やっぱり居たんかい!
大陸西部・ゲート近くの商業区
ノイエがフードファイトを敢行し、ポーラが商人たちと色々している間に僕も頑張った。
僕らが飛び込んだお店は食堂兼宿屋な一般的なファンタジーでよく見るあれだ。つまり食堂には女将さん以外にも給仕は居る。
そんな訳で見慣れない展開にパニック状態の年若き女の子に声をかけ、チップと言う名の買収で色々と情報収集をした。
この場所は間違いなく西部である。そこを心配するのはどうかと思うが、ウチには馬鹿な従姉とか悪魔な悪魔とか居るので要注意だ。
目的地が勝手に変更なんて十分にあり得る。むしろ日常茶飯事だ。
この商業区は一応周りの国々との共同運営になっているそうだが、実質支配しているのは神聖国とか。大陸西部で最も大きくて強い国だからとも言う。
ただ露骨な支配はしていないそうだ。人を派遣して支配するとやはり軋轢が生じるから良くない。何より神聖国は基本周りの国々に口出しはして来ないそうだ。
自分の所だけ確りとして政治形態が構築されていれば良いのか、大国の余裕なのか。
ん? 飲み物のおかわり? お嬢さんの分も含めて貰おうか。キリッ。
お金持ちぶって現金攻撃をしまくる。万国共通でこれが一番簡単な交渉術だからだ。
ん? あのフライドチキンっぽい物を凄い勢いで食べているのは僕のお嫁さんだよ。奇麗でしょ?
今はちょっと食べるのに忙しいみたいだけど、普段は黙って椅子に座って居るこの世に二つとない美しすぎる彫刻のような佇まいだからね。
あっち? あの小さなメイドはお嫁さんの義理の妹。つまり僕の妹でもあります。
あはは。既婚者だからあまりアプローチはダメだよ? 本当に危ないから。冗談じゃなくて僕の“お嫁さん”がキレたらこの周辺人が住めなくなるよ? マジで。だからチップを弾むから色々と聞かせてね。
一番知りたかったこと……サツキ村はここから西へ5日ほど進むとたどり着くらしい。意外と近いのね。
はい? サツキ村の住人が歩いて5日は普通の人の10日? 何その不思議な計算式は?
途中で必ずドラゴンと遭遇するから、出向くなら村の人と一緒が良い? 村人が居ないと回避やらで遠回りをさせられる? あの村の住人なら小型のドラゴンぐらい退治できると。
それってドラゴンスレイヤーじゃないの? 違う? 1人で中型を倒せないとそう呼ばれない。それはこっちでも変わらないのね。なら問題ないかな。ウチのお嫁さんならたぶん楽勝だから。
惚気じゃなくて事実だよ? だってサツキ村の村長の娘を倒してるしね。
マジでマジで連戦連勝。あの負け犬娘は尻尾を巻いて逃げ出したくらい。
「っくしゅ!」
「どうしたのモミジ?」
「……誰か悪い噂をしているようです」
「そうじゃなくてそんな場所で全裸で彷徨い歩いていたからじゃないの?」
「違うんです。姉さま! ちょっと火照った体を!」
「……あのゴミ虫村長があっちでカタナを研いでいたから気を付けなさい」
「何をですか?」
「貴女……帰って来てから毎晩でしょう? あのゴミ虫が本気で殺意に目覚めてたわよ」
「そうですか。なら返り討ちにします」
「ウチのお嫁さんなら問題無く突き進めるので、馬と地図が欲しいんです。この西部の地図が無理だとしたらサツキ村までの簡単な物を……金なら言い値で払おう」
「畏まりましたお客様。女将にもそう告げて急いで準備します」
満面の笑みを浮かべ給仕の女性が厨房に戻る。
今度戻って来る時は、あのジャラジャラと音を鳴らしているポケットの中身はどこかに纏めて置いて来た方が良いと思うよ。
今引き出せる情報はこんな物か。神聖国へはサツキ村で情報収集すれば良いしね。
一応今回はモミジさんの結婚祝い的な方が本命だから……神聖国の方はおまけだ。喧嘩を売られたら全力で買ってやるまでのことよ。
「ところでお客様」
「はい?」
大皿の料理を抱えた給仕が戻って来た。ジャラジャラ音は消えたが首から布の袋を下げている理由を知りたい。それに入れ続けていたら首をやるよ?
で、その天ぷらの山は、なに? この辺の名物料理なの? そうなんだ。なら僕にも山菜とか野菜とかの天ぷらが在ったらお願い。お肉の類はお嫁さんに回してあげて。
はい? フライドチキンを気に入ってそればかり注文している? 制覇するって話はどこに消えた? 明日するから問題ない? 明日は朝から移動するよ? 朝やっつけるの?
「女将さんにそう頼んでおいて」
僕はお嫁さんの希望を叶える夫で居たいのです。
「では兄さま。今宵は少し出かけてきます」
「ほ~い。ただしポーラに無理をさせるなよ。この悪魔」
「あはは~。何をどの程度で無理かって決めていないお前が悪いのだ~」
何故か悪役チックに笑いだしたポーラがエプロンの裏からスルスルと箒を取り出す。
もうそのエプロンに関してはツッコミを放棄したからね。無駄なことはしないよ?
「もし何かあったら……2人で頑張ってね。だからって朝まで2人で頑張っちゃダメなんだからね!」
「すること前提で何を言っている?」
「お姉さまはその気満々だけど?」
「気のせいだ。ノイエは今、旅行の初日に良く見せるハイテンション状態なだけだ。明日の移動時間だと電池が切れたように眠るんだぜ?」
「納得」
頷いて悪魔が箒に腰かけた。
「何にせよ。逃げる時はそこの宝玉とリスを忘れずに」
「居たんだ」
指摘されてニクの存在に気づいた。
部屋の隅で宝玉と一緒に並んでいる。身を丸くして寝ている。
「居るわよ。居ないと誰が宝玉運ぶのよ?」
「……ノイエの仕事だったよね?」
「最近は放棄しまくってるわよ」
「ノイエですから」
そんなノイエさんは現在新しい果物に夢中です。
「逃げる時は忘れないようにね。分かった。お姉さま?」
「これ美味しい」
「分かってくれて嬉しいわ。ならまた朝にでも」
ふわりと箒を浮かせてポーラに宿る悪魔が窓の外へと消えた。
これで今夜は2人っきりだ。なんて恐ろしい。
ん? どうしたのノイエ? たぶんそれは梨だね。みずみずしくて美味しいでしょう? 僕は少し酸っぱくて甘い感じのが好きなんだけどね。
そっちの大きいミカンはグレープフルーツだね。半分の位置で横に割って砂糖を軽く振りかけて食べると美味しいらしいよ。うん。実はその手の柑橘系は母さんが苦手だったからミカンぐらいしか食べなかったんだよね。食べ方は知ってるけど。
「こっちが良い」
ノイエさん的には梨の方が良いらしい。ただどっちも皮むき作業が面倒なんだけどね。
「はいはい。ノイエ。貸して」
「はい」
僕に梨を手渡したノイエが一緒に抱き着いて来た。
あぶな~。まだ包丁掴んでなかったから良かったとはいえ、少し間違ってたら大惨事が発生するよ? ノイエが受けた傷は……それでもだ。
「ノイエ。危ないでしょう?」
「大丈夫。怪我なら治す」
「……おひ」
金髪に黄色の瞳。何より褐色の肌。人はそれをリグと言う。
ノイエの色を変えたリグが僕に抱き着いて甘えて来る。
「どうかしたの?」
普段大人しいリグがここまで甘えて来るのは大変に珍しい。
悪い気はしないが……出来たらその気まぐれは本来の体の時にお願いしたい。他意はない。
「頑張った」
「はい?」
「頑張ったんだ」
僕の胸に顔を押し付けてリグがそんなことを言い出す。
あの~リグさん? 主語って知ってますか?
「でも誰も褒めてくれない」
「そっか~」
内容は把握できないが言いたいことは分かった。それは確かに辛かろう。
手を伸ばしてリグの頭を全力で撫でる。
「リグは大変頑張りました」
「ん」
「これからも頑張ってくれる?」
「今は嫌だ」
「ならその気になるまで頭を撫でる」
「……いっぱいしてくれたら考える」
「良し任せろ!」
昔は野良猫を撫でまくり、今ではファシーとノイエを撫でて培ったこの撫でテクニック。リグが満足するまで披露してやろうではないか!
ここか? ここが良いのか? と見せかけてこっちだろう? ほれほれ呼吸が荒くなって来たぞリグ? 巨乳は感度が悪いとか嘘だな。僕は知っているリグの弱点を!
「ちょっと待って!」
「頑張る気になった?」
「……違う意味に聞こえる」
決してそんな事実はありません。僕のリグが望むままに撫でているだけです。
こっちも寂しかろう? ほれほれ遠慮せずとも良いんだぞ?
「んっ……もう。君があれの相手をすれば良いんだよ」
あれ?
「あれとは?」
「マニカ」
「……」
一瞬意識が遠ざかったぞ? どうしてだ? それはね……聞きたくなかった名前を聞いたからだよ?
「やっぱり居たんかい!」
~あとがき~
色々と暴走していますが、主人公…ようやくマニカの存在を知りました。
作者と一緒で主人公はあれの存在を恐れていたのです。
理由? きっと主人公が語ってくれるさ。
そして本日三回目のワクチン接種をした作者さんの体調次第では土日の更新が怪しいです。
もし更新されなかったら熱出して倒れていると思ってください。
二回目の時は38度を軽く超えたので…今回はどうなる?
© 2022 甲斐八雲
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