レニーラ&シュシュ編?

 ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸



「ん~」

「アルグ様?」

「ん~」


 小首を傾げて僕を見つめているノイエはいつも通りだ。

 全裸で無表情。全裸がいつも通りなのはどうかとも思うが、ノイエの脱ぎっぷりの良さは半端ない。

 たぶんその原因と言うか、悪い見本がこれのせいだろう。


「えへへ~。旦那くん。もう終わり?」

「どんな夢を見ている。この痴女が」


 全裸でだらしない表情を浮かべて寝ているのはレニーラだ。ノイエの姉だ。義理の姉だ。

 別名で舞姫とか言われている。天才的な踊り子でその踊りを見た者は魂を掴まれると称されるほどの技量の持ち主だ。僕も何度か彼女の踊りを見ているが、普段を知っているおかげで魂は奪われていない。


「旦那~ちゃ~ん。えへへ~だぞ~」


 その横でこれまた全裸の人物が居る。シュシュだ。

『封殺』と呼ばれる天才的な封印魔法の使い手だ。その技量は魔女の領域に手が届くとも言われているが、本人の無気力さとやる気の無さが災いして魔女に成れていない魔法使いだ。


 そんな2人がだらしなく寝ている。何故だ?


「アルグ様が悪い」

「そうかな?」


 ノイエを含めて3人が相手だ。ならばどんな手段でも使うであろう?

 僕が“商人”たちから手に入れた夫婦円満になる魔道具を使ったのは間違いでないはずだ。そのはずだ。


「ノイエ」

「はい」


 だらしない2人から視線を最愛のお嫁さんに向ける。

 白銀の髪。そして碧眼の瞳を持つ本当に美しいお嫁さんだ。無表情だけど。


「幸せ?」

「はい」


 小さく頷いてノイエが抱き着いて来た。




 ちょっと前に世界を震撼させる大事件が発生した。

 超弩級サイズのドラゴンが姿を現したのだ。


 僕ら人類はそれを倒すべく協力した。知恵と人員とお金を出し合い全力で迎え撃った。

 多くの仲間を失い……そしてどうにかそのドラゴンを打ち倒した。


 失った仲間とはノイエの魔眼だ。


 それが原因なのか今のノイエは魔法っぽい物も使えなくなった。

 ただ祝福があるからノイエは魔道具を駆使して戦っている。そう。魔眼を失ってもノイエの戦う意思までは消え失せなかった。


 で、魔眼を失った時……あの時は正直引いたけどね。

 ポロっとノイエの両目から眼球が落ち、それぞれがレニーラとシュシュになった。

 後の姉たちは居ない。居るのはこの2人だけだ。


「起きろ痴女~」

「……もはっ!」


 鼻を抓んで強制的にレニーラを目覚めさせる。

 飛び起きた彼女は辺りを見渡して……どうして僕にしな垂れかかって来るのかな?


「もう一回? 大丈夫。今度もちゃんと旦那くんの上で踊ってあげるから」


 胸を張ってそんなことを言ってくるのです。この痴女は。


「もう死ぬから。本気でヤバいから」

「え~っ!」


 拗ねるな拗ねるなノイエも混ざる。ほら混ざった。


「す~る~の~」

「する」

「うんうん。だぞ~」


 知らない間に3人目の声がっ!


「あはは~。本当に~旦那さんは~好き者だぞ~」

「心外な」


 目覚めたシュシュはコロンと転がり頬杖をついてこっちを見つめる。

 意外とこの角度から見るシュシュのヒップラインも悪くない。


「お尻~ばかり~見るな~だぞ~」

「そうだよ。そんなに見たいなら、どうぞ!」


 レニーラよ。確かに君の体は男性の心を鷲掴みにするほどエロい。

 だが違うんだ。そこに羞恥心の無い全裸披露はちょっと違う。出来れば少しぐらい恥ずかしがれ!


「アルグ様」

「ん?」


 ノイエに呼ばれて顔を向けたら……彼女はレニーラの真似をしていた。


「胸はレニーラの勝ち」

「む」

「でも腰の細さはノイエの勝ち」

「ちょっと!」

「お尻は……個人的にはシュシュかな」

「あは~」


 3人が3人それぞれのリアクションを寄こす。

 ただこの手の場合は必ず3人を褒めておくことが必要だ。偏ると後で酷い目に遭う。


「で、旦那くん」

「はい?」


 レニーラの視線が窓の外を見ていた。


「仕事良いの?」

「……先に言ってよ~!」


 アカン。遅刻する。




「おーおー。今日も豪快だね~」


 視察という名の散歩で来たのはノイエの職場だ。ドラゴンの狩場だ。


 馬車でのんびりやって来たら、王都を出た西のエリアで狩りをするノイエがドラゴンにとどめを刺していた。

 トンファーとか呼ばれる類の形に似た武器を手にしたノイエが、その握りしめる魔道具から圧縮した魔力を放ってドラゴンの延髄部分を吹き飛ばす。ドラゴンはほぼ無抵抗だ。

 シュシュの封印魔法で動きを封じられて抵抗も出来ずに殺されている。そこに慈悲は無い。

 ノイエがとどめを刺すと封印魔法が解かれドラゴンの死体だけが残る。


「あれ~? 旦那~さん~だぞ~?」

「おうシュシュ。お疲れさん」

「だぞ~」


 僕の姿を見つけたシュシュがフワフワしながらやって来る。

 今の彼女の肩書はノイエ小隊所属の魔法使いだ。厳密に言えばドラグナイト家所属の魔法使いになっている。


 フワフワしながら近づいてきたシュシュは僕の頬にキスをするとまた離れていく。

 頬じゃなくても良かったのに……と思っていたらノイエが来てグッと首を捩じられた。


 ゼロ距離でノイエの唇の感触を味わい解放される。


「シュシュがノイエを煽るから」

「知ら~ないぞ~」


 フワフワしながら遠ざかっていく彼女は、接近してきているドラゴンを迎え撃つ。

 そのフワっている姿からは想像できないほどシュシュの魔法は鋭くて綺麗だ。ずっと見ていられる。


「ノイエ~」

「はい」


 姉に呼ばれてノイエは駆けて行く。そしてドラゴンを屠りの往復だ。


「シュシュ~」

「ほ~い」


 しばらくノイエの活躍を眺めていたが、ふと気になってシュシュを呼んだ。


「ノイエの調子は?」

「いつも~通り~だぞ~」

「そうか」


 それはそれで寂しい気もするけど仕方ない。

 魔眼無き今、ノイエの出来ることは日々の変わり映えのしない生活ぐらいだ。シュシュと協力してドラゴンを退治する。

 今はそれぐらいだ。それ以上はノイエに求めない。


「シュシュ」

「ほ~い」


 ドラゴンと敵対していたシュシュがフワリながらこっちに来る。


「今夜レニーラとの約束。忘れずにね」

「あはは~。私が~忘れても~ノイエが~覚えて~いるぞ~」

「そう言うな。一応現場だとシュシュがノイエの世話係なんだし」

「引き受けた~記憶は~無いぞ~」


 フワリながらシュシュは僕から離れていく。

 何だかんだでシュシュとレニーラは仲が良い。だからシュシュは絶対に忘れない。


 しばらくノイエの働きを観察し、僕は城へと戻った。

 だって今夜は舞姫の舞台が執り行われるからだ。


「楽しみと言えば楽しみだな」


 ドラグナイト家のお抱え舞姫の踊りだ。またみんなが嫉妬すること間違いない。




「ん~」


 膝を抱いて首を傾げる。


 舞台を大成功させた今夜のレニーラは燃えに燃えた。

 こんな時ノイエは自分の回数を義姉に譲る。そしてシュシュは元々一回全力派だ。

 つまりノイエとシュシュの相手をしたら、残りは全てレニーラのターンだ。止まることを知らないレニーラの猛攻を僕はどうにか受けきった。


 受けきったのだけど……やはり何かが足らない。


 決して悪い気はしない。レニーラとシュシュとノイエだ。

 両手が足らないほどの美人を一緒に抱え込んで……でもそれだけだ。何かが足らない気がする。


「何が足らないのかな~」


『たぶん刺激?』


「はい?」


 頭の中で声が響いた。

 理由は分からないが、ちょっとだけ懐かしい感じがした。


『まったりは見ててつまらないわね。次はちょっと元気系で』


「はい?」


 不意に意識が遠くなって……




~あとがき~


 だから刻印さん的には違うみたいです




© 2022 甲斐八雲

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