胸の大きなオバサンは垂れて醜くなるって

 大陸西部・サツキ村



「これは……何処から?」

「ウチのメイドは優秀ですので」


 サツキ村の村長であるジュウベイさんが驚いている。

 仕事で遅れて来た彼は知らない。この山積みにされた食料やワインの樽などを誰が運んで来たのかなんて……普通に考えて恐怖を感じるレベルの物量だけどね。


 牛の丸焼きを作っているウチのメイドさんは確かに優秀ではあるが、その上を行くノイエのあの雄姿を見よ。彼女の前に鎮座していた豚の丸焼き3頭分は何処に消えた? さっき見た時は焼かれた豚を可哀想な瞳で見ていたよね? 違うの? 美味しそう? 色々と納得しました。


 フラフラと焼かれている牛に歩み寄って行くノイエをポーラが銀色の棒を取り出して追い払う。


 ちょっと待て妹よ。それは姉に対しての……生焼けの肉は食べさせられない。メイドとして主人には美味しい物を食べて欲しいと……ごめんノイエ。ポーラの方が正論だ。


 そんな悲しそうな瞳で僕を見るな。ただもう少し待てば美味しいお肉が食べられるのだ。どうだ? 食べたいだろう?

 理解してくれて僕は嬉しいよ。あっちでお好み焼きっぽいモノを作っているから食べに行くと良い。きっと美味しいぞ。美味しくなかったら作っているモミジさんを鉄板の上に乗せて調理してやれ。

 大丈夫。あの変態にだって調理ができるんだ。ノイエが本気になればあの変態ぐらい調理できる。


 力説したらノイエがフラフラとモミジさんの元へ向かった。


「アルグスタ殿!」

「はひ?」


 振り返ると茹ったタコのような顔をした村長さんが。


「ウチの娘は、がっ!」


 人生で初めて見たかもしれない。

 後ろから蹴り上げられた爪先が狂うことなく股間へと突き刺さる様子を。


 股間を押さえ内股になって崩れ落ちたジュウベイさんを、村の若い衆がやって来て抱えていく。

 彼を再起不能にしたかもしれない人物は、口元を扇子で隠し『おほほ』と笑っている。


「ウチの馬鹿な村長が失礼を」

「え~あ~うん」


 答えに困る。本気で困る。


 ただ妖艶の見本のような女性……モミジさんたちの母親であるアゲハさんが胸元をチラチラさせながら僕に近づいてきた。


「あの馬鹿村長は娘たちを溺愛していましてね。悪く言う言葉を許せないんです」

「へ~」


 近い近い。そんな熟れた色気を撒き散らすな。

 僕は熟れてない色気をいっぱい知っているから魅了されないけどね。


「ですがこの私がアルグスタ様への暴挙など決して許しません。ええ許しません」

「……村長は?」

「はい。簀巻きにして枯れ井戸に放り込んでおくように命じました」


 それって大丈夫なの? はい? あの村長の生命力は家庭内害虫並みですか? 3日もすれば自力で井戸から這い出して来ると……それって経験論? あっ経験論なんだ。へ~。


 とりあえず場所を移動して酒宴の卓に腰を落ち着かせる。


 今夜は一応モミジさんの結婚祝いだ。

 彼女たちが村に帰った時にささやかなお祝いをしたそうだが、何故ささやかなのかと問いたい。

お祝いとは全力で豪華にするべきである。金がない? 食料が無い? そんな言い訳など村長を放り込んだ枯れ井戸にでも投げ捨てておけ!


 という訳で帰国ついでに王都の食料品市場を荒らし買えるだけ食料を買いこんで来た。

 輸送方法はノイエの異世界召喚魔法だ。『1日程度なら生モノの劣化を防げるか?』と挑戦するはずが、『ふっ……兄ちゃん。私に任せな』などとポーズまで決めて悪魔が新作魔法を披露してくれた。ノイエの異世界魔法内で放置しても劣化しない空間操作系の魔法だ。


 本当に何でもありな悪魔だ。一応説明を聞くとシュシュの封印魔法を基本とした物らしい。

『天才的な見本が居ると楽よね~』とか言ってたが、見本があってもそれを応用できることが凄いとは思う。何か口に出して言うと負けた気がするから言わないけどさ。


 そんな訳で僕らは大量の食糧を抱えてサツキ村に来た。

 持って来た半分を提供してお祝い会を開催している。


 うんうん。やはりお祝いとは全員が飲んで歌ってすることが正義だ。

 あっちだと村の女性たちに服を脱がされているアーネス君が居るが……これこれ彼は年齢を詐称などしていないから。大人だから。全員でマジマジと彼の息子を確認しないの。


 全くこの村は少し油断すると直ぐに変態が……モミジさん? どうして下着姿で鉄板の上で踊っているの? していることが本物の白雪姫のラストだよ? はい? 野菜が多いからってノイエに怒られてこうなった?


 ノイエさんノイエさん。お好み焼きっぽいモノはキャベツが命だからね。野菜が正義なの。理解できない? 野菜の代わりにパスタを入れろ? それは広島風で……あ~もう面倒だ。ポーラさん。ノイエに一般的な広島風と関西風を。

 なに? 発言に気を付けろ? 何でよ悪魔? 一部関西の人は関西風と言われるとキレる? 大丈夫でしょ? 知ってるのは僕と君だけ……まさか?


 お好み焼き戦争をしてからポーラに一任した。


 まさかこんな所に関西人じゃないのに関西ラブなヤツが居るとは思わなかったぜ。


「あら終わりましたの?」

「どうもどうも」


 焼肉串とか色々と食べ物を回収しアゲハさんが待つ卓へと戻る。

 彼女はこれまた僕らが持ち込んだワインを樽で味わっていた。グラスを樽に突っ込んでワインを飲むとか豪快過ぎるでしょう? 前世は山賊か何かでした?


「うふふ。本当にアルグスタ様は面白い人ですね」

「そうかな~」

「ええ」


 トロンとした眼差しで彼女は飲めや騒げやをしている村人を見つめる。


「この村は昔から貧しくて……きっとこんなに豪勢な食事やお酒が振る舞われるお祝いなど初めてのことでしょう」

「ん~」


 そう言って貰えるとやっぱり嬉しい。


「本来なら私たちがこうなるようにしていかなければいけなかったのですが……モミジの奇行のおかげでこの村に幸運が訪れました」


 その奇行種はあっちで鉄板土下座をしているよ? ある意味見慣れているけど……ああ。祝福を自分の下に展開しているのね? 何てチートな。


「それにあの子は婚約者も」


 そう言われれば村のお姉さんたちに玩具にされていたアーネス君は? お姉さんと呼ぶには余りにもオールド過ぎる人たちに掴まって物陰へと連れ込まれているな。必死の抵抗が生々しいぞ?


 大丈夫。軽い冗談だって。『若い男じゃ~』とか『美味そうじゃの~』とか聞こえて来るけど気のせいだ。こうして見ているとゾンビに攫われて行く登場人物のようだな。


 僕は主人公じゃないから助けに行かないよ? ほら僕って場を和ませるタイプのキャラだから。で、子供とか子犬とか救おうとして死んじゃうんだぜ……死にキャラかよ! せめて最終回で死なせて!


 ワイングラスを空にするとアゲハさんが新しい物に替えてくれる。


 このお肉とか少し辛くない? ワインを飲むペースが……あれ? 何かクラクラして来た。


「あらアルグスタ様。酔ってしまわれましたか?」


 グラッと大きく揺れたと思ったら上半身を抱きとめられた。

 うん。胸が大きい。それに何とも言えない甘い匂いが……


「あらあら。なら少しあちらでお休みに。大丈夫です。私が運んで、」


 グンッと引っ張られたと思ったら頬に柔らかな感触が。これはノイエの胸に違いない。


「何をしているの?」


 視線を上げたら……今の言葉をノイエにそのまま送り返したくなった。

 君こそ何をしている? 何故アホ毛が牛の後ろ足っぽい部分を掴んでいるのかを問いたい。


「うふふ。ただの看病ですよ」

「……違う」


 はっきりとノイエがそう告げると僕のことをギュッと抱きしめる。


「オバサンからはあっちの変な子と同じ臭いがする」

「……オバサン? 誰がですか?」


 はて? 子供が聞いたらちょっと泣き出しそうな怖い声が聞こえるよ?


「目の前のオバサン」

「あん?」


 ノイエさんノイエさん。焚きつけない。今日はほら無礼講だからね?


「カミューが言ってた」


 唐突にどうした?


「胸の大きなオバサンは垂れて醜くなるって」

「殺すぞ小娘~!」


 大絶叫からリアルファイトがスタートした。

 僕はフラッとやって来たポーラに回収された。


「にいさま」

「はひ?」


 なんか体が痺れて上手く立てない。


「ゆだんしすぎです」


 何故かポーラに怒られた。


「オバサンオバサンオバサン……」

「黙れ小娘~! 若い男の生気を吸えば私はいつまでも若々しく~!」


 手裏剣などを駆使してアゲハさんが一方的にノイエを追い詰めていくが、その都度ノイエはアホ毛で確保している肉を齧って回復する。

 アゲハさんって忍者……くノ一さんなのか~。


 戦いはとても高度な様相を見せ続けるが、


「オバサンオバサンオバサン……」

「若いからって良い気になるな~!」


 聞こえる声はとてもレベルの低いモノばかりだった。




~あとがき~


 そう言えばカミューは普通乳の人だったな。普通って?


 そんな訳で宴会開催です。飲めや歌えの大騒ぎです。

 つかやはり変態村だな…変態が暗躍しまくっているw


 アゲハさんはくノ一です。変態くノ一です。ある意味で正統派のくノ一です。

 自分の体を武器にして…モミジさんの母親なのが良く分かったよw




© 2022 甲斐八雲

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