ヘルプですよ~!

 ユニバンス王国・王都王城内大会議場



「……とのことです。ではつぎにこちらのしりょうをごらんください」


 カサカサと紙を捲る音が響く。ちなみに僕の元から同じ音がする。

 ウチの妹様は本当に有能だ。いつの間にやらこんな素晴らしい資料を作るとは。

 で、この資料の元となる話は何処で拾って来たの?


 皆が資料を読み込んでいる隙にポーラが教えてくれた。

 宿で帝国産の宝石に群がる商人たちを相手している隙に聞きだしたそうだ。

 何なのそのコミュ力高い人アピールは?


「にいさまにもできます」

「うむ。だが僕はまだ本気を出さない主義なのです」

「はい」


 ポーラの頑張りに頭を撫でて労っておく。

 と、ノイエが移動してきてポーラを退かす。

 少し大人げないですよ。ノイエさん。


 ただ代わりと言っては変だが、ノイエは両手でハムを掴み、胸の谷間でフランスパンっぽい物を挟んでいる。

 これこれノイエさん。挟んでいるパンをパクっとしない。

 エロ過ぎです。これ以上はダメです。


「そのパンは没収です」

「むう」


 掴んで引き抜くとノイエが不満げに頬を膨らませた。

 うむ。実に可愛いぞお嫁さん。


「どうして?」

「人前はダメです」

「……」


 何故かノイエのアホ毛がビクッと動いた。

 作り出すのは綺麗な『!』だ。


「分かった」


 流石ノイエだ。分かってくれたん、


「今夜アルグ様のをはさっ! ……もぐもぐ」


 信じた僕が馬鹿でした。

 掴んでいたパンでノイエの口を封じておく。理由は簡単。色々と大変なことになってしまうから。


 ノイエの口を封じている隙にポーラが説明を再開していた。




「実にためになる話であった」

「はい」

「これからもアルグスタを助けるように」

「つつしんでおうけします」


 お兄様のお言葉にポーラがスカートを摘まんで頭を下げる。

 完璧な発表と挨拶に周りの貴族たちからは拍手すら湧き上がる。が、ノイエさん。妹が褒められているんだから対抗意識を見せない。


『ちょっと外まで』って何をして来る気だ? ドラゴンを退治して来る? 貴女が最強なのは誰もが知っている事実ですから。今日は妹に花を持たせてあげましょうよ?

 ……分かった。今夜は好きなだけ挟むと良い。


 機嫌を良くしたノイエが僕の腕に抱き着いて離れなくなった。


「してアルグスタ」

「はい?」


 ノイエを腕に抱き着かせて気の無い返事をする僕に対する周りの視線は……だから何? 僕がそんな視線で怯むとでも?

 舐めるなよ。ノイエの姉たちに囲まれて生きている僕がそんな視線如きで屈するとでも?


「お前は本当に我が道を進むな」

「お褒めに預かり光栄です」

「……」


 あれ? お兄様まで周りの人たちと同じような目をしてしまったぞ?


「それでアルグスタ。お前は神聖国をどう思う?」

「ん~」


 まだたどり着いていない国ではあるが、サツキ村で村長さんから話は聞いた。


 村長のジュウベイさん……このジュウベイと言う名は村長を継ぐと引き継ぐ名前らしい。

 あの村はカエデさんが次の村長当確なので『カエデ・ジュウベイ・サツキ』となるとママさんが言っていた。パパさんの方は『可愛い娘にそんな名前など名乗らせん!』と騒いでいたが、そんな名前を現在進行形で名乗っている貴方が言ってはいけないと思います。


 話が脱線した。神聖国だ。


「陛下。失礼を承知で本音を口にしても宜しいでしょうか?」

「……お前が無礼で無かったことがあったか?」


 それはそれで失礼ですな。


「でしたら遠慮なく」


 ニコリと笑って僕はそれを口にした。


「潰しましょう。あんな国」

「「……」」


 はて? どうして皆様お静かに? そしてお兄様が額に手を当ててしまったぞ?


「アルグスタよ。その言葉は……」


 陛下の言葉が途中で途切れる。

 どう見ても投げやりな様子でフレアさんが陛下に何かを差し出していた。


 あれ? 今のメイド長の無礼も僕に上乗せされている?


 クレアに頼んでいたのであろう手紙を一読したお兄様は、手の中のそれを畳んで一度天井を見上げる。深いため息を吐きだしてから……静かにこっちを見た。


「場所を変えようか。弟よ」

「は~い」


 やはりご立腹なされたか。

 まあね。仕方ないよね。でもそれは必要なんだよ?もしかしたら使わない可能性もあるけど……でも必要だと思うからクレアに書かせたわけですしね。


 僕の鬼門である大会議場から場所を陛下の政務室へと移ることとなった。




 王都郊外・ドラグナイト邸



「ん~。疲れた」


 正面からベッドに倒れ込む。

 このまま寝てしまおう。今日はもう疲れた。


「アルグ様」


 しかしノイエが現れた。コマンド、どうする?


「ノイエさん」

「約束」

「でしたね」


 これは間違いなく逃げられない。

 何故だ? それはサツキ村に行ってから全力でしていないからだ。


 ノイエがする気満々だから……さあどうする?


「ノイエ」

「する」


 落ち着けと言いたい。


「まずはお風呂からだよね?」

「……」


 良しノイエが思考モードに、


「どうせ汚れるから後で良い」


 思考時間数秒でした。


「あ~。ノイエ」

「……むう」


 ノイエが僕の体を……違うんです。これは抵抗では無くて今夜はベッドさんと熱い抱擁をね、交わしたいなって思う時が、あ~れ~。

 あっさりとひっくり返されたしまった。


「兄さま姉さま」


 スパーンと扉を開いてポーラが入って来る。

 ナイス悪魔! 僕は戦場で悪魔を名乗る天使に出会った。


「補給と必要な物を集めるのに1日は必要らしいんで、出発は明後日の早朝ってウチの弟子からの伝言ね。じゃあ私はこの足でお出かけして来るから」

「……」


 スタスタと僕の目の前を横切りながら、スカートから箒を取り出し悪魔が窓へ。


「頑張りすぎるなよ!」


 横にした箒に腰を落として……悪魔はそのまま去って行く。

 天使なんて居なかったんや。やっぱりあれの正体は悪魔だったんだ。知ってたよ!


「アルグ様」

「い~や~!」


 あっさりと着ている服を脱がされてしまった。




「もう! 体力回復するのが寝るってことなのよ。知ってる?」


 頑張ってツンキャラを演じるコロネの言葉が僕のハートに大ダメージです。

 左脳はノイエが止まってくれませんでした。物凄く挟まれた。凄かった。きっとサンドウィッチの具材ってこんな気持ちなんだろうな。そして食べられるんだぜ。へへ。


「お風呂にでも入って目を覚ましなさいよね!」


 ごもっともです。あれ? ノイエは?


「奥さまならもうお風呂に……汚れたままで食堂はダメって言ったら真っすぐ向かったわよ!」

「そうっすか~」


 ならば僕もお風呂に……ノイエがまだ捕食者モードだと食われるかも? どうする?

 たぶん大丈夫だ。捕食者モードだったらそもそも今も食われている。食べられていないってことはノイエの性欲が治まったのだろう。


「どうするの? 行くの? 行かないの?」

「沢山逝ったからもう逝きたくない」

「何の話よ!」


 瞬間的にコロネが顔を真っ赤にして怒鳴った。

 ふっ……落ち着いて考えれば7歳児には早すぎるネタだったか。


「コロネ」

「何よ?」

「一緒にお風呂入る?」

「入らないわよ! バカ!」


 もっと顔を赤くしてコロネが逃げて行った。

 ちっ……対ノイエ用の盾にでもできるかと思ったのだが失敗だったか?


「ん?」


 何となく嫌な気配がしたから視線を巡らすと、部屋の入口にポーラが居た。

 真顔でこっちを見ながらドアを掴んで……絶対に良くない気配を発している。何故なら彼女の背後にどす黒いオーラが。


「ポーラ」

「……はい」

「一緒にお風呂に入ろうか?」

「はい」


 笑顔が怖いんですけどポーラさん。

 ちょっとノイエさ~ん。ヘルプ。ヘルプですよ~!




~あとがき~


 主人公は…何がしたいんだ?

 墓穴を掘ってポーラに睨まれていますねw


 今週もまた上司の無茶振りが…(泣)

 出来るだけ毎日投稿しますが、文字数が減る可能性があります。ごめんね~




© 2022 甲斐八雲

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