止めありですか?」

「なしでしょう」

「ですと……」


 わざとらしくポーラの姿をした悪魔が横たわる兵たちを悲し気に見つめる。


「先ほどの倍以上の高さから落とされるんですね?」

「うん」

「うっわ~。間違いなく死んじゃうかな?」


 ニコニコと恐ろしいことを言いながら笑う女の子って意外と恐怖だよね。

 実際地面に横たわっている人たちもビクビクと全身を痙攣させている。


「それだと兄さま。きっと全員が私の次世代殺しを選んじゃうと思います」

「まああれは高い所から落とされたりしないしね」

「ですよね?」


 ニコニコと笑い悪魔が彼らを見た。


「で、どっちが宜しいでしょうか?」


 この会話で選択肢って存在するのかな?




『もう無理だ~。殺せ~。殺してくれ~』


 むさい男共のそんな悲鳴が木霊する。

 案の定全員が『そんな少女の拷問など』と意気込んでポーラの処罰を望んだ。


 おかしいな? この拷問は死にはしないんだよ?


 ただ確実に違ったモノが死ぬけどね。


「僕思うんだ。氷ってアイスを作る時とかに塩を掛けて更に冷やす方法とかあるでしょ? でも雪の時期に地面に塩の粒を撒いて融かすじゃん。おかしくない? 何故更に凍らない?」

「私腐女子だから化学はちょっと~」

「そっか~」


 腐っていたのなら仕方ないよね。

 うんうんと僕が頷いている隙に、ポーラがまた1人捕虜の股間に氷のオムツを装着させた。


 氷だ。氷です。冷たくて冷え冷えの氷オムツを今日みたいに暑い日に股間に直で履かせてあげるこの優しさ。これにより股間で冷やされた血液が全身を巡って体の熱を冷まします。本当です。映画の撮影とかで甲冑を着た俳優さんが『ここを冷やすのが一番なんだよ』とか語っていました。


 ただ当たり前ですが大変デリケートな部分なので冷やし過ぎには要注意です。袋の中身が冷えすぎて製造機能を失い死んでしまいます。

 そうしたら次世代が作れなくなってしまうのです。恐ろしいですね~。


「ポーラ~。こっちの人にもオムツを」

「は~い。兄さま」


 ルンルン気分で氷を加工する悪魔は本当に腐女子だったのだろう。嬉々としている。

 落ち着いてみると実に恐ろしい拷問だ。誰がこんな酷いことを考えついても実行するのだろうか? あっ僕か。テヘペロ。


「こっちにもオムツを」

「は~い」




「……ゲートには主力部隊を送った。もう今頃はお前の祖国は火の海だろう」


 しばらくして隊長さんらしい人が話し合いに応じた。

 霜焼けだらけの股間を真っ赤にして隊長らしい人は涙ながらにそんなことを語っている。


 どうして泣くのだ? 大丈夫。まだ君の息子は……若干再起不能かな? 何か変色してるね。はい? 実は新婚なの彼? 大丈夫。息子が死んでも他の技術で奥さんを喜ばせれば良いんだよ。それか『野菜は友達』って名言を刻印の魔女が残したとか残していないとか。残ってない? 何故断言するのだ我が妹よ!


「我が国の主力は本当に強い。長年鍛え上げて来た技術を伝承し育て上げた……はふんっ」


 悪魔よ。悪戯するなら隣の副隊長さんにしてあげて。

 だからその手にした鉄ヤスリと石は何だ? 岩塩? 君は鬼ですか?


「我々の勝利は間違いないのだ~!」


 岩塩を股間にまぶされた隊長さんが絶叫染みた声を上げて気絶した。

 上半身は勇ましいが下半身は見ないであげよう。


「しまった妹よ。質問をする前に気絶したぞ?」

「大変ですね兄さま」


 僕らは副隊長さんに視線を向ける。


「次は君にき~めた」


 彼は死刑宣告を受けたような絶望的な表情を浮かべた。




 ユニバンス王国・王都郊外ゲート区



「ほう」

「これは」


 部下たちを連れてゲートを出た姉妹の魔法使いサーネとスーネは足を止め軽く驚いた。


 自分たちよりも前に送ったシリラたちは居ない。血気盛んなヨコヅナたちは、向こうに見える王都へ向かい進軍でもしたのだろう。それは間違いではない。下手に籠城されるよりも一気に攻め落としてしまった方が楽だ。


「お姉さま」

「何かしらスーネ」


 そのグラマラスな体を少ない布で隠す魔法使いは、妹へと視線を向ける。


「人が居ませんが?」

「そうね」


 妹が指摘する通りにゲートの前に人が居ない。

 普通ゲートを管理守護する者たちが居るはずなのにそれすら居ないのだ。


 簡単に言えば建設中の街の中に放り出された感じとも言える。


「シリラたちを見て逃げ出したのかしら?」

「どうでしょうお姉さま?」

「それとも」


 サーネは言葉を止めて視線を巡らせた。

 彼女の動きに妹が、そして優秀な部下たちが素早く展開し陣形を整える。


 姿を現したのは1人の女性だ。

 短く切りそろえた金色の髪と碧い瞳を眼鏡で隠す人物。


 ただその姿を見たサーネたちは軽く息を飲んだ。

 伝え聞く姿をしていたからだ。


「お初にお目にかかります」


 立ち止まった黒衣の人物が軽く首を垂れる。

 何処か堂々として隙のない所作だ。


 今にも攻撃しそうな部下たちを制し、サーネは一歩前に出た。


「初めまして。1つ聞いても良いかしら?」

「はい。お客様を出迎えるのが私“たち”の役目ですから」

「たち?」


 不思議なことを言う。相手は1人だ。

 けれどサーネは自分の好奇心を満たすことを優先する。


 昔からこうなのだ。気になったことは理解できないと許せない。

 だから聞いて調べて……今は現役を退いた師に言わせれば『お前たち2人ならいずれ魔女の称号を得ることもあるだろうよ。精進しな』とのことだ。


 故にサーネは自分の欲を満たす。


「その衣装……私の国だと有名な殺人鬼が身に纏っていた物なのだけれども?」

「はい。これですか」


 ニコリと微笑んだ人物……黒衣の人物がそっと自分の胸に手を置いた。


「同じ物かと思います」

「つまり貴女は『漆黒の殺人鬼』の一族? それとも弟子?」

「そうですね……しいて言えば弟子でしょうか?」

「そう」


 胸の奥から湧き上がる感情にサーネは自然と笑っていた。


 目の前に居る相手が、あの都に伝わりし伝説の殺人鬼の系譜だと言うのだ。

 それを倒せば自分の名声はまた高まる。


 ヨコヅナをしているシリラとは違い魔法が使えるだけの女として狂暴女よりも格下に見られている自分が、正しい評価を得るための足掛かりになりえる存在なのだ。

 絶対に倒す必要がある。出来ればその首を……衣装ごと死体を持ち帰ることが重要だ。


「本来なら直ぐにでも大規模魔法を使いあの城を落とそうかとも思いましたが気が変わりました」


 サーネは数歩足を進めて前に出る。それに妹のスーネが追随する。


 彼女らは2人で1人とも言われる魔法使いだ。

 姉のサーネは風魔法の使い手であり、妹のスーネは土魔法の使い手だ。


 2人が協力して放つ大魔法の威力は凄まじく、2人での攻撃だからドラゴンスレイヤーとは認められないが小型ドラゴンを倒すことすらできるのだ。


「貴女の首とその胴体を引きずってでも持ち帰る必要が生じたわ……だから悪いわね」


 美貌なサーネは艶めかしく黒衣の人物に対して笑う。


「死んで頂戴」


 ゴスッ


 サーネが魔法を放つよりも先にその音が響いた。


『どこから?』と疑問に思い視線を巡らせれば、自分と色違いの衣装を身に纏った妹の額に長い棒が生えていた。厳密に言えば後頭部にも生えていたのだ。違う。棒が妹の頭部を貫通して、


 ブスブスブスブスブスッ


 連続して飛来した物により妹の体が踊り狂って地面へと倒れた。


「何が?」


 茫然自失の状態でサーネはその声を発した。

 けれど答えを知っているのであろう人物は額を押さえて……ため息を吐いていた。


「全くルッテは……合図をしたらと言ったはずなのに、もう」


 フライング気味で矢を放ったかつての後輩に、フレアはまたため息を吐いた。


「これじゃあ不意打ちじゃないの?」




~あとがき~


 主人公が留守なユニバンスにシリアスさんが舞い降りた!

 シリアスさんは主人公が居ないと仕事をするのです。だから頑張る予定が…ルッテの阿呆のおかげでいきなり蹴躓いています。それがこの物語ですw



 デジャヴを感じていますが、近況ノートの方で報告した通り著作が小説家になろうで行われている『第3回HJ小説大賞前期』の二次選考を通過しました。

 何が起きているの自分? そろそろ寿命尽きますか?

 また残り30本に引っかかっております。出来れば釣り上げて欲しい物です。


 ただ作者さんが今できることは続きを書くことなので…さあ書こう!




© 2022 甲斐八雲

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