書庫番
ある人物の物語を語ろうと思う。
あん? 今の僕の体勢は気にするな。極力ランプの光量を絞って雰囲気を出しているのは趣味ですが何か? 怪談話をする感じにして見ただけですけど? 下手なツッコミを入れるんなら語らんぞ?
だから妹の体を人質にするな。服を脱ごうとするな。新作の魔道具を手にするな卑怯者よ。
で、何を語るんだっけ? 正しいツッコミの仕方だっけ? 違う? またまた~。はいはい。
今日の話でしょう? フリューレでしょ? 本当に聞きたいの? 面白くないよ? ただ厄介なだけだよ? 判断をするのは確かにお前だけど……分かりました。前置きが長いですね。
フリューレ・フォン・イングリスと言う人物がユニバンス王国に居たんですよ。別名『書庫番』
はいここで質問です。書庫って何処のことを言っているでしょうか? 知るか馬鹿だと? ちょっとお前とは拳を交えた話し合いの場が必要らしいな?
まあ良い。殴り合いは後だ。
書庫っていうのは隠語なのよ。ならその隠語で隠している正体は何か?
ユニバンスは何故か昔から拷問に関しては物凄い技術が集約していてね。うん。きっと各国から拾い集めて来たメイド長……好奇心旺盛な女性が居たんだと思うんだ。その人物のおかげかとにかくユニバンスの拷問は過激で、白状しない人は死人だけって言われるほどらしい。
この話をとある変態娘とかには絶対に伝えないでね。たぶん城の中を駆け回ってその人たちを探し出すと思うから。ん? 僕も拷問官が誰か知らないよ。普段は普通の仕事をしていて、必要となれば拷問道具を手に姿を現す地下牢のヒーローです。捕まった人から見れば死神だろうけどね。
さて。実は話が脱線しているのですが、フリューレは拷問官ではありません。違うからね?
彼女の仕事は吐き出された情報を全て暗記することです。瞬間記憶能力だっけ? あの目で見た映像を写真のように記憶するってヤツだね。その特殊能力の持ち主らしいのよ。
そんな彼女は全ての犯罪資料を暗記しているわけです。
それ以外にも趣味でお城の書庫で司書の真似事をしていて、彼女は当時所蔵されていた書籍の全てを暗記しているとか。その中にはもう無くなってしまった本も存在しているので、実はあるルートから『フリューレ』に関しては生存の問い合わせがあったのよね。ぶっちゃけ陛下だよ。
処刑されたと言われている人物の中には国の中枢に関わっていた人物が複数いるの。
アイルローゼとは違った意味で関わっていた人物たちなので、居なければ居ないで困らないんだけど、居るのなら連れて来て欲しいと言う類なんだよね。
先生は死んでいても連れて来いって感じでしょ? 下手したら死体ですら魔法の材料になるんじゃないかと言い出しそうな人たちが居ますから。
まあそんなことを言う人たちは闇に葬りますけどね。
フリューレが求められている理由?
だからそんなに目を輝かせるなって。
まずは失われた本を丸暗記していることだね。それを複写できれば再版できるのよ。
本命は過去の犯罪資料だね。
その当時だと分からなかった事柄も今となれば明るみに出来るかもしれないし……実は迷宮入りしている事件も複数ある。その糸口になるかもしれないって話だね。
何で犯罪資料を残していないのかって……残していたらそれが別の問題になりえるでしょう? 悪用する人が出て来るかもしれないし、何より極秘資料だからね。公表されると厄介だから隠そうと考える人も居るはずなんだよ。
結果としてフリューレはその全てを記憶して隠していたわけだ。
はい? どうしてそんな人物を処刑したか?
簡単です。彼女は普段司書の真似事をしていたと言ったでしょう? お城での彼女の認識はそれだったのよ。書庫のお姉さんだね。
誰も彼女が犯罪資料を丸暗記している人物だとは知らなかった。
資料が必要な時は複数のルートを通じて彼女の元に依頼として届けられ、それを紙に書き写してまた複雑なルートを通して依頼主の元に届けられるってシステムだったのよ。
あの日以降にその依頼が滞るようになって……と言うか完全に断たれ、調査したらどうやらフリューレが書庫番だったと判明したわけだ。急いで所在確認をしたら彼女はあの日非番で、王都内で人を殺めたと言うことで捕らえられて処刑されていましたとさ。
馬鹿な話とか言わないの。存在を隠そうとしすぎて……それだけこの国の治安が良くなかった頃の話ってことだしね。今は本当に平和なんだと思うよ。
はい? どうして僕がフリューレの存在を隠すのかって? 君は馬鹿かね? 何だその拳は? やるなら表出ろや!
……拳の語らいは後にしよう。
というか隠すでしょう? 絶対にフリューレに複写の話が来るよ? 誰がするの? どうするの? また色々と言い訳を考えるとか嫌だからね。
そんな訳で絶対にフリューレの存在は隠します。
何より姉を机に縛り付けるようなことをノイエが望むと思う?
はいはい。僕はお嫁さんに対して甘すぎる駄目な夫ですよ。
知ってますから。言い訳しませんから。
話を聞き終えたのならもう部屋に帰れ! 猫に襲われる恐怖体験をしたコロネが、今頃枕を持ってポーラの部屋の前をグルグルしているはずだぞ。まだ幼いんだからちゃんと面倒見てやれ。
今日の所はコロネに免じて拳の語らいは後日にしてやるからさ。
ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸
「全く……」
「終わった?」
「終わりました」
「はい」
ノイエの太ももに頭を預けて彼女を見あげる。
白いナース服姿のお嫁さんによる膝枕だ。何この半端ない背徳感は? 本来ならお金を払わないと味わえないプレイな気がします。でも衣装があれば僕のお嫁さんは迷うことなくしてくれるのです。何よりお嫁さんの美貌は世界いちぃ~!
危なく何かを忘れて叫んでしまいそうになったよ。
「アルグ様」
「なに?」
「この服……好き?」
「うん。服もノイエも大好き」
「……はい」
フリフリとノイエがアホ毛を揺らす。本当にウチのお嫁さんは可愛らしい。
「さて」
「はい」
クルッと体勢を入れ替えて彼女の太ももに顔を押し付ける。
『ミニスカの スベスベの足が 気持ちいい』
字余り季語無し。お粗末様でした。
でもこれは実に素晴らしい。ストッキングが無くてもノイエの足がスベスベだから許せる。
「アルグ様」
「ん~」
「……服の意味は?」
「はっ!」
確かにだ。これではいつもと変わらない。
また体勢を入れ替えて太ももに頭を預ける。
どうも最近はおっぱい成分が強すぎた気がするから……太ももが恋しいんです。それとお尻か。
ノイエはどれも素晴らしいが部分部分ではノイエをしのぐ姉たちが居る。
何て怖い姉たちなのでしょう。
「ノイエ」
「脱ぐ?」
「脱がなくて良いです」
「着たまま?」
「まだ早すぎます」
「むぅ」
何故拗ねる?
ノイエのアホ毛が機嫌悪そうに揺れ出した。
「後でね。今日は少しお話をしたいのです」
「分かった」
後でという意味をノイエが思い出してくれた。
「ノイエの家族はみんな凄い人ばかりだよね」
「はい」
「やっぱり自慢?」
「……」
ノイエのアホ毛が綺麗な『?』を作り出した。
「凄い家族たちを褒められたら嬉しい?」
「……はい」
何となくで頷いたか?
「そんなノイエの家族を知りたいんだよね」
「?」
やっぱり首を傾げるか。
「全員のことを僕が把握していれば楽なんだけどね」
「……頑張れ」
「頑張る」
どうやらこれからも僕が頑張るしかないらしい。
「にゃん」
「可愛らしい猫さんだ」
「にゃん」
死屍累々の殺人現場を乗り越えて魔眼の深部に猫は来た。
殺人現場では小さいのに大きい子が陣頭指揮を執って混ざり合っている死体を選別している。それは治療というよりも検死だ。死体をあんなに目を輝かせて見つめられるのはあの巨乳ぐらいだ。
最も深い場所の1つをねぐらにしている女性の手招きを受け、猫は恐る恐る侵入すると……床に座って居る彼女の足に抱き着いて枕にした。
「本当に可愛いわね」
目を細め女性は甘える猫の頭を撫でる。
「幼い頃のノイエのようね」
それは女性にとって甘い甘い過去の記憶だ。
「どんな話が聞きたいの?」
「……人が、いっぱい、死ぬ、話」
「戦場から報告書でも読み上げれば良いのかしら?」
「にゃん」
どうやら正解らしい。
女性は小さくため息をついて苦笑した。
ノイエといい、この猫といい……不思議な話を求めて来て困る。
~あとがき~
ちなみに幼いノイエはドラゴンがいっぱい出る話を求めました。
フリューレはユニバンスの裏情報の全てを記憶している厄介な人物です。
過去の話だけど当事者はまだ生存していたりするから余計に厄介なんですよね。
故にアルグスタが存在を隠したい人物の1人なのです
© 2022 甲斐八雲
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