ウチにはあんな人材しか居ないのかね?

 ユニバンス王国・王都王城内中庭



 周りの野次馬など気にしない。

 僕は悠然と椅子に腰かける。完全に見世物感覚で野次馬共がこっちを見ているが、今から行われることは見世物だ。


 ウチの問題児がちょっと西部に行っている隙に問題を起こしやがった。だから裁きが必要である。ノリは大切だと言うことでポーラに頼んで畳二畳分ほどの白い玉石を敷き詰めて貰った。


 僕はネタにお金を費やすことに抵抗は無い。そしてポーラの中の悪魔はこの手のネタは大好物だ。想像以上に確りと場所を作った悪魔と硬い握手を交わし、本日のメインイベントを開始する。


「モミジとやらを連れてまいれ」

「はっ」


 ノリノリのポーラの姿をした悪魔が、町娘スタイルのモミジさんを連れて来た。


 着物姿のこの人を見るのも久しぶりだ。

 派手ではない落ち着いた作りの着物を纏ったモミジさんの姿に野次馬たちが湧く。

 この変態は見た目だけは一級品である。そして胸が大きいので巨乳好きの目がそこばかり見ている。


 普段ポニーテールにしている長い髪を解いているので整った顔が隠され神秘的に見える。

 まあ姿かたちなど彼女の現状を見れば幻滅する。上半身に確りと縄を巻かれた罪人スタイルだ。


 玉石の上にゴザは無く、仕方なく似た色の布が敷かれている。

 その上に罪人がちょこんと正座した。


「裁きを言い渡す」

「裁いてないのにっ!」

「変態に裁きなど勿体ないだろう?」

「裁いてくださいっ! 出来ればこのままこの場でこの服を脱がしてっ!」

「誰か~。牛刀持って来て~」

「本気で肉にする気っ! ハァハァっ!」


 正座など数秒で存在を忘れ、布の上で転がる馬鹿はM字開脚をして腰を振る。

 もうこのまま三枚に下ろしてドラゴンの餌にでもしてやれ。


 視線で悪魔に指示を出し、変態をちゃんと座らせた。

 野次馬共が夢から覚めたような顔をしている。現実を思い出してくれた様子だ。


「じゃあ取り調べから裁きまで一気に行くね~」

「投げやりっ!」


 投げたくもなる。


「ここに居る馬鹿な変態は、公共の場所で発情し許婚に対し暴力を振るった」

「違います! ちょっと良い気分になってしまって彼を押し倒して馬乗りになっただけです!」

「挙句相手のズボンを引きずり降ろし下着にまで手を掛けた」

「違います! 彼の彼が自由を求めていたような気がしたので!」

「そして止めに入った警邏の兵を殴り飛ばし、兵のズボンと下着を脱がした」

「事実です! ちょっと彼のとは違うモノを見たくなって!」


 野次馬たちがドン引きだ。


 認めたよ。大声で。


「でも決して手は出していません!」

「殴り飛ばしてるやん」

「そんなの私の故郷だと挨拶です」

「嫌すぎるわ」


 サツキ村はスパルタ王国か?


「で、そんな失礼で残忍なことをした君は……脱がした兵になんと告げた?」


 変態が暴走するのは別に良い。今回はそこが問題なのだ。

 国軍から正式に苦情が来ているし……こっちとしては公開の場でこの馬鹿を叱らなければいけない。別に執務室で叱っても良いんだけど、それだと直ぐに仕事に戻ることとなる。

 あんな書類の山を相手に仕事などしたくはない。

 ちょっと出かけただけでどうしてあんなに溜まるのかな? 嫌がらせか?


 僕が考えごとをしている隙に……モジモジとしていたモミジさんが重たい口を開いた。


「えっと……『緊張していますか? 縮み上がっていますね』です」


 野次馬の野郎共が自然と自分の股間に視線を落とした。


「ちゃんと言葉を選んで丁寧に言いました!」

「何でも丁寧に言えば良いって物じゃありません」

「だって事実でしたし!」

「事実も言ってはいけない時があるんです」


 公然の場でそんなことを告げられたその兵は泣きながらその場を逃げ出し、軍を辞して故郷に帰ったらしい。見送った人たちが言うには『今にも死にそうなほどの哀愁を漂わせていました』とのことだ。

 それを聞いた僕は急いでお詫びの品を送ったよ。謝罪の書状も添えて。


「お前が変態なのは仕方ないとして問題を起こすな。そして相手の心を抉るな」

「だったらアルグスタ様ならそんな時に何て言うんですかっ!」


 顔を上げて叫んで来る相手の言葉に軽く首を捻る。

 僕は男だ。どこかの変態のような残酷なことは言わない。


「大丈夫。まだ育つ。まずは怪しい薬から試してみよう……かな?」


 いかがわしいエッチな本の怪しげな薬を買ってみようかと言っていたクラスメイトも居た。

 あれって買ったのかな? 結果だけが気になるんだけど……どこかの悪魔が肩を竦めて首を振っているから効果は無いのかな? ところで女のお前がどうしてそれを知っている?

 こっちを見ろ悪魔。後で詳しい話を聞こうじゃないか。


「そっちの方が酷いと思います!」


 そうか?


「人は諦めた瞬間にそこで終わりなのです。諦めなければ育つかもしれないのです」


 野次馬の最前列に居るチビ姫が全力で頷いている。何かを言いかけて……今日は生身を晒していない長身のメイドさんモードのお付きの人に捕まった。

 暫し待たれよメイドさん。今からオチを言いますから。


「ただ育つとしてもそれは芽がある人に限定されます。どこかの王妃様のように芽が出ないどころか種が腐っている人も居るので……時と場合ですけどね」


 野次馬の視線が全てチビ姫に向けられ、両眼を見開いてウルウルと涙目にした彼女は……出来たメイドさんだ。何も言わずにこの馬鹿から離れて行ったよ。

 そのままその馬鹿に仕事でも与えておいてくださいな。


「で、何の話をしていたんだっけ? ああ。君の痴態か」

「痴態だなんて言葉が酷いです!」


 馬鹿な変態がまだ自己弁論を諦めない。


「その後立ち上がり逃走しようとした許婚を追いかけ、改めて押し倒して襲い掛かったとある。事実でしょうか?」

「……」


 僕から視線を逸らしてモミジさんが苦しそうに唇を嚙む。


「言って楽になりなさい」

「……事実です」

「良し。この馬鹿を牢屋に。飯抜きで3日間ほど」

「だから酷くないですかっ!」


 どの辺りが?


「その場で許婚を襲った君の行為の方が酷いだろう?」

「だって仕方なかったんです! 彼ったら嬉しそうに『ようやくご両親に挨拶に行けますね』って! そんなに早く私と一緒になりたいのだと知ったら溢れ出る感情が止まらなくなって!」

「君が止まらなくなったのは性欲でしょう?」

「同じ喜びの感情です!」


 言い切ったよこの変態は。

 何人か頷いている野次馬が居るんですが……この国の倫理観は大丈夫か?


「で、発情した君はその場で許婚を美味しく頂いてしまったわけですね?」

「頑張りました! 3回ほど!」

「大声で言うな。それと公然の場で3回もするな」

「燃える心が止まらなかったんです!」

「腰がだろうが……馬鹿娘」


 本当にこの馬鹿は。


「で、君が頑張ってしまったせいでそれを見ていた子供たちが帰宅するなり母親に尋ねたそうだ。『今日お母さんのように男の人に跨って泣かせている女性が居たんだけど……あれって犯罪なの?』と」

「はぅっ!」


 馬鹿が身を大きく振るわせる。大きな衝撃を受けた感じだ。と言うか受けろ。


 この変態娘は公然の場で保健体育の授業を実演してしまったのだ。

 それが今回の問題の1つでもあるのだ。


「それはそれはキラキラとした目で子供が訪ねて来たとかで、物凄い量の苦情がね」

「……」


 変態が俯いて力尽きた。

 白昼堂々とそんなことをした馬鹿に付ける薬はない。


「3日間の牢屋生活が終わったら、ほとぼりが冷めるまで実家に戻ることを命じます。と言うか僕らが向かう前の先触れとしてアーネス君を連れてさっさと行け」

「……はい」


 変態が大人しく罪を認めた。


 うむ。


「これにて一件落着」


 その他の問題が数多く残っている気がするが、この馬鹿は雨期の間は実家に戻って貰って謹慎させるように陛下からの指示が出ているから仕方ない。


 僕の仕事がまた増えたよ。




「終わった?」

「終わりました」


 ノイエが顔を上げて声をかけてくれる。


 ポーラとコロネに引っ立てられて変態が牢屋へと移動して行った。

 まあモミジさんが暴走したと言うことでアーネス君は罪に問われない。問われないように手配したからだ。彼は被害者だ。


「ウチにはあんな人材しか居ないのかね?」

「ん?」


 モリモリとお肉を食べているノイエが首を傾げる。

 その姿が愛らしいので頭を撫でてやり……僕は苦笑した。


 ノイエの中にもモミジさんクラスの変態が居るからな~。何も言えない。




~あとがき~


 目を離した隙に誰かしらが問題を起こす。

 それが対ドラゴン遊撃隊の凄いところですw


 準備を進めて…次は西部へ移動です。ただし準備の方がね~




© 2022 甲斐八雲

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