セシリーン&リグ&……編?
ユニバンス王国・北部山林地帯
「むぅりぃ~!」
「あん? 人間気合だ」
「しぃぬぅ~!」
全力で駆け続ける僕を高台から見下ろすカミーラは本気で助ける気とかありませんか?
無理です。野良イノシシとか僕が餌にされますから~!
「頑張れ旦那」
「恨むぞ~!」
「はんっ! 恨みならそれを命じた王女様に言いな」
「のがぁ~」
もうやる。あの馬鹿従姉は帰り次第、出会い次第、その瞬間をアイツの命日にする。
ノイエが護衛に付いているが知るか。絶対に屠る!
対ドラゴン小隊の小隊長の地位を押し付けた恨みがこれか? 割に合わなさすぎだろう!
「助けてください。カミーラさまぁ~!」
「王女様からお前を一人前にしろって命じられているからな」
「反骨精神! カミーラはグローディアにも逆らえる!」
「つまりお前にもってことだ」
ニタリと笑ってアンタは鬼か!
「頑張れ。人間気合だ」
「そんなんだから国軍の教官を首になるんだよぉ~!」
新人を全員病院送りにした鬼教官。それがカミーラだ。今は非常勤の教官という肩書を得て……僕に対して新人育成マニュアルを作っている。というかただの拷問だ。
「はんっ! 私が人を育てるとか無理に決まっているだろう? 馬鹿か?」
「開き直りが半端ないっ!」
結局日が暮れるまで……
「のはっ!」
飛び起きた。イノシシが股間に向かい突進して来たから色々と危機を感じたら目が覚めた。
「……何で起きるのよ?」
「はい?」
可愛い妹のドン引きな声に視線を向けたら、ポーラの姿をした悪魔がドン引きしてた。
「そんなに股間が大事なの? 引くわ~」
「痛いからね。知らないでしょうけど」
「知りたくないわ~」
身震いをする悪魔から視線を動かすと、僕の隣でノイエが寝ていて……これって一体?
「悪魔? これって何を、」
「はいはい寝ろ寝ろ」
悪魔が胸の前でパンと手を叩いて……伝説級の魔法が軽くない?
ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸
「お兄ちゃん」
「落ち着け。どうどう」
両手を突き出して相手を宥める。
「どうして避けるの?」
「避けているわけじゃない。まず落ち着こうか?」
「うん。落ち着いてる」
大きな胸の上に手を置いて問題児……ファナッテが僕に微笑みかける。
子供のような純粋な笑みだ。キラキラとした愛らしい笑みだ。ただ彼女の背景にはドロドロとした禍々しいオーラのような煙が見える。人はあれは毒素という。
「何かを背後に垂れ流しているから。エウリンカが床でピクピクしているから」
「ん?」
振り返ったファナッテが床に転がる物体に気づいた。
魔剣工房と呼ばれるチートクラスの魔法使いエウリンカだ。無駄に美人で無駄にナイスバディな……中身が残念な人物だ。
「いつも通りだよ。お兄ちゃん」
「反論できね~」
あの変人は暇さえあれば床の上を転がってメイドさんたちに怒られている。服を汚すからだ。
でも魔法を使えば国宝級の魔剣を鼻歌交じりで作り出す。優秀だけど残念な人だ。
「お兄ちゃん」
「だから落ち着こうか?」
ファナッテの背後の毒素が強まった。
「ファナッテはやればできる子だ」
「うん」
「だからその毒も止められるよね?」
「うん」
何故止まらない?
「ファナッテ?」
「ん?」
「毒を止めようか」
「うん」
だから止まってないよ?
「ファナッテ?」
「なに?」
「毒を止めて欲しいな」
「うん」
「……」
黙ってジッと見つめてみる。
ジリジリと迫って来る彼女から視線を外せない。隙を見せたら抱き着いて来る。
「お兄ちゃん」
「はい?」
「そんなに見つめられたら恥ずかしい」
何故か頬を真っ赤にしてファナッテが恥ずかしそうに体を左右に振っている。
美人なんだけどね。胸も大きいんだけどね。ただ正確に難がありすぎる。
子供過ぎる性格と純粋に魔法を暴発させるせいで、彼女はこの屋敷で暮らすことを厳命されている。屋敷に居る限りは行動は自由だ。それと新作の毒とか薬とか作れば王国が引き取ってくれる。
毒も扱い方によっては薬にもなると言う典型的な例だ。
「ファナッテは美人だしね」
「もう」
「胸も大きいし」
「ダメっ」
子供っぽく両腕でファナッテが胸を隠す。この隙に逃れるか?
後退しようとしたら背後に人がっ!
「アルグ様?」
「ノイエ?」
ノイエが抱き着いて来て……しまった! 視線をファナッテから動かしてしまった。
「お兄ちゃ~ん」
「のひゃ~!」
「だから全身が焼けるようにっ!」
「また起きたっ!」
飛び起きたら妹様の慌てたような声が。
「何か怖い夢ばかり見るんですけど!」
「……気のせいよ」
「絶対に嘘だろう!」
犯人と思われる人物に顔を向けたら、悪魔は早々に胸の前で手を叩いていた。
「はい続き~」
「……ん?」
「あら? お目覚めですか?」
「ん~」
優しい声と心地よい太ももに全力で甘える。
至福だ。これこそが至福だ。
「もう。そんなに甘えて……どうかしたんですか?」
「怖い夢ばかり見たんだ」
「あらあら。うふふ」
笑いながら相手が手探りで確認するように僕の頭を撫でてくれた。
優しい手つきに安心を覚える。
「もう大丈夫ですよ。何なら私が子守唄でも歌ってあげますから」
「子ども扱い?」
「うふふ。私の愛しい旦那様にはいつまでも子供で居て欲しいだけです」
恐ろしいことを言わないで欲しい。
スリスリと相手の太ももを堪能していると僕のお腹に何かが抱き着いて来た。
弾力が半端ない。リグか。
「何か今、物凄く失礼な気配を感じた」
「気のせいです」
僕に抱き着いて甘えているのは褐色の肌を持つ少女のような容姿を持つ巨乳だ。違うリグだ。
王国医師という新設された地位に就き、普段は治療院で患者さんの治療をしたり弟子たちの指導をしたりしている。
そんな人物が……僕に抱き着いて全力で甘えていた。
「リグさん?」
「黙ってこのまま」
「あ~。寝てないのね」
三度の飯より睡眠が大好きなリグは暇さえ見つければ寝る。
けれど仕事が忙しいのか睡眠時間を確保できないのだろう。ただしこの巨乳は、一日の大半を睡眠時間にするから……少しは働けと言いたい。
「不吉な気配を感じる」
「働け」
「気配じゃなくて言葉にして来た」
拗ねたリグがギュッと抱き着い来る。
うお~。弾力が凄い。二つの塊が凄すぎる。
「セシリーン」
「はい?」
「リグを少し叱ってあげて」
「うふふ」
クスクスと笑うセシリーンは、手を伸ばしてリグの背中をポンポンと叩く。
「彼の立場を少しは考えてあげないと」
「……分かってる。でも眠い」
「なら私が子守唄でも」
歌姫と呼ばれているセシリーンが優しく歌い出した。
トラウマを克服し舞台に立つようになった彼女だが、気分が乗らないと歌わないと言う我が儘を言うようになった。
ただこうして何かあればあっさりと歌うんだけどね。
「……アルグ様。お姉ちゃん」
「あらノイエ?」
歌が止まり飛びかけていた意識が戻る。
ゆっくりと視線を巡らせると……ノイエが何かを抱いてアホ毛をグルグルと振り回していた。
「泣きそう」
「ノイエが?」
「違う」
僕の声にノイえが不満げな気配を発する。
「赤ちゃん」
「あらあら。お腹が空いたのかしら?」
クスクスと笑いセシリーンがノイエに手を伸ばす。だけどノイエは絶対に離さない。
腕の中の存在を大切にしすぎるが余りにドラゴン退治をサボる日が発生するほどだ。
「ノイエ。その子を」
「イヤ」
いつも通りの言い争いの声を子守唄代わりにして僕はゆっくりと目を閉じた。
~あとがき~
書き出してからある重大な問題に気づいた作者さんは…今回の趣旨を変更しています。
最後のオチのために次回はあの2人です。そしてあと2回で終わります。
ん~。完全に箸休めになってしまった。失敗だったかも…
© 2022 甲斐八雲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます