ところでエロ旦那は?

 大陸西部・サツキ村



 そろそろ一度国に帰らないといけない気がするんだよな~。


 ゆっくりと西の山々に傾いていく太陽を見つめながらそんなことを思う。

 ポーラが村長の屋敷に居た女の子を連れてやって来た。持って来たのは芋だ。蒸かしたサツマイモっぽい芋に見える。


 これこれノイエさん。迷わず芋にダッシュしない。君の嫌いな野菜だよ?


「……甘い」


 女の子が持っていた皿を強奪しノイエが1人でモフモフと食べ始めた。


「芋は育つのね」

「はい。それとジャーガと呼んでいる芋の2つがこの村の生命線です」

「米があれだしね~」


 ジャーガとはたぶんジャガイモだろう。芋類は瘦せた土地でも育つ僻地の救世主だ。

 ただ主力が芋ばかりなのは……こればかりは致し方ないか。芋のおかげで自給自足ができるからサツキ村は苦しまずに生活ができているそうだ。


 それでも外の刺激を求めて村を出て行く人も過去には居たらしい。それは仕方の無いことだ。


 僕もポーラから芋を受け取り半分に折る。懐かしい感じが半端無いな。


「ちなみにジャーガは色々と料理できるからユニバンスへの土産に種芋を寄こせ」

「鬼ですか?」


 不満を言いつつもモミジさんも芋に手を伸ばした。


「甘くてつまみにならんな」

「ジャーガを薄くスライスして油で揚げて塩を振ると酒のつまみになるよ」

「あん?」


 カミーラの凄みに女の子が逃げ出すように屋敷に向かい駆けて行った。


「幼子を虐めるなって」

「はんっ……この村の人間はどうも信用できないんだよ」


 徳利を煽ってカミーラが悪態を吐く。


「全員が本性を隠していやがる。牙を研いで隙を伺っているみたいでね……嫌な村だ」

「それはカミーラ様が終始殺気を……何でもありません」

カミーラに睨まれたモミジさんがチビチビと芋を齧る。

「ところでエロ旦那は?」

「エロ旦那って何すかっ!」

「アーネス君?」


 間違ってはいないはずだぞ?


「彼は確かに私の旦那さまですが、『エロ』って何ですか! 絶対に良くない言葉な気がします!」

「誉め言葉だよ?ホントウダヨ?」

「口調が信用できないんですけど!」

「ホントウダヨ。アルグスタ、ウソ、ツカナイ」

「貴方は基本嘘ばかりじゃないですか~!」


 憤慨して怒るモミジさんにカミーラが石を投げる。『黙れ』の言葉を添えてだ。


「そう言えばノイエの旦那は異世界人だったな」

「何を今更?」


 思い出したかの様子でカミーラがそんなことを言い出した。


「ふと思い出しただけだ。他意はない」

「そうっすか~」


 他意が無いなら構わないんだけど、余り言いふらして欲しくない言葉なんだよな。


「旦那の故郷はどんな感じだったんだ?」

「ウチ? ウチはこんな感じの田舎だったよ」


 サツキ村は僕の故郷に良く似ている。山間の村って言うか町だったけどね。


「もう少し発展してたけど、でも基本はこんな感じ。畑があって老人が元気で野生動物に悩まされて」

「そうか」


 体を起こしたカミーラがグイっと徳利を煽る。


「お前は良くノイエを連れて隠居するとか言ってるんだろう?」

「あ~。こんな村とか良いね」


 晴耕雨読な生活に憧れを感じるお年頃な僕なのです。


「ノイエが飽きるぞ?」

「その時は遠征してドラゴン退治でも」

「それなら飽きんか」


 苦笑しカミーラは大きく息を吐いた。


「どうしたの? 悪酔い?」

「かもな。味は悪くはないが……どうも合わん」


 ん?


「モミジさん。あれって材料は芋?」

「はい。ウチだとそれぐらいしか」


 材料難から芋か少量の米からでしかお酒は作っていないそうだ。


「でも最近は退治したドラゴンを適正価格で販売するようになって外貨が増えていると姉さまが言ってました」

「それは何より」


 世間知らずだったサツキ村は退治したドラゴンを買い叩かれて販売していたそうな。

 けれど適正価格を知ったカエデさんがやって来る商人たちに『次からはこの金額よ。買えないのであれば来なくて良い。私たちが直接売りに行くから』と脅迫したとか。

 あの人って見た目も言葉も上からな感じで怖いんだよね。


「ただこの辺りのドラゴンは数が少ないので」

「そうなの?」

「はい」


 改めて聞けばこの辺りに出るドラゴンはそう多くないらしい。

 と言うか出ても一体当たりの大きさが中型クラス。小型が大量に姿を現す東部がおかしいと言うのがモミジさんの言葉だ。


「ノイエはどう思う?」


 ウチのお嫁さんは色々と残念な部分が多いけど、それでも光り輝く物がある。

 ドラゴンの知識だ。


「住処になる場所が少ないから」

「だそうです」

「本当ですか?」

「あん? ウチのノイエの言葉を疑うのか?」


 失礼な変態は変態鍋にして煮殺して良いという決まりがその昔幕府からも出ていたはずだ。僕の空想の中の幕府だけどね。


「ノイエの知識は本物だよ」


 酒を煽りながらカミーラが笑う。


「ホリーと仲良くしたいと言う馬鹿げた理由で毎日ドラゴン関係の本を抱えてあの殺人鬼に突撃していたからな」

「だからノイエってドラゴンに詳しいの?」

「ああ。知識の詰め過ぎでノイエが気絶してもホリーは最後まで読んで聞かせていたしな」


 何て拷問なのでしょう?


「っと。良いの姐さん」

「何が?」


 何がって。


「ノイエの秘密を僕に言い過ぎると殺されるんでしょ?」

「平気だろう? 魔女はマニカの馬鹿を探して徘徊しているはずだしな」


 告げてカミーラは空になった徳利を……ウチの妹様は確かにメイド服を着たメイドですが、だからってメイドのように扱うのはどうでしょうか? 確かにメイドだけどさ。


「おかわりはないようなので、わいんでも?」

「そっちの方が良いんだが……あるのか?」

「はい」


 だからポーラさん。迷わずワインをエプロンの裏から引き抜かないで。


「それとかみーらさま」

「ん?」


 受け取ったワインのコルクを齧って外し、それをプッと吹いて飛ばす。


「ごしなんを」

「あん? せめてそこの馬鹿娘に勝ってからにしな」


 馬鹿娘ことモミジさんをカミーラは指さす。


「わかりました」


 分かってしまったらしいポーラがスゴスゴとモミジさんの前へ。


「私は、」

「負けたらお前を……だと可哀想だから旦那の方を始末してやるよ」

「どうやら私の本気を見せる日が来たみたいですね!」


 カミーラの脅しに屈したモミジさんもその気になってしまった。




~あとがき~


 若干短めですが体調不良につきなのでご容赦を。


 のんびり語らい回です。

 そろそろ物語が進みだすはずです




© 2022 甲斐八雲

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