変化の魔剣よ
大陸西部・サツキ村
「ソ〇モンよ~!」
「私は帰って来た~!」
全力で叫んでから隣に居る悪魔と固い握手を交わす。
流石だ悪魔よ。君は良く分かっている。
これは決してパクリではない。お約束でありオマージュだ。
我々はいつまでも彼のことを忘れたりしないだろう。あの眉無しに見える彼のことを。
瞼を閉じた悪魔は妹に戻り……ポーラさん。そろそろその手を放しなさい。放すのです。何故踏み込んで来る? 頬ずりまでは許すが舐めようとしない。何を考えています? 落ち着きなさい。
発情した妹様の襟の後ろを掴んで猫持ちをする。
ハッと何かに気づいた様子で妹様が辺りを見渡した。
「にいさま?」
「目が覚めた?」
「はい」
ポーラを地面の上に下ろすと、妹様は大きく深呼吸をして乱れた衣装を整える。
「われをわすれました」
「何故?」
「わかりません」
本気で首を傾げているポーラの様子から嘘では無さそうだ。
詳しく話を聞くとお腹の奥の方から熱い何かが駆け上って来て体が勝手に動いたと……その話は本当でしょうか? ポーラさん。こっちを見て。僕の目を見て。目を閉じずキスしようとしない。まだ発情していますか? 違う? キスしたいだけ?
またポーラを猫持ちしてゆっくりと振り返る。ノイエが全力で抱えて来た焼き肉を食べていた。
木桶に厚手の紙を敷いて運んで来た焼き肉バケツが……君が両手で運んでいた8つのバケツは何処に消えたの? 片手で4つずつ持ってたよね? それはどこに消えた? もう食べたの?
あっちに空バケツが積み重なっているね。うん。で、今食べているのはアホ毛が掴んで来たヤツだよね? 9つ目だよね? それが最後だって理解している? 理解しているから味わっていると……納得したよ。
骨付き肉を食べながらノイエもこっちに合流して来た。
今回は上手くいった感じだ。ユニバンスのゲートから直にサツキ村への移動に成功した。
ただこれには悪魔の協力がないと無理だ。本来なら大陸西部のゲートから出て、そこからまたサツキ村への転移をするしかない。
ショートカットが出来たのはノイエの魔力とアーネス君のおかげだ。
大陸一というノイエの魔力が無ければそもそも個人での転移は不可能だ。そして転移先の状況が悪ければ転移も出来ない。
今回はアーネス君に宿題として簡易転移陣を押し付けてから帰国した。
彼は無事に宿題を終えたので、僕らがこの場所に帰ってこれたわけだ。
「で、アーネス君は?」
焼け焦げて煙を上げている簡易転移陣を出て辺りを見渡す。
ここはカミーラが酒を飲んで居た高台だ。サツキ村が良く見える。でもアーネス君の姿が……クイクイとポーラが僕の腕を引っ張るので視線を巡らせたら、藪が激しく動いていた。とても激しい。
「……ポーラさん」
「はい」
声はしないが動きは激しい。
「あそこに氷の塊って投げられる?」
「むりです」
氷の塊を作ること自体は簡単らしい。問題はその塊を投げる腕力が無いらしい。
「ノイエ~」
「はい」
「ポーラが作った……この氷の塊をあそこで動いている藪に投げてくれる?」
「はい」
骨付き肉を食べているノイエは、軽く体を倒して前屈みすると……アホ毛で氷の塊を掴んだ。
ちょっとあのアホ毛って便利過ぎない? そろそろ本気でアホ毛としての性能を疑うぞ? アホ毛の性能って何だろう? そもそもあのアホ毛は魔剣なんだよな。
ノイエに一時停止をお願いし、手にしている悪魔を動かす。
「ポーラの中に巣くう悪魔よ! 滅せよ!」
「きゃー! 日焼けするー!」
猫持ちしているポーラを太陽の方角に向けると悪魔が苦しみだした。
『目が~』はやり過ぎだろう? お前は吸血鬼ではないはずだ。
「で、ノイエのアホ毛が最近狂っている気がするんだけど?」
「あん? 魔剣化が進み過ぎただけでしょう?」
「進み過ぎた?」
悪魔を地面に下ろすと、彼女はメイド服を正した。
「どっかの義腕はあれをモデルにして作ったのよ」
「ほほう」
「と言うか……もうあれって髪の毛じゃないわよね」
呆れた様子で悪魔が腰に手を当てた。
「ほぼ魔剣よ」
「前からでしょう?」
何を今更? 何故そんな残念な子を見るような目を向けて来る?
「前までは魔剣っぽいモノだったのよ。でも調整し直して魔剣化が進んだ。と言うか封印の魔剣が後から付け加えられた魔剣に飲み込まれて魔剣になったと言った方が正しいのかな? まあそんな感じ」
「へ~」
流石悪魔だ。長く生きていない。
「で、あれって何て魔剣なの?」
「ん? 見ての通りよ」
見て分からんから質問しているんだけど? 馬鹿なの? 何やる気? その喧嘩買ってやろうか? 掛かって来いや!
殴りかかって来た悪魔の頭に手を置いてつっかえ棒とする。
グルグルと腕を回して突進し続けた悪魔が……ピタッと動きを止めた。
「今日の所はこれで勘弁してあげるわ」
「よし〇とかっ!」
「ありがとうございますっ!」
呼び出したハリセンをお見舞いしておく。
「で、あれって何の魔剣?」
「……お兄様に傷物にされたわ」
「わざとらしく泣いた振りをするな」
「ちっ」
何故舌打ち? 白状するが良い。何故そんなに拒否る? 言いたくない? どうして? ネタバレは嫌い? 気持ちは分かるがもう良いだろう。つかもう答え合わせな時期だと思うぞ? 見て分かるんだろう? 僕には分からないけど。
「変化の魔剣よ」
「はい?」
脇に抱えた悪魔の頬を引っ張ろうとしたら白状した。
「だから変化の魔剣。持ち主の意に従って姿を変化する魔剣よ」
「へ~」
言われてみると納得だ。
「何故そんな魔剣が?」
「だから封印の魔剣を隠そうとした結果じゃないの? それはあの黒髪巨乳に聞いてくれる?」
エウリンカは……あれ? 何だろう? この浮気を指摘されたような感覚は?
「あ~。でもあの巨乳死んでるからダメか」
「そうなの?」
「うん。あっちのスライム乳も死んでる」
何故だ? 魔眼り中で……マニカか?
「違えわよ。殺したのは貧乳魔女」
「先生か」
ならば納得だ。
「犯行理由は巨乳に対する嫉妬か?」
「本人の前で言うんじゃないわよ。拗ねるから」
「言うけどね。でも先生の良さって胸じゃなくて足だから」
下半身の素晴らしさは特筆しがたい。
完璧だよアイルローゼ。是非一度ミニスカハイヒールを装備して、
「ちょっと」
脇に抱えていた悪魔が地面に落ちたが無事着地した。怪我はない。
それよりも僕の方が大ダメージだ。膝から崩れ落ちた。
「先生に……ミニスカートを穿かせるの忘れてた」
「あ~」
悪魔が納得してくれた。
「ついチャイナ風のあの衣装のスリットで満足していた。ミニスカって必要ですよね?」
「どうかしら?」
アホ毛で氷の塊を掴んだままのノイエを悪魔が呼び寄せる。
こちらの様子を眺めながら骨付き肉を食べていたノイエがトトトと歩いて来た。
「こんな感じよ?」
ノイエのワンピースのスカートを捲り上げ、悪魔がミニスカートにする。
それは上げ過ぎだ。普通に立ってて下着が見えるのはミニスカではない。ただの露出だ。
「もう少し下げて……この位置でしょう?」
「いつのバブル時代のスカートよ?」
あれ? ミニスカってこれくらいの丈じゃないの?
「これくらいよ」
「違うっしょ? その丈は認めない」
「はぁ? それはミニスカじゃないわよ」
「何を言う? これだから平成の次を知らない世代は」
「あん? ちょっと表出なさいよ!」
「上等だ!」
互いに上着を掴み合っていつでも殴り掛かれる状態になった。
「アルグ様」
「なに?」
「これは?」
僕らが聖戦を始める前にノイエが頭上の氷を骨の先で指し示す。
「あっちの藪にでも投げておいて」
「はい」
アホ毛がクイっと動いて氷をまだ動き続けている藪に放った。
「はぁ~! 今までで一番深いの~!」
藪から不穏な声が上がったので……聖戦を後回しにして悪魔と共に馬鹿共の躾を優先することとした。
~あとがき~
唐突にサツキ村に…村の手前で何しているのこの人たちは?
ノイエのアホ毛の正体は変化の魔剣です。
持ち主の意思に従い姿を変える魔剣です。まあ変化する範囲にも限界がありますが、鞭のように滑らかに動いたり伸びたりは出来ます。と言うか元々その気があったアホ毛ですけどね。
まだ調子が悪く、本調子には程遠いですがどうにか執筆は続けます。
流行に乗って熟練者と一緒にサウナに入ってたら体調を悪くしましたw
サウナ慣れしていない体にはハードメニュー過ぎたらしい…
© 2022 甲斐八雲
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