殺し合おうか
大陸西部・サツキ村
「私思うんです。ユニバンス王国っておかしくないですか?」
「失礼な奴だな」
「だってこんな強い子が五本の指に入らないっておかしいですよ!」
5本勝負で3敗した負け犬がキャンキャンと吠えている。
「でもな~」
落ち着いて考える。
ノイエの永世王者は確定だ。で、ポーラが言うにはハルムント家の主力級には勝てないらしい。
で、国軍や在野にも強い人が居る。何よりノイエの姉たちをカウントしたら?
「ポーラって実は100位にも入らない?」
「どんな国ですかっ!」
負け犬が吠える吠える。
「にいさま」
「はい?」
腰に手を当てて妹様がちょっぴりピリピリとしていらっしゃる。
「まほうをつかえば、もうにじゅういはふじょうします」
「魔法を使えばって!」
モミジさんが頭を抱えて悔しがる。
あ~。でもモミジさんもあの飛び道具を使えばもう少し上位に入るでしょう? 飛び道具有りの再戦をさせろ? 分かった。ならポーラもノイエという飛び道具を装備させるから待ってなさい。
ええい! 腰に抱き着いて命乞いをするな! ノイエが怒るぞ!あれ?ノイエさん?
視線を巡らせると……ノイエさんはポテチっぽい物を抱え込んでもさもさと食していた。
スライスの指示が曖昧だったのと低温であげてしまったせいで、油をたっぷり含んだ胃もたれ確実な凶器となってしまった。カミーラも一口食べて残りをノイエに譲ったほどだ。
また作りに行った女の子にはちゃんと指示を出したから次は大丈夫なはずだ。
「アルグ様」
「はい?」
ポテチらしき物を完食したノイエが僕の方をジッと見ている。
腰にしがみ付いてハァハァしている生き物でしたら、気が済むまで天誅しても良いので助けてくれませんか?
「この油美味しい」
「斬新だな」
お嫁さんが油を絶賛だよ。
「おい負け犬」
「……何ですか?」
「あの油の材料は?」
「あれは……」
簡単に説明すると村の近くの山で取れる木の実を砕いて絞った油らしい。
食べるのには適していないが油が多く取れるとか。
それって売れるほど作れる? 無理?
ならば仕方ない。金の力で後で買い取ろう。気にするな。ウチは金だけはある。そしてノイエが望む物は手に入れる努力をするのが僕の使命だ。
「アルグ様」
「ほい」
「油おかわり」
「斜め上だな」
まあ少し待っていればさっきの女の子がまた戻って来るはずだ。
「それにしても……ポーラさん」
「はい」
入念に準備運動を済ませたポーラが、だからその銀色の棒は何処から出すんだ?
「本気でカミーラに挑戦するの?」
「はい」
妹様はやる気らしい。
「わたしのじつりょくをにいさまに」
「ポーラが強いのは知ってるけどね」
ただ兄として妹が怪我するようなことはして欲しくないんだよな。
「で、あっちは座ったままだよ?」
「むっ」
カミーラの態度にポーラが少しだけムッとした。
「かみーらさま」
「慌てるなよチビ助」
「……」
珍しくポーラさんがイライラだ。まさか知らない間にポーラもあれが来る齢に? 赤飯ですか? お赤飯を炊いた方が良いですか? 米と小豆がありません。モチ米もありません。
ワインを空にしたカミーラが瓶を逆に持って立ち上がる。貴女は何処の暴れん坊ですか?それを武器にするのはアメリカ映画のチンピラぐらいかと思いますが?
「まあ少しは遊んでやる」
「すこしですか?」
「ああ。少しだ」
「にいさま~!」
「良し良し」
圧倒的な実力差と言う奴だな。
ポーラの攻撃は全てカミーラが握る瓶の底で叩かれ防がれた。
瓶って意外と割れないのね。ビックリだ。
攻撃が通じないポーラは焦って魔法まで使った。氷魔法だ。
氷で握っている棒を死神の鎌のようにして全力で横に薙ぐ。本気で殺しに行ったような攻撃に見ているこっちがマジで引く。何よりあっさりと回避するカミーラにドン引く。
流石に魔法はダメだったらしい。カミーラが本気を出したらポーラが泣きながら逃げて来た。
「にいさま~」
「はいはい」
甘えて来るポーラが可愛いから許そう。
「はん。もう少し身長を伸ばしてから挑んで来い」
「ポーラは小さいままで良いんです。可愛いから」
「そう言って甘やかすから育たないんだよ」
そんなことは無い。人はちゃんと栄養を取って生活していれば育ちます。
胸? それは知らん。太れば育つと聞いたことはあるがな。
「まあ準備運動にはなったがな」
空となったワインの瓶をノイエに向かい放り投げ、カミーラは何処からともなく槍を手にした。
戦闘準備は完璧だ。問題は誰と戦うの?
「遅いな」
誰が?
呟くカミーラの視線を追って目を向ければ、村の方から歩いてくる人物が。
「ここに我が村の猛者たちを打ち倒した人物が居ると聞いた」
やって来たのは父親さんだ。負け犬モミジさんの父親だ。
「いざ尋常にっ!」
綺麗に横移動して行って……父親さんが僕の視界からフェードアウトした。
芸術点をあげたくなるほどの見事な横移動でした。
「失礼したわね」
父親さんの後から来たのは女王様だ。カエデさんだ。
ニヤリと笑うカミーラの様子から……村での会話はマジトークだったらしい。
「構わんよ」
槍を脇に抱えてカミーラが前へと出る。
「「殺し合おうか」」
洒落にならない言葉で何かが始まった。
「あ~。いい気分」
何処に行ってもお風呂は良い。それも僕が住んでいた田舎でも見られなかった五右衛門風呂だ。底に木の板が沈んでいる。その上に立って屈んで使用する。
温かな季節に贅沢だ。何がってお湯に入っていることだ。
サツキ家に風呂はあるけど贅沢品らしい。水汲みが面倒とか。
で、それを聞いたポーラがトコトコと歩いて行ってバカデカい氷を湯船にインだ。
後は薪を燃やして……お風呂の完成だ。
そんなお風呂を独り占めです。喜びだ。
「アルグ様」
「はい?」
視線を向ければ入り口にノイエが居た。
クルクルとアホ毛を回して……ノイエさん? 首から下はどんな姿なのですか? 涼しい格好? ちょっと見せてみようか?うん全裸だね。
「一緒に」
「狭いよ? それに熱いよ?」
初めて知った。湯船の底……木の板の上に居ないとたぶん火傷する。
「大丈夫。任せて」
「何を?」
スルスルと近づいてきたノイエが迷わず湯船の縁に足をかけて入って来た。
熱いでしょう? 我慢できる範囲?
「……一緒」
ペタリと抱き着いて来たノイエが幸せそうだから許そう。
「ノイエ」
「はい」
「今日はしないからね?」
「むう」
頬を膨らまして拗ねたノイエが手を伸ばしてくる。
君は何処を掴もうとしているのですか?
お~い。その手を放せ。だから今夜はしないと言っておろう。
~あとがき~
熱中症にでもなっていたのか大不調です。
皆様も暑さに気を付けてください。
今回もまったり会話メインです。
カエデさんのリベンジは…また明日にでも
© 2022 甲斐八雲
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