一人っ子政策?
神聖国・アブラミ領主屋敷
「アルグスタ殿の奥方は本当に良くお食べになられるのですね」
ハーレムのオッサンがマジ引いている。
昨日から領主屋敷にお世話になることとなった僕ら……と言うかノイエが今朝も元気にバクバクと食べまくっている。何故か給仕役を買って出たポーラが元気なのは、メイドの役割が出来るから喜んでいるだけだ。ワンピースにエプロン姿でもこの子的には良いらしい。
「ウチのお嫁さんは美味しいお肉なら底なしなので」
「……」
若干棘のある言葉にハーレムのオッサンが眉をしかめた。
「知っていましたか」
「ウチのお嫁さんは美味しいお肉だけを口にしますので」
「……」
深いため息を吐いてオッサンがタオルぐらいの布で顔を拭った。
「あれを止めさせようとした者は中央から追放されるのです」
「つまり?」
「私もその口ですよ」
オッサンが苦渋の表情で言葉を続ける。
「アルグスタ殿。ユニバンスの人口は?」
突然何よ?
「近隣国との戦争とかがありましたので、現状としては回復傾向って言葉が一番かな? 産めよ育てろを推奨しています」
大戦後の人口回復にはそれしかない。何より男性の数が減ったユニバンスは資金力のある者は複数の伴侶を率先して娶ることを推奨はしていないが良しとしている。
だから僕がノイエだけを愛すると言う宣言はその流れに逆行した物とも言える。
逆行したはずなんだけど……たぶん僕ほど“姉たち”に殺されそうになっている人物は居ないはずだ。そうじゃなくてもノイエの相手をするだけで干乾びる。
「我が国も昔はそうでした」
建国してからずっと貧しかった神聖国は、それでも周りの集落を併呑しては農地改革を断行し続け、今では大陸西部の大国にまでのし上がった。ただそこで問題が発生した。人口増加が国の重しとなったのだ。
就職先が見つからず、徒党を組んで賊となる者まで現れる。
するとその賊を全て捕らえ奴隷とし過酷な労働に就かせた。
「そうすると国は人口調整を始めました」
「……一人っ子政策?」
「言い得て妙ですね」
何処かで聞きかじった知識を披露するとオッサンは否定しない。
神聖国は納税額に対して子供を持つ人数が決まるとか。それもどっかで聞いたな。
だが当たり前だが1人で終わらない家族も出て来る。そう言った家族は子供を育てある程度の年齢に達すると判断する。
そのまま育てるか、それとも捨てるかをだ。
「捨てられた子供は国が引き取ります」
「その実態は?」
「奴隷です」
子供の身でこき使われる。危険な仕事など男女問わずに送り込まれる。
「それだと奴隷の数が増えて?」
「はい。だから調整するのです。数年おきに」
「うわ~」
謎が解けたら食欲がなくなった。
朝食の後で良かった。ポーラさん。紅茶をお願いしても? もう準備中? 流石です。
「国としてはそれは間違っています。ですから正そうとしたのですが」
「国民全てを救えば国が破綻すると?」
「はい」
だからこの国は国民を調整する。
「普通の国なら最悪戦争して人口調整するところだけどね」
「はい。ですが我が国は本来他国との戦いを禁じています」
「ウチの国を攻める気満々らしいですが?」
「それを含めて現在の中央はおかしいのでしょう」
ハウレムさんは神聖国の中央を離れて15年ほどらしい。
15年も経てば狂い出していた何かがおかしくなるのは良くあることだ。ウチなんてちょっと目を離した隙に闇落ちした部下とか居るぐらいだしな。
ところで今朝ノイエに飛ばして貰った手紙は無事に王都に届いたのだろうか?
フレアさんに無茶な仕事を頼んだけど、子育てのストレス発散だと思って貰えれば良いな。
「それを含めてハーレムさんはどう動くべきか悩んでいるわけですね」
「はい」
と、話が昨日の会話へと戻る。
何故か女王陛下のことを思い出してしまったオッサンが中央と窓口の板挟み的な愚痴を延々と聞かされたのが昨日だ。
普段なら耳を塞いで逃げるのだが、何故かノイエとポーラが真面目に聞き出した。
理由を問えば『何となく』のノイエと『勉強になります』のポーラだ。
諦めて僕もその話を聞きながらノイエに送ってもらう手紙を書いて……その後は超豪華なお風呂を堪能した。その広さに引いてしまうほどこの屋敷のお風呂は凄かった。するとノイエがお風呂から離れない。ポーラも『勉強です』と言い出して隅々まで確認を始める。
おかげで僕はそれに付き合い……最後は夕飯を食べたらそのまま借り受けた部屋でグッスリだ。
あのノイエですらグッスリと眠るほどお風呂を堪能したのだ。
うん。気づけば何も話してないな。
「結局僕は中央に行けば殺される前提ですか?」
「……その確率は高いでしょう」
包み隠さんオッサンだな。もう少しオブラートに包もうよ。
「はっきり言って現状の中央は戦争がしたいのです」
「それは……だったら近隣の国でしてよ」
遠い小国に手を出すな。
「はい。ですが近隣の国だと我が国が勝ちます。そうすれば」
オッサンの説明だとそれは最悪の手段らしい。
国土と奴隷が増えるが、神聖国が欲しいのは国土だ。
つまり上層部はゲートで移動できるユニバンスを支配し、国民を移動させて他国を侵略していきたいのだ。
どこかで聞いたような話だな。
ここは中東スタイルなのに国政はあの国にしか思えない。
「ただそこまで強行することは無かったのですが」
「何かがおかしいと?」
「はい」
言われればそうだ。その方法で良いなら目標をユニバンスにする必要が無い。
「丁度良い口実が目の前にやって来たから?」
「それか遠い小国だからと侮っているかですね」
攻め込んでも小国のユニバンスから仕返しは……まあ普通想定しない。泣き寝入りが良い所だ。何より我が国の戦闘力を神聖国は知らない。ウチの国は何処かの野菜星人並みに厄介な人たちが多い。少数精鋭の見本のような人たちがいる。僕の傍でご飯を食べている。
「それかユニバンスに恨みが……あっ」
思い当たる節がある。まさかそんな過去が尾を引くなんてことは無いはずだ。
「ハウレムさん」
「何でしょうか?」
確認するべきだ。相手は国の中央に居た人物だ。知っているだろう。
「噂で聞いたのですが、何でも神聖国の中央ではメイド服の着用が禁じられているとか」
「誰がそんな馬鹿な話を」
オッサンが『なんて馬鹿な話を』と言いたげな笑みを浮かべた。そしてポーラが『だったら着替えても良いですよね!』と言いたげな表情を向けて来る。
「国指定のメイド服でしたら問題ありません」
分かってたよ。その手の落ちなど。
「……指定されていない服だと?」
「指定されていない服ですか?」
オッサンが首を傾げる。
僕は何となく視線を妹に向けると、彼女は紙とペンを取り出し片目を閉じた。
スラスラと紙の上にペン先が踊り一枚の絵を記した。ユニバンスではメイドさんが着用しているごく普通のメイド服だ。
「これは……」
受け取った紙を手にしたオッサンが目を剥く。
「これは呪われし悪魔の服!」
「……」
ポーラの目から光が消えた。
「これはダメです。中央でこの服は殺人鬼の服と呼ばれ、自殺志願者が身にまとう服なのです。この服を着ている者は何をされても保護されません。故に呪われた服なのです」
はっきりと彼はそう言い切った。そしてポーラの目が死んだ。
「……どうしてその服がそんな風に?」
「説明すれば長いのですが……この服を纏った殺人鬼が先代の女王陛下の首を狙ったのです」
「先代?」
言われてみると僕は女王陛下のことを全く知らない。
情報提供してくれたどこかのご婦人もそのことを手紙には書いてなかった。
「ハーレムさん」
「ハウレムです」
気にするな。
「女王陛下ってどんな人なのですか?」
僕の問いに彼の表情が無になった。
~あとがき~
ハーレムのオッサンとのトークばかりですね。
まあどうしても新しい場所に来ると説明回が増えてしまいます。
もう何回か続くと思いますが、基礎知識を得たら後は暴走です。
ユニバンスのメイド服は殺人鬼の服だそうなw
© 2022 甲斐八雲
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