ホントウダヨ?

 ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸



「……何よ?」


 椅子に腰かけた赤髪のノイエが不機嫌そうに頬杖をついている。


 有言実行と言うことで今夜はノイエの膝枕を顔面で満喫すると言う贅沢を味わっていたら後頭部を肘でグリグリと。

 犯人は現在不機嫌を前面に押し出している先生だ。


「だから何よ?」


 僕の視線に先生が睨んで来る。だが屈しない。僕は右手に宝玉を、左手に網タイツとガーターベルトを持って先生にアイコンタクトを飛ばし続ける。


「……」


 プイっと先生は顔を背けてしまった。

 どうして?僕はただ先生のその素晴らしい足で踏まれたい……密着して堪能したいだけです。


「その宝玉はまだ魔力が回復してないわよ」

「そんな……馬鹿な……」


 前回ホリーが使っていた宝玉はあっちの枕の上に置かれている。こっちは回復していなの?


「悪魔~!」

「……何よ?」


 部屋の一部を剥がすようにポーラの姿をした悪魔が姿を現した。


 だからその光学迷彩を纏って部屋に忍び込んで居るなと言いたい。何をしている? その首から下げた魔道具っぽいそれは撮影道具だよな? それで何を撮る気でいた? こっちを見ろ悪魔よ。


「それでそこの拗ねちゃんをどうにかしろとかならお断りよ」

「違う。この宝玉だ!」


 右手に持つ玉を掲げる。


「回復が分からない!」


 それに無色透明の球体が並んでいると分からないのだよ。


「はん。外が分からなくても中だと分かるから問題無し」


 どういうことですか? 魔眼の中だと分かるの? 分かるんだ。


「こっちが分からんのだ!」

「気にする必要なんてないでしょ?」

「するわ!」


 分かっていれば心構えができる。誰が出て来るのは分からないけど誰かが出て来るかもしれないと……それはそれで精神を病みそうだな。


「用が無いなら私はこれで」


 告げて悪魔は姿を消した。えっと……姿を隠しただけで部屋から出て行ってないよね?

 そっと扉が開いてパタンと閉じた。本当に出て行ったのか? あの悪魔はそれぐらいの演技はする。


「用が無いなら帰るわよ」

「ちょっと待った~!」


 先生まで帰ろうとするから全力で阻止だ。

 慌てて駆け寄ってその足に縋りつく。


「先生っ!」

「……何よ?」


 顔を赤くした先生がプイっと顔を背ける。


「先生が足りません!」

「……」


 こっちに向け直された顔が汚物でも見るような目を。


「違った。先生の愛情が足りません。具体的に言うと足が……スベスベの美しい足が!」

「ノイエの足で満足しなさい」

「それも悪くないけど、でもやっぱり先生の足が恋しいです!」

「……」


 また頬を真っ赤にして先生が顔を背けた。


「大きな胸に鼻の下を伸ばしているくせに」

「それでもです!」


 否定はしない。だってあれはあれで良い物だ。


「なら大きな胸に囲まれて、」

「それは違う!」


 先生は勘違いをしている。何度も言っているにこの人はどうして胸に関して卑屈になるのだ?


「大きいのも小さいのも良いんです」

「……」


 だから疑うような目を目を向けて来るな。でしたら語ろう。


「良いですか先生? 僕は前から言ってますが……」


 雄弁に語った。小さな胸の良さを先生に語った。途中から顔を真っ赤にして『分かったから。もう言わなくて良いから』と抵抗する先生の両手を掴んで耳元で語り続けた。

 先生の胸はとても良い物です。確かに貧乳と呼ばれる類ですが……貧乳の良さを熱く語る。それと感度良好なのも大変に素晴らしいと力説する。


 僕の言葉から逃れるようと椅子から立ち上がる先生を僕は決して逃さない。

 じわじわと追い詰めて……気づけばベッドの上で先生を組み敷いていた。


「もう恥ずかしいから……止めて」


 ウルウルと涙目で先生が訴えて来る。


「分かりましたか?」

「分かったから」

「なら今度出てきたらこれを穿いてくれますか?」

「穿くから」


 先生が網タイツを穿いてくれることも了承してくれた。


「で、先生」

「……」


 組み敷いている先生がきつく目を閉じている。


 あの~出来たら瞼を開いてこっちを見てくれますか? 何を怯えているんですか?

 せっかく先生が出て来てくれたから話し合いたいことがあるんです。だからこっちを見なさい。


 知っていると思いますが今度大陸の西部に行くんですよ。だから転移魔法のことで……先生? こっちを見てとは言ったけど、どうしてそんな凶悪な表情で睨むんですか?


「あん?」

「何でもないです」


 静かに組み敷いていた先生の上から退く。

 体を起こした先生は乱れた衣服を元に戻すとまた不機嫌そうな感じを漂わせる。


「あの~。先生?」

「何よ?」

「だから転移魔法の件で」

「あん?」


 確かに転移魔法は先生の専門じゃないけど。

 怯えながら相手を見つめる。


「……最近はずっとグローディアと転移魔法の研究をしていたのよ」

「はい?」


 長い沈黙と睨みの後に先生がため息交じりで口を開いた。


「グローディアの怖い所は潔さ。普通誰も進まない道が目の前にあると進んでいく。理由は簡単。だってその方が新しい何かと出会えるかもしれないと……本当にユニバンスの血筋って怖いもの知らずなのかしらね?」

「あれは馬鹿で頭の中の何かが切れまわっているからね」


 あの狂った従姉などいずれ始末してやる。


「でもその狂いが新しい道筋を作るのよ」

「先生の方が優秀でしょ?」

「たとえ優秀でも私はあれのような暴挙は出来ないわよ」

「ふ~ん」


 興味が無いから気の無い返事をする。


「で、どんな魔法を作ったの?」

「簡単よ」

「簡単?」

「ええ」


 呆れたように先生がため息を吐いた。


「ゲートってあるでしょう?」

「ありますね」


 ウチからは見えませんが結構近い場所に存在しています。


「あれに転移する魔法よ」

「はい?」


 僕の頭が悪いのかな?


「ゲートは転移する魔道具だよね?」

「そうね」

「で?」


 僕の質問は間違っていないはずだ。


「簡単に言うとこの場所からユニバンスの北に存在する門に飛ぶ魔法よ」

「……」

「そこから普通に出て来れるのよ」


 あれ? 恐ろしい説明を受けている気がするぞ?


「つまりどこからでもあの門へ飛ぶの?」

「違うわ」

「はい?」


 先生がため息交じりで説明してくれる。


 グローディアの馬鹿とその魔法について詰めていると悪魔がやって来たそうだ。そして話し合いが行われ、門の基本設計に携わった三大魔女の1人がその情報を提供した。

 結果としてその魔法を使用すると一番近い門に飛べるらしい。そしてその門から吐き出される。


「あ~うん。僕が間違っていたら指摘して欲しいんだけど……門に飛んで門から出る。で、そこには門があるからユニバンスの門に移動できるよね?」

「ええ。仮にノイエの魔力が切れてても移動可能よ」


 そこは王族の僕の地位が実力を発揮する。

 最悪ツケでユニバンスに飛べる。使用代金は後で精算しますからが通じるのだ。


「何その魔法?」


 ズルと言うかインチキのような魔法だ。


「当初はノイエの魔力で複数の人間を逃がす魔法を考えていたのよ」


 その思考が曲がりに曲がって大暴走して……結果としてそんなチート魔法が誕生したらしい。


「普通に魔法を作ろうと努力している人たちに謝って欲しくなるな」

「そうね」


 魔女と呼ばれる先生ですらあの暴走従姉には思うところがあるらしい。


「で、その魔法って完成してるの?」

「ええ」


 魔法の元を作ったのは馬鹿従姉だが、完成させたのは先生らしい。

 本当にこの人が居るからこそあの従姉も暴走できるんだな。


「つまり先生が一番ってことだ」

「そんなことは無いわよ」


 だからどうして先生ってば時折こう自己評価が低くなるのかな?


「先生はもっとこう胸を張ってですね」

「胸が無いから張らないと」

「あ~もう」

「ちょっと!」


 先生を抱きしめて今一度組み敷く。


「先生は美人で魔女で足が綺麗で……」


 また耳元で彼女の良さを囁く。

 弱々しく『だからもう止めて……』と言い出すまで囁き続けた。


「もう……ばか」


 顔を真っ赤にしてそんなことを言う先生が余りにも可愛い。


「馬鹿です。だからアイルローゼが傍にいないとダメなんです」

「……知らない」


 拗ねる彼女が可愛いから結局今夜も頑張ってしまう。

 だから毎晩頑張ってはいない。ホントウダヨ?




~あとがき~


 最後までアイルローゼの名前を出さないように書いてみましたw


 グローディアはたぶん天才の類なので次から次へと魔法を作り出します。

 結果としてその中にとんでもなく恐ろしい魔法が出来上がったりするのですが…本人は全くの無責任です




© 2022 甲斐八雲

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る