〇解!
ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室
「〇解!」
「〇解!」
「ばん……?」
綺麗にハモった僕とポーラの声にコロネが首を傾げる。
本当に残念少女だな……ウチの妹さんのこのノリの良さを見ろ! 中身がちょっと別な物ですけどね。
「何故できない! それでもお前は鎧大百足の持ち主かっ!」
「持ち主と言うか何と言うか……」
コロネの腕にするには大きすぎる義腕に触れる。
刻印の魔女を名乗る悪魔が作り出した義腕だ。国宝級とも言われている逸品らしいが、どこぞの悪魔が『何か一晩で出来ちゃったの』とお腹を膨らませて持って来たヤツだ。
全力でハリセンボンバーを食らわせたのは言うまでもない。
「お前にはその価値が分かっていない!」
「価値って……物凄く高いって」
「金額じゃない!」
「ふぇ?」
残念メイドが間の抜けた声を上げた。
「折角そんな面白性能を搭載してあるって言うに……ただ迎撃に使うなど言語道断である!」
「えっと……ごめんな、」
「素直に謝るな~!」
「ぇえ~!」
残念メイドが目を剥いて驚く。
「お前ってヤツは……ここで修行の成果を見せる時だろうが! 何もしていなかったのか!」
「し、してました……」
「なら何故しない! お前の修行はお遊戯かっ!」
「そんなことは……」
「だから成果を見せろと言っている~!」
僕の声に慌てたコロネが辺りを見渡す。
悪魔が宿っているポーラは僕の味方だうんうんと頷いている。
ソファーに座るノイエはこっちの様子を伺いながら、ケーキを食べている。
クレアは……呆れ果てた様子を漂わせ僕らの方を見ていない。『仕事してるから関わらないで』と言いたげな雰囲気が半端ない。
つまりコロネを救う人は……見覚えのないメイドさんが入り口の前に立つと軽く手を振って去って行った。フレンドリーな人だな。コロネの知り合いか?
「さあコロネよ! お前の実力を見せろ!」
「はいっ」
グッと左手を握りしめてコロネがパンと右腕の義腕を叩いた。
「起きろ! 鎧大百足!」
「そっちか~い!」
ワシャワシャとコロネの義腕が動き出した。
「アルグ? ……何してるんだ?」
フラッとやって来た馬鹿兄貴が部屋の中を覗いてそんなことを言って来た。
見て分からんのか? 馬鹿な子か?
「ウチの見習いに躾ですね」
「……クレアは見習いか?」
「違うよ。仲間外れは寂しかろうと」
猿ぐつわを噛ませた2人に正座をさせながら僕はそう答える。
ちなみに何度も言いますがこれは虐めではありません。躾です。体罰ではありません。厳しめのお仕置きです。
「両足を凍り付かせて……斬新だな」
「でしょ?」
正座させた2人の両足をポーラの祝福で凍らせてみた。
冷えと痺れで2人の上半身は温かなご飯の上で踊る鰹節のようだ。クネクネと踊っている。声を出せずに踊っている。
で、ノイエさん。コロネの足の上に果物を並べない。冷やしたら美味しい? 美味しいけどね。
「でも……アルグよ」
「はい?」
腕を組んだ馬鹿兄貴が小さく首を傾げている。
「それって小便したくなったらどうするんだ?」
「そんなの……」
完璧に両足が凍っています。厳密に言うと下半身が……あれ?
「ノイエ~! 大至急叩き割って!」
「どっちの頭を?」
おうおう。ウチのお嫁さんは余裕だな!
「両方!」
「分かった」
「……待った~!」
コロネの背後に回ったノイエの動きに不安しか感じなかった。
「足の氷!」
「そっち?」
「そっち!」
「……果実が」
そっち? 果実が冷えるのと2人の膀胱とどっちが大事?
「……果実」
「流石ノイエさん」
もうそう言うしかないっす。
「で、馬鹿な弟よ」
「はい?」
コロネとクレアがトイレに行ったまま帰ってこない。
きっとそのまま入浴まで決め込んでいるのだろう。服も濡れてたしね。うん。
ソファーにノイエと並んで座り、馬鹿兄貴が反対側に座る。
何か用らしいが……語りだしが『馬鹿な弟よ』スタートだ。一発殴ってやろうか? ノイエが。
「兄貴からの伝言だ」
「……」
「好きにしろとさ」
「すか~」
まさか許可が下りるとはね。
「ただし生きて帰って来いと」
「ほい」
「それと」
「まだあるの?」
帰って来るから心配するなと言いたい。
「これ以上余計なことに首を突っ込むな、だとさ」
「あ~。それね~」
思わず視線が流れる。
僕の机では悪魔が片目を閉じてコロネの義腕を手直ししている。
第一形態からの第二形態への流れをもっと綺麗にしたいとか言っていた。
僕としては第二形態そのものを変更して欲しい。あれは子供が見たら泣く。マジで泣く。
「で、馬鹿弟」
「はひ?」
前のめりで手を伸ばしてきた馬鹿兄貴が、ガシッと僕の頭を……待て待て待て。もげる。
「まだ何かする気か?」
「あは~。ちょっとね。うん」
「何を企んでいる?」
「あは~。うん。世界平和かな~」
仕方ないのだよ。悪魔との契約でちょっと世界を救わないとね。
「まあ良い」
僕の頭を掴んでいた馬鹿兄貴が手を放した。
「お前は簡単に死ぬような奴じゃないと分かってはいるんだがな」
知っているなら放置しておいて。
「ただ悪目立ちが過ぎるから馬鹿な貴族たちが騒ぐ」
「なら全員狩ってしまえ」
「……出来れば楽なんだけどな~」
する気なの? 人の命が安すぎませんか?
「まあ今回は西部の国が相手だ。援軍は出せないぞ?」
「え~」
「不満を言うなら喧嘩をするな」
なら不満を飲み込もう。
「ただフレアがな……お前の所の部下たちを合わせれば世界征服も可能だろうと言ってたぞ」
「あはは~」
実は僕もそう思ってたりします。
「ただこうも言ってた」
「はい?」
「いつの世も英雄とて必ず死ぬんだとよ」
「縁起でもない」
「忠告だよ」
苦笑して馬鹿兄貴は懐から手紙を取り出すとそれを僕に放って来た。
両手でキャッチすると……お兄様からか。
「暗殺の類には気を付けろよ?」
「了解です」
気を付ける余りに僕の最強の手札を現在暗殺者に差し向けているのです。
問題は……暗殺者も討伐者もノイエの中に居るんですけどね。
で、先生からの成功報告が届かないんですけど?
「あ~もう!」
ワシワシと頭を掻いてアイルローゼは手近に転がっていたモノを蹴り飛ばした。
コロコロと転がって行ったのは人の頭部だ。エウリンカとか言う泥棒の頭部だ。
ついでにファナッテとか言う泥棒の頭部を蹴り飛ばし、丁度同じ位置にたどり着いた2つのそれに魔法を放って融かしておく。
「胴体も!」
復活中の2人の胴体もまた融かされた。
八つ当たりで不満を解消した魔女は軽く汗を拭って……一瞬現実に戻る。
『何しているんだろう?』とちょっとだけ考え、ため息を吐いて諦めた。
昔の自分だったらこんなことなどしなかった。
面倒だし、する必要を感じない。
どこで狂ったのかと思うと、可愛いノイエと出会ってからだ。
そこで何かが狂いだし……とどめがあれだ。あれが悪い。全部馬鹿弟子が悪い。
「あ~もう!」
追い打ちで溶けた2人にもう一発魔法を放ち、アイルローゼは歩き出した。
「本当にこれが終わったらあの馬鹿弟子を……馬鹿弟子を……」
顔を真っ赤にして軽く体を震わせる。
「泣きながら感謝させるんだから!」
色々な感情を振り払って魔女はそう言い切った。
~あとがき~
大絶不調!
睡眠不足と飲み過ぎと疲労の中で書いた結果…何か酷いな(泣)
そろそろ西部に戻ります。そして自分のペースを取り戻したい
© 2022 甲斐八雲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます