ただの汗だから!

 大陸西部・サツキ村



「人生の先輩……はアーネス君の方だが、伴侶を持つ先輩として君に重要なことを伝えよう」

「はい」


 地面の上で正座している彼は色々とボロボロだ。

 服とか何とかそれはもうボロボロだ。理由は簡単。

 あっちで着物の裾を頭上で縛られ巾着袋状態になっている婚約者に襲われていたからだ。


 ポーラさん? もう少しその巾着の中に氷を詰めても良いと思いますよ? 寒さで漏らしそうだと訴えている?

 野外で下着を晒している状態だから掃除は楽だ。

 容赦はするな。そいつの煩悩が消え失せるまで躾の手を止めてはならん。


「でだ。アーネス君」

「はい」

「決してお嫁さんの飼い犬になるな!」


 何かを振り払うように絶叫した。

 グサグサと投げたブーメランが帰って来て突き刺さる感触がある。だが負けん。僕は負けんぞ!


「お嫁さんに手綱を握られちゃダメだ!」


 うおっ……ヘビー級のチャンピオンの凄いボディーブローを腹に食らった感じがしたのは何故だ? そしてポーラの姿をした悪魔がこっちを見ながら『まだ戦えるか?』とアイコンタクトで問うてくる。


 舐めるなよ。このアルグスタさんがこれぐらいで屈すると思ってか!


「絶対に夜を支配されるな! ベッドの上で飼い犬になるな! ユニバンスの男子であるのなら相手を常に組み伏せる根性を見せろ! 見せてみろよ!」

「アルグスタ様? どうして泣いているんですか?」


 これは涙じゃない。汗だ。ただの汗だから!


「隙を見せるとお嫁さんって生き物は野獣と化して襲ってくるんだ! 最初は可愛いことを言ったり甘えてきたりしてこっちを持ち上げ隙を伺っているんだ! 気づけば研ぎ澄ました牙で確実にとどめを刺してくる。ガブっとだ! そうすると今度は瀕死のこっちを弄ぶように……弄ぶように!」

「落ち着いてくださいアルグスタ様!」


 落ち着いているとも! 今の僕はドレーク海峡ぐらい穏やかだから!


「どれーく?」

「お兄様。それはとある世界で最も荒れると言われる有名な海峡です」


 首を傾げるアーネス君をスルーして悪魔が務めて穏やかな声を発して来た。


 静かなツッコミなど要らん! 言い間違っただけだ!


「良いかアーネス君。あの変態は気を抜けば君が気絶しても腰を振り続ける変態だ! 最後は元気がないとか言い出して“ピー”に“ピー”を突っ込んで無理矢理頑張らせるんだ! それで良いのか!」

「お兄様。未成年がここに居るんですが?」


 そんな正論など知らん!


「ここで目を覚ますんだアーネス君! そうしないとあそこで氷責めにあっているのに激しく身悶えして興奮している変態に取って食われてしまうんだぞ! 良いのか!」

「えっと……」


 ボソボソと呟いた声が変態の喘ぎ声でかき消されてしまった。

 ちょっと妹さん。あの馬鹿娘を黙らせて……足元に穴を掘って落とすとか鬼だね~。ついでに氷を追加しておいて。よろしこ!


「それでアーネス君! 君の本心は!」

「……決して嫌いじゃないので……」


 思わず遠くに視線を向けてしまった。

 離れた場所でノイエが何故かクルクルと踊っていた。あれって本当にノイエか? 実はレニーラとかって罠は無いよな? そっか。レニーラは髪の色を変えられないからその罠は無いな。

 ノイエが自分から踊るなんて珍しい。


「うわ~引くわ~」

「ちょっ! アルグスタ様!」


 十分すぎるほどの間を取ってから僕の口から本音が溢れていた。




「アーネス君のおかげでこの簡易転移陣は成功なんだけど……」


 燃えカスとなってしまった魔法陣だったモノを見る。

 便宜上で“魔法陣”と称しているが厳密に言うと“簡易型紐状術式陣”だ。

 悪魔が持って来ていた実験的なアイテムだ。


 これは糸状にしたプラチナを網にして術式を刻み、クルっと丸めて紐状にした物らしい。

 手間が物凄くかかる上に設置する人に術式の知識がないと正確に発動しないと言う弱点もある。


 今回は魔法学院で『便利屋』として有名なアーネス君が居たから使用した。

 彼はとても優秀な魔法使いである。ただ全体的にコンパクトにまとまり過ぎているので……人はそれを器用貧乏とか言うそうだ。もっと能力が全体的に高ければアイルローゼのような輝かしい未来が待っていたのかもしれないが、彼は満遍なく普通の人より少しだけ優れている感じだ。

 まあもっと優れていたらあの日に発狂していたかもしれないが。


「制限が多すぎて使えなくない?」


 残骸を回収したポーラがパンパンと手を叩いている。


「しっぱいはせいこうのははだといってます」

「そうっすか~」


 何故かアーネス君が頷いている。

 ところで君はお嫁さんの救出をしなくても良いんですか? ウチの妹様は命じられた任務は完遂する女なので……ほら御覧。あそこの冷気が溢れて来る地面の一角を。


 慌てたアーネス君が駆け寄って氷を掘り返す。


「愛だね~」

「ですね」


 必死に妻を救い出そうとする夫の姿に胸が打たれたよ。

 ちなみにあの変態は防御系の祝福持ちだ。最悪その力を使えば窒息する心配もないし、氷の冷気も塞げる。だから心配は……はい? 祝福使ってない? 馬鹿なの?


 僕も駆け寄ると確かに祝福を使っていない感じだ。

 アーネス君が掘った氷の底に結ばれた着物の裾が見える。大丈夫か?


「はぁはぁ……全身が冷たいのに体の奥底が物凄く熱いの~! もっと! もっと私に強い刺激を! もっと私を興奮させて~! もう下半身が、」

「ポーラ追い打ち」


 ガラガラと氷の山を追加してあげた。

 アーネス君が両頬に手を当てて驚いているけれど諦めろ。これはあれだ。世の為人のためだ。


 変態を無事に退治し僕とポーラはノイエの元へと向かう。

 何故かノイエはまだクルクルと踊っていた。


「ノイエ?」

「はい」


 ピタッと動きを止めてノイエがこっちを見た。


「何で踊っているの?」

「……踊れないと今度踊りのお姉ちゃんが来た時に怒られる」

「呼ばなくて良いから」

「むう」


 何故か拗ねた。


「出来れば黄色いフワフワさんにしなさい」

「……あのお姉ちゃんはダメ。一回で終わるから」

「それの何が不満?」

「複数回一緒にアルグ様を、もがっ」


 ふ~。危ない。ウチのお嫁さんが何か恐ろしいことを言おうとしていたよ。


「良し落ち着けノイエ。落ち着いたか? 落ち着いたら一回頷くように」


コクンとノイエが頷いたから彼女の口から手を退ける。


「分かった。踊りのお姉ちゃんじゃなくて青い人を、もがっ」


 パワーアップを計るな。僕の身を心配しなさい。


「ホリーもダメです。分かった?」


 もう一度手を放す。


「ならファ、もがっ」


 ファシーもノイエなら一緒に襲い掛かって来るんだよな。

 って僕の傍には痴女しか居ないのか?


「猫もダメです。分かりましたか?」


 コクンとノイエが頷いたからまた手を放す。


「なら歌の、もがっ」


 一回落ち着こうか?


 ノイエの姉たちでノイエと一緒に複数プレイをしていない人物は……あれ? エウリンカぐらいか? ファナッテもか? 古参組と言うかアイルローゼもしたな。うんした。ノイエに襲わせて恥じらう先生をつぶらに観察した記憶がはっきりと。


「エウリンカかファナッテを」

「その2人は死んでるよ~」


 悪魔が僕にとどめを刺して去って行く。と、足を止めて何故かポンポンと自分のお尻を叩いた。


「お兄様の節操無しが招いたことだと妹は思うのです」


 正論をありがとうよ!




 それから変態を回収し……その変態は確りと縛っておいて。

 野放しにすると発情してアーネス君に襲い掛かるから。


 確かポーラさん。カミーラの槍を持っていたよね? そうそれ。

 それに縛り付けてノイエが肩に抱えて……獲物を持ち帰る狩人のようだな。まあ良いか。


 そのまま全員で村へと戻る。


 ただ何故か村人たちが中心の広場に集まっていて……僕らがそろそろ神聖国に向かうからお別れ会の準備ですか。今夜は鹿の丸焼きと。だったらこれも一緒に焼いてもらえますか?

 そこで狩った変態です。焼けばよく燃えると思うんですけど……ダメ?




~あとがき~


 脊髄反射に任せて書いたら大体こうなるって見本ですw

 つかこの主人公…お嫁さんとその姉との複数人プレイとかしまくりなんですよね。

 もげれば良いのにw

 してないのはたぶんエウリンカとファナッテか? それ以外は…やはりもげろw




© 2022 甲斐八雲

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