滅ぼして良くない?

 ユニバンス王国・王都郊外ノイエ小隊待機場



「また陛下を相手にやらかしたみたいですね? アルグスタ様」

「褒めるなよ~」

「わ~。凄い~」


 余りにも棒読み過ぎてイラっとした。


「良く分からんがメッツェ君に今の3倍過酷な仕事を割り振るように手配しよう」

「貴方の血の色は何色ですか?」

「褒めるなよ~」

「褒めてませんから! 結構本気でイラっとしてますから!」


 良い感じで吠えだしたおっぱいさんことルッテに対し、先輩であるポーラに促されたコロネが僕の前に出て来た。


 圧倒的な戦力差だ。

 どこがとか何がとかはもう言わない。年齢だって……あれ? ルッテは今年成人したばかりでコロネは7歳。その差は約2倍か。2倍か……2倍なんだな。


「ご主人様に対しキャンキャンと吠えないでくれるかしら?」

「……アルグスタ様?」


 身長差からコロネの上空から視線を通して来るルッテに僕は黙って頷く。

 察しろおっぱい。これが今の僕の新しい玩具です。


 何かを察したらしいルッテが視線を下げた。

 ただ若干腰を引いて前屈みになった理由は……何故かポーラがこちらを見つめながら自分の胸を押さえている。そんな義妹の隣に移動したノイエが『分かる分かる』と言いたげに、何故か自分の胸を誇らしげに強調していた。


 ノイエさん。いくらポーラだからって……ほら拗ねた。拗ねてノイエに抱き着いてポカポカと叩き始めた。


 直でその攻撃を食らったコロネの方がダメージが大きそうだ。

 そうだよな……自分の胸が邪魔でコロネが見えなかったとか、小さい派閥組からすれば開戦理由に匹敵する嫌がらせだ。


「何よ! その脂肪袋は!」

「真っ直ぐな言葉の暴力?」

「暴力なんかじゃないわよ!その脂肪の方が暴力よ!」


 キレたコロネが叫び出した。

 もうそんな脂肪は奪い取ってやるとばかりに義腕を振り回す。

『きゃ~』とわざとらしい声を出してルッテが自分の胸をガードして、


「起きて! 鎧大百足!」


 マジギレしていたコロネが義腕の第一形態を解放してルッテを追いかけだしたよ。




「何なんですか? その小さいのは?」

「ガルル!」


 落ち着けコロネ。小さいのは身長と年齢のことで胸のことではないと思う。


「ちなみに小さいとは?」

「全て?」

「「ガルル!」」


 何故かポーラも一緒に怒りだす。

 だからノイエさん。胸を強調しない。ほらまたポーラが拗ねだした。


「ウチの見習いメイドだね。面白いでしょ?」

「その子って確か」

「おっと手が滑った!」


 皆まで言わなくて良いんです。このおっぱい。

 召喚したハリセンでおっぱいさんのおっぱいを全力で強打しておく。


 ふっ……今日もまたつまらぬものを斬ってしまった。斬ってはいないか。


「痛いじゃないですか!」


 両手で胸を押さえたルッテが涙目で僕を睨んで来る。


「痛覚あるんだ?」

「ありますから!」

「またまた~。大きい人は感度が悪いって聞くよ?」

「何処の嘘ですか! ちゃんと感じますから!」

「へ~」


 言質は取った。


「胸が感じるようなことをもうしてるんだ?」

「……」


 一瞬で顔を真っ赤にしたルッテがその場にしゃがみ込んだ。

 ふっ……またつまらぬおっぱいを1人の退治してしまったよ。


「コロネよ。敵は取ったぞ……安らかに眠れ」

「死んで無いから! 生きてるから!」


 唸っていたコロネが言葉を思い出して騒ぎ出した。


「まさか~。だってコロネは自分の小さな胸を妬んで亡くなったと?」

「生きてるから! 死んで無いから! 絶対に死なないから!」

「あっそう」


 あっさりと受け流し、ノイエに甘えていたポーラを手招きする。

 軽い足取りでやって来た妹様は、そのまま迷うことなく僕に抱き着いた。


「およびですか?」

「抱き着いた意味は?」

「ありません」


 そんな笑顔を向けて来るなよ。叱れないだろう?

 良し良しとポーラの頭を撫でてやる。


「ちなみにポーラの方が大きいんだよね?」

「「……」」


 僕の問いに幼いメイド2人がこっちに視線を向けて来た。


「もしコロネがポーラより胸を大きくしたら罰ね」

「無茶苦茶な!」

「で、弟子に負けたらポーラにも罰です」

「へいきです。さいごはそぎおとします」


 笑えない表情と発言にコロネが自分の胸を抱いて震え上がった。

 まあこの辺で義腕を玩具にした悪い子へのお仕置きとしておこう。


「アルグ様」

「はい?」


 トコトコと歩いて来たノイエが小さく首を傾げる。


「私より大きくなったら?」


 質問する必要がありません。


「処刑でしょう?」

「にいさま!」

「いや~!」


 迷うことなき即答に2人の小さなメイドがそれぞれの反応を示した。




「で、何しに来たんですか?」


 外で遊んでいたら雨雲が自分の仕事を思い出したらしく雨が降って来た。

 その前に建物の中に避難していたノイエを非難したい。教えてくれても良いと思うんです。

 違うの? ただお腹が空いただけ? 本当に?

 僕が重ねて問うとノイエはちゃんと横を向いて『お腹が空いた』と訴えて来た。


「ここは平和だね~。働けよ」

「雨期休み中ですから」


 女性兼役職持ちの専用休憩室に来た僕らの前にはお茶とお菓子が並べられていく。

 お茶の担当は先輩のポーラで、お菓子担当がコロネだ。

 この辺はポーラが厳しい先輩となる。お菓子の置き方とか、お皿の向きとか……ノイエや僕はまったく気にしないけど? 普段から出来ないと必要な時に出来ない? ごもっともです。


 妹の正論に圧倒され、焼き菓子をポリポリ食べながら本題を切り出そう。


「実はルッテにお願いがあってね」

「はい?」


 僕以上に焼き菓子を食べているルッテに驚きだよ。

 ノイエに勝てる人は居ないけどね。うん。


「実はしばらくノイエと2人……ポーラを含めて3人ね」


 妹さんが『私は?』と言いたげな怖い目で見つめて来たから訂正しました。

 忘れていたわけではありません。言葉の綾です。


「今回以降の一時帰国が難しそうなんだ」

「はあ」


 気の無い声を出して頷くな。この馬鹿部下よ。


「だからしばらく頑張ってくれる?」

「……」


 机の上のお皿に手を伸ばしワシッと焼き菓子を掴むと、ルッテはそれを口の中へ放り込む。全力で咀嚼して飲み込んだ。

 お茶まで啜るのね。好きになさい。


「えっと……モミジさんは?」


 あれ? ルッテがキレないぞ?


「一応僕らがまた西部に戻ったら帰還命令を出す予定。そもそも今回はかなり無理してるしね」


 変態娘の一時帰国は問題ない。好きなだけ実家に居ろって感じだ。

 問題があるとすれば一緒に行っているアーネス君だ。現在の彼はユニバンス王国の魔法学院にとって重要な人材である。


 人材不足で苦しむ我が国で彼ほどの逸材を長期で遊ばせてやることはできない。

 さっさと帰国して働けと言うことだ。


 ただ優しさを知る男である僕はアーネス君にだけ『帰れ』とは言わない。夫婦仲良く一緒に帰れば良いのさ。


「そんな訳で近々に戻るはずだけど?」

「ん~。なら平気ですかね」

「その心は?」

「雨期ですから」


 そう言えるほど目の前のおっぱいさんは成長したらしい。

 思わず立ち上がって相手の肩をポンポンと叩いてしまったよ。


「どうかしたんですか?」

「ルッテの成長って身長と胸だけじゃなかったんだと思って嬉しくなっただけ」

「酷くないですか?」


 酷くはないと思う。たぶん。


「なら王都の防衛は任せても良いかな?」

「お仕事ですから引き受けますけど……何する気ですか?」


 そんなの決まっています。

 だから昨日お兄様と壮絶な口論に発展したんですから。


「ちょっと神聖国をぶっ潰す方向で活動してこようかと」

「……何があったんですか?」


 僕の様子にルッテがそんな質問を寄こした。

 何がって……うん。ちょっとね。かなりね。結構本気でイラっとしただけだよ。


「どうもあの国……子供の奴隷とか居るっぽいんだよね。滅ぼして良くない?」




~あとがき~


 主人公、お怒りです。


 家族や仲間を大切にするアルグスタですが、実はどうしても許せないことがあります。

 子供を道具にすることです。

 だから何だかんだでコロネを引き取り玩具にしているわけですしw


 神聖国では子供の奴隷が存在していると知って…本気で潰す気です




© 2022 甲斐八雲

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